
今回は、ひきこもりながら市議会選挙に出馬した、さとう学さん(41歳)のインタビュー。精神的に追いつめられているときは「0か100か」の極端な考え方になりがちだが、さとうさんは、無職か正社員かといった枠に縛られず、たくさんの「横道」にそれていく生き方をしてきた。ユニークなライフスタイルはどこからくるのか。その秘訣をうかがった。
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――さとうさんは、2017年に埼玉県の入間市議会議員選挙に出馬されました。どのような選挙戦だったのでしょうか?
当時は、無職のひきこもり状態のまま選挙に出ました。体調もよくなかったので、選挙期間中はほとんど寝込んでいました。
活動ができたのは実質2日くらいで、当然ながら結果は落選。ですが、当選ラインの半数以上の票がとれたおかげで、供託金は戻ってきました。
近所の人からは、「知名度が上がったので、今度出馬したら当選するよ」と言われています(笑)。
――顔や名前を出して活動することに、不安はなかったのですか?
まったくなかったです。そもそも地方選なので話題になるとも思いませんでした。たとえ有名人でも、1年前の不祥事なんて、誰も話題にしなくなるでしょう。
それなら俺ごときが何をしようが、「失うものは何もない」と思っていました。そんなふうに考えて、自暴自棄になったらいけませんけど、よい方向にいけば強みになることだと思います。
今の日本って「正社員や公務員にならないといけない」という重圧で、すごく窮屈ですよね。
「失うものは何もない」くらいの気持ちでいるほうが、選挙に出たり起業したりして、新しい挑戦ができると思います。
思い立ったら失敗しよう
世間には評論家みたいな人たちがいて、「変わったことをやっても、どうせ失敗するよ」と言うんですよね。
それはたしかに、そのとおりだと思います。実際に9割は失敗するから、世間の評論家は「ほら見たことか」と言えてしまう。
ですが、失敗の回数を増やさないと、成功もできない。失敗したときに、「失敗イコール何も考えてない人」ではなくて、「失敗イコール挑戦した人」みたいな見方になったら、みんなハッピーになれると思うんですけどね。
なので俺は、「思い立ったら失敗しよう」と思っています。「〇〇ができなかった」という減点主義よりも、「〇〇ができた」という加点主義でいきたい。
もちろん、それでダメージを受けるときもありますが、そのときはそのときで、しかたがないですが(笑)。

――ユニークな活動を多くしていると思うのですが、人生で一番苦しかったのは、いくつのときですか?
やっぱり不登校になったときでしょうか。小学校3年で不登校になり、親がむりやり学校に行かせようとしていた時期です。とくに父親は厳しかったです。
朝は自分の出勤時間が来るまで、俺の耳元でずっと目覚まし時計を鳴らしけてきました。会社から帰ってからも、俺を正座させて、「明日は学校に行きます」と言うまで寝かせませんでした。
あるときは、夜中に車で遠くまで連れて行かれ「通学しないと置き去りにするぞ」と言われたこともあります。8歳の子にとってそれは恐怖だから「行きます」と約束するしかない。
だけど朝になったら、やっぱり行けないので、父からは「嘘つき」と叱られる。地獄の日々でしたね。
それがなくなったのは、俺が目に見えて精神を病んだからでした。手洗いが続く強迫性障害や、幻覚の症状が出てからは父親も登校圧力をかけなくなりました。