記事

「ひきこもったまま出馬し落選」あきらめて楽しんでる41歳男性の半生

2/2

死ぬしかない、そう思ってた

 もうひとつきつかった時期は、30歳をすぎてから母親が亡くなったときです。家のなかで仲の悪い父親と二人きりになったということもあったし、年齢のこともあって精神的には追い詰められていました。

 当時、俺は福祉作業所に通いながら、なんとか自分で働こうとしていました。だけど、うつ病やパニック障害もあって、全然、続けられない。

 派遣の仕事もしたけど、労働環境も悪かったんです。人材派遣会社「グッドウィル」で働いてましたが俺には「バッドウィル」(笑)。

 そもそも「30歳をすぎてひきこもりなら死ぬしかない」とさえ思っていたんです。10代のころの不登校なら、まだ巻き返せるけど「30歳でひきこもりは現実的に考えてまずいぞ」と。

――40歳をすぎた今は、楽観的になりましたか?

 いやあ、どうだろう。今でも、調子が悪いときは1日に20時間くらい横になっているときがあります。夢かうつつかの状態がずっと続いているような感じです。

 不登校の時期も合わせると、俺はたぶん23年~24年くらいひきこもっている。人生を損していると思うこともありますが、「あきらめれば道は開ける」とも思っています。

 失うものがないから、それだけ行動ができる。たくさん行動していたら、確率論的にも、何かにつながる可能性が高くなっていきます。

 何もない一日がくり返されるというのは、俺にとってはとてもきついことです。じっとして一日がすぎていくよりも、なんらかの活動をしていれば、人生の糧になるなと感じています。

 失敗しても、「あ、これは話のネタになるな」と思えたら強いですよね。だって自慢話よりも失敗話のほうがウケるでしょ。

 選挙のことも、すごく疲れたけど、「ひきこもりが立候補した」こと自体はネタになりました(笑)。

 ミクロ(微視的)で見れば出馬は失敗だけど、マクロ(巨視的)で見れば成功と言える。一回の行動よりも、人生全体で見られたらいいのだと思います。

 なので「あきらめれば道は開ける」と思っている真意は、一日というミクロではあきらめるけれど、一生というマクロではあきらめない、という感じかな。

――ミクロな話になりますが、今はどんな毎日を送っていますか?

 ひとつは、手のひらサイズの「豆本ドールハウス」づくりをしています。ブログで俺の記事を読んでくれた人が、ネットで声をかけてくれて、制作を手伝うようになりました。

 不定期で仕事場に出かけていき、内職をする感じで、お給料も出ます。インスタグラムのおかげで有名になって、世界中の人が買ってくれるから、あらためて「IT革命はすごいな」と思った。

 仕事にかぎらず、生活の軸になるものがあると、ペースがつくれるのですごしやすくなります。完全に自由だと、行動する力も起きてこないから、「ゆるやかな強制が必要」というのが俺の持論。

小さく稼ぐ

 それと、居場所で知り合った人との縁をきっかけにして、数年前から「セドリ」をやるようになりました。

 セドリというのは、衣類や本などを安く仕入れて、別のところで売る転売業のこと。古物商の許可証もとっています。意識してみると、けっこういろいろ見つかるんですよね。

 リサイクルショップなどではスニーカーが2000円で売っていますが、品番を頼りにネットで検索してみると8000円で取引されていることがありました。

 リサイクルショップで仕入れてネットで売ったら6000円の儲けになりますよね。セドリを始めたときは、ひきこもりの状態だったので、社会と接点を持つためのリハビリとしてもけっこう役に立ったなと思います。

 セドリを教えてくれたのがおもしろい人で、ひきこもり向けの居場所に、空っぽのスーツケースで来るんです。俺が驚いて「何これ?」と聞いたら、「帰りにリサイクルショップに寄って、仕入れをしながら帰る」と言う。

 「うわぁ、めちゃくちゃカッコいい」と思いました。転売業なんてたいへんで、俺にはとてもできないと思っていたけど、やってみたら意外とかんたん。リサイクルショップのセールの日を狙って、たくさん買って帰るんです。

 自転車で何十キロも移動するから、たまに筋肉痛で動けなくなりますが(笑)。

 いつかやってみたいのが「遊牧民セドリ」。旅行をしながら安いものを買って、自宅にダンボールで配送するんです。そうしながら長く旅を続けていく。ちょっとした冒険みたいな感じに憧れています。

――「正社員になるべきだ」というプレッシャーを、感じることはありませんか?

 今も昔も、まったくないです。20歳をすぎたころに経営コンサルタントの大前研一さんに影響を受けたせいかもしれません。

 大前さんの本を読んで俺はすごく鼓舞されました。世界中で起業する人がいる時代に、正社員がどうのこうのなんて、「なんてスケールが小さいんだろう」って。

横道にそれたら生きやすく

 もっと言えば正社員へのプレッシャーを受けないために、みずから横道にそれているのかもしれません。

 会社員生活をしていると、世間からあれこれと評価を受けてしまう。だけど選挙への出馬とか、「遊牧民セドリ」とか、人と比べられないことをしていると、土俵がちがうので評価ができない。

 世間と自分の生き方のレイヤー(層)を、別のものにするという感じです。ちがう土俵で生きて、人生の住み分けができるようになってから、俺は少しだけ生きやすくなったと思います。(聞き手・酒井伸哉)

【プロフィール】
(さとう・まなぶ)小学3年生のときに不登校になり、20年以上ひきこもる。また、ひきこもり支援のために市議選に立候補した。「note」https://note.mu/buriko555

「不登校新聞」マガジンの読者登録はこちらから

あわせて読みたい

「ひきこもり」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    各国比較 100万人当たり死者推移

    LM-7

  2. 2

    テレ朝番組のコロナ報道にあ然

    小林よしのり

  3. 3

    志村さん巡り千鳥大悟に心配の声

    AbemaTIMES

  4. 4

    党が機能しなくなった政権の惨状

    門田隆将

  5. 5

    戦隊レッド俳優の感染公表は英断

    常見陽平

  6. 6

    マスク推奨すべきか 欧米で論争

    飯田香織

  7. 7

    「大企業の倒産」が招く負の連鎖

    大関暁夫

  8. 8

    志村さん死去 TV局は徹底検査を

    渡邉裕二

  9. 9

    補償なく自粛を要請 著名人怒り

    女性自身

  10. 10

    非常時も平社員に判断任せる日本

    非国民通信

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。