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渡辺謙主演NHK『君は天才!~渡辺謙がコメディーに挑戦!~』が悲惨すぎる

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

BSではすでに放送済みだったらしいが、筆者はこれをNHK総合テレビで視聴。

もちろん「渡辺謙がコメディ」という点に惹かれたからです。・・・と言いたいところですが「惹かれた」というのは半分ウソで、「ひどいことになっているのではないか」と心配したからです。

予想通り「痛々しさを感じられるほど笑えなかった」。その理由を上げてゆきます。

まず、台本の設定がダメ。(演出脚本はともに「大人計画」の細川徹さん)

広告代理店の、口先だけでのし上がってきたような営業部長、渡辺謙。同じチームの部下やクライアント、ライバル会社、CM出演俳優など周囲をまきこんで、行きあたりばったりの仕事で片付けようとするコメディ。昼間見た番宣では「コント」と言っていましたが、本来のタイトルは「コメディ」でした。「コメディ」でよかった。「コント」なら、もっと筆者は腹が立っていました。

さてこの設定、ありきたりすぎます。部下は典型的な帰国子女に働きたくない新人、それをまとめる熱血上司の渡辺。筆者はこれだけで見たくなくなりますが、まだ、望みがあります。これらの芝居でのキャラクター作りを丁寧にやれば、笑える要素は出てくる。設定がありきたり(オーソドックス)だからこそできる笑いの芝居……ところができていませんでした。寒い。

これは、演出家の責任です。脇役どころか主演の渡辺謙さんに全く芝居をつけていない。渡辺さんの芝居はとにかく全編「大声を出せばなんとかなる」という芝居。筆者は、渡辺さんはほかにもたくさんのバリエーションが出せる役者さんだと思います。ところがパターンは「大声一つ」。

ここは平板に言えば笑いになるのにと思うところでも大声。これは演出の指示がないからです。普段はやらない「渡辺謙がコメディー」というのがこの番組のうりなら、コメディの技法を何故教えないのでしょう。教えられないのでしょうか。それも大役者二芝居をつけるのが怖かったのでしょうか。

それとも、次のようなことも考えられます。

「よし、このコメディの演技プランは役者にすべてを任せてみよう。下手にいじるより、そのほうがうまくいく」

これはこれで、コメディの演出法の一つとしては素晴らしい考えです。ですが、このときは台本が面白くてはいけない、ということをこの番組の演出家は知らなかったようです。演技を役者に任せるときは面白い台本を書いてはいけません。この表現は誤解を生むかもしれませんね。書いていいのは本当に面白い台本(これはなかなか書けません)興味深い台本(人生で3回位書けますか)こう動いていくだろうなを裏切る台本などです。

[参考]TBS『あさチャン!』台風中継が凡庸以下だったわけ

ところがこの番組の作家(演出家と同じ人です)が書いたのは、最も、書いてはいけない「おもしろそうな台本」だったようです。おもしろいと、おもしろそうは違います。「おもしろそうな台本」は、「おもしろくない台本」より害悪です。もし、筆者が渡辺謙さんのマネジャーなら「渡辺謙がコメディー」との意欲だけ頂いて、出演はお断りすることになる台本です。

台本が「おもしろそうな台本」だったことは見て想像がつきました。「スポンサーのワガママでタレントを撮影現場に来てから代えざるを得なくなる」「自分が友達だと見栄を張った芸能人が同じ飲み屋に来て困る」一見、面白そうな設定ですね。でもこれらは芸人がやっても難しい設定です。一応ドラマなのだから少しリアリティがないと。しかも、ここだけセットがセコかった。

さらに、この場合、脇役のスポンサー役には最大限の注意をして、軽いタッチの喜劇のできる役者をキャスティングしなければならません。日本にもまだまだいらっしゃいますよね。橋爪功さんとか。この番組が辛いのはキャスティングのせいでもあったのです。

こういうキャスティングができていると、台本では、書き表せなかった思わぬところで笑いが生まれます。この番組にもその芽がありました。田中圭をキャスティングしろと言われながら、間違えて、CM撮影にケーナの田中健を読んでしまった渡辺部長。楽屋に貼られた名札の田中健の健の字を必死で隠しますが、そこにスポンサーが来て、にっちもさっちもいかない。ここは長く面白くできるシーンです。残念。

ロシアの古ーい演出家のスタニスラキーさんという方はつのようにいっています。「演技はその演技がどういうものか見てもらうためにやるのではない。演技の先にある芝居の目的を見てもらうためにやるのだ」と。古ーい理論ですが、これは今も同じ、古くないと思います。

いいところも書いておきましょう・・・。一つだけでしたが。

失意の渡辺営業部長が高級クラブの本格バンドが入ったステージでユーミンを歌うのは面白い。渡辺営業部長の芝居としては、前のシーンの失意を全然引きずっておらず、普通に歌うところが面白い。

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