本人に訊く 壱 よろしく懐旧篇 (集英社文庫)
作者: 椎名誠,目黒考二
出版社/メーカー: 集英社
発売日: 2019/08/21
メディア: 文庫
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Kindle版もあります。
本人に訊く <壱> よろしく懐旧篇 (集英社文庫)
作者: 椎名誠,目黒考二
出版社/メーカー: 集英社
発売日: 2019/10/04
メディア: Kindle版
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内容紹介
「この本アナタが書いたんだよね」「そうでしたっけ?」
世にも珍妙な取り調べがはじまる
デビュー作『さらば国分寺書店のオババ』から『はるさきのへび』まで78作品の裏事情。
椎名誠全著作検証シリーズ第1弾デビュー作『さらば国分寺書店のオババ』から、青春小説の金字塔『哀愁の町に霧が降るのだ』、SF小説の傑作『アド・バード』『武装島田倉庫』など、94年までに発表した78作品の創作の裏事情に、盟友の文芸評論家・目黒考二がスルドク切り込むおもしろすぎる対談集。コワモテ高校生時代、敏腕商業誌編集長時代に書いた小説や秘蔵写真など、おまけ収録も盛り沢山。椎名誠全著作検証シリーズ第1弾。
椎名誠さんが、これまでの全著作を長年の盟友である目黒考二さんとの対談形式で振り返る、というシリーズの第一弾です。
単行本が出たとき、「面白そうだけど、全著作となると、振り返りを読むのも大変そうだな……」と、結局、スルーしてしまったのを思い出しました。
今回、文庫化されたので、その最初の巻を読んでみたのですが、ものすごく面白かった。
椎名誠さん、目黒考二さんの作品や『本の雑誌』をずっと読んできた僕にとっては、永久保存版になりそうです。
長年読み続けてきただけに、「この小説を読んだときは大学生だったんだよな……」とか、「そういえば、旅先でこれを読んだな」とか、自分自身のこともあれこれ思い出してしまいます。
椎名誠さんはテレビのドキュメンタリーに出たり映画をつくったりもされているのですが、目黒さんが、映画制作には反対していた、というエピソードも出てきます。
目黒さんは、映画に時間をとられるより、椎名さんにもっと小説を書いてほしかったみたいなのです。
この本の面白さは、作家であり、写真家、映画監督、冒険家でもある椎名さんの著作を、目黒さんが長年の盟友として、そして書評家として、率直に評価して、椎名さんに直接ぶつけているところなんですよ。
僕もいろんな作家のライナーノーツをみてきましたが、ここまでぶっちゃけているものは初めてです。
『わしらは怪しい探検隊』(1980年)の回より。
目黒:『わしらは怪しい探検隊』の続きなんだけど、これ、実はところどころ椎名の創作だよね。たとえば冒頭、こういう一文で始まるんだ。
「『神島にしようじゃないの』
と、その年の春、陰気な小安は早くも二級酒四合をぐびりぐびりと飲み干し、板わさ、もつの煮込み、もろきゅう、とったところをあらかたつつきおわったところでぼそぼそと陰気に言った」
つまり、探検隊の夏の遠征先を決める会議を、その数ヵ月前に開いたということなんだけど、こんな会議、やったことないでしょ?椎名:やったことないな。
目黒:ほら、創作じゃん。
椎名:あのなあ、創作っていうと作りごとのように聞こえるから、その言い方やめてほしいんだよな。歴史に残るドキュメンタリーじゃないただのアンちゃんたちのバカ行動だから正確に書いてもしょうがないじゃんか。わかりやすい話の順番として書いてんだよ!
目黒:それはまあそうだね。
椎名:話に面白く入ってもらおうというな。探検隊といっても日本を代表してどこかに挑む、というわけじゃないんだから。
目黒:わかった。じゃあ訂正しておこう。行き先は全部、椎名が一人で決めていたんでしょ?
椎名:そうだな。
こういう話って、当時、リアルタイムで聞いていたら、僕は「なんだ作り話なのか……」と、少し興ざめしていたような気がします。『怪しい探検隊』がノンフィクションやドキュメンタリーだとは思っていなかったとしても。
「事実のなかに、面白くするためにフィクションを織り込む手法」についての世の中や読者の考え方も、1980年と現在では、かなり変わってきているのです。
目黒さんは、これ以外にも、椎名さんの著書のなかで事実と異なったり、無かったことが書かれていたりするところについて、細かく指摘しています。
椎名さんは自分の著書をほとんど再読していない、という事実も、対談のなかで明かされていて、驚いてしまいました。
そうか、そんなに「再読しない」ものなのか。