- 2019年10月02日 11:52
【読書感想】本人に訊く 壱 よろしく懐旧篇
2/2『男たちの真剣おもしろ話(1983年)』の回より。
目黒:えーっつ、次は椎名がホストになって各界の著名人を呼ぶという対談集ですね。クレジット会社のPR誌に連載したもので、実業之日本社から1983年2月に刊行。おそらく椎名の唯一の対談集だと思うけど、いきなり結論をいえば、椎名は対談に向いていない。
椎名:面白くないか(笑)。
目黒:いや、面白くないだけじゃない。ちょっと今読むと恥ずかしい。それは仕方がないんだ。椎名はデビューしたばかりなのにビッグネームが対談の相手なんだ。すると、どうなるか、媚びているとまでは言わないけど、それに近いニュアンスの発言が頻繁に出てしまう。相手を必要以上に持ち上げるとかね。たぶん椎名には媚びるっていう意識はなかっただろうけど、そういう印象を与えてしまうんだ。
椎名:全然おぼえていないなあ。
『長く素晴らしく憂鬱な一日』(1988年)の回より。
目黒:それでは問題の『長く素晴らしく憂鬱な一日』です。「ブルータス」に連載した小説。椎名はおぼえているかなあ。この小説が連載中に、椎名と会うたびにおれ、「あんなにつまらない小説は早くやめたほうがいい」って言ってたの(笑)。あの頃はしょっちゅう会ってたから、何度も言っていたんだと思う。そしたら、気がつくと終わってて、あれ、どうしたんだろうと思って聞いたら、お前があんまりやめろやめろと言うから、やる気がなくなっちゃったよって。
椎名:おぼえてないなあ。
目黒:ただね、1987年の作品で、それ以来読んでないから、今回再読する前に、もしかすると今ならまた違った感想を抱くかもしれないって思ってたんだ。ところが、やっぱりつまらなかった(笑)。
こういう目黒さんの厳しい意見に対して、椎名さんは「うーん」と唸って絶句することはあるものの、怒ったり言い訳したりすることはなく、目黒さんの評価を聞いているのです。
『水域』というSF小説への目黒さんの高評価については、本当に嬉しそうですし。
かなりの分量なのに、こういう率直な言葉で書かれているので刺激的だし、あらためて再読してみたくなった作品もたくさんありました。
僕が大好きな『パタゴニア』を目黒さんが褒めているのも嬉しかったのです。
そして、いまや「大家」となった椎名さんと目黒さんが、お互いに言いたいことを言い合える関係を続けていることに、「昔からの仲間って、やっぱり良いものだなあ」と思うのです。
椎名さんの代表作のひとつである『岳物語』について、モデルに「なってしまった」椎名さんの子ども・岳さんが書いたエッセイも収録されています。
「カッコいい男」であり、「お父さんにしたい人」だった椎名さんなのだけれど、いちばん大事だったはずの実の子の岳さんとは、難しい関係の時期もあったそうです。
『岳物語』の回より。
目黒:あと、印象深いフレーズは野田(知佑:カヌーイスト、作家)さんの解説の中にある「いい父親であることは難しいが、いい小父さんであることはやさしい」。これは実に名言。本当にそうだよなあと納得だね。たぶん椎名もよその子に対しては、野田さんみたいにやさしいと思うんだ。逆に、もし野田さんに息子がいたら椎名みたいに横暴になって怒ったりしてね(笑)。
椎名:そういうもんだよな(笑)。
岳さんは、野田知佑さんのことをこんなふうに書いています。
当時僕は、学校での退屈な数か月間よりもはるかに多くのことを、野田さんと、そして犬ガクと共に過ごした山や川での数日間で学びました。
野田さんは、話を聞いてくれる人でした。僕の、子供の、くだらないたわ言を真剣に聞いてくれる大人でした。
その頃から、僕の父親は海外に出かけることが多くなり、野田知佑さんという人物は僕にとっての、もう一人の父親のようでもあり、新しい遊びを次々に教えてくれる親友のようでもありました。
「理想の父親」というイメージがある椎名誠さんでも、自分の子どもには、いや、自分の子どもだからこそ、うまく関係を築けないところがあったのです。
「著作を振り返る本」なんだけれども、椎名誠という人生を振り返る内容になっているんですよね。
一時期でも椎名さんのファンだったことがある人には、ぜひ、読んでみてほしい。
パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)
作者: 椎名誠
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