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進次郎氏の憂鬱? ~ 近衛文麿路線を如何に脱するか ~

9月11日、「安定と挑戦」を掲げて第四次安倍第二次改造内閣がスタートした。ただ、標語とは裏腹に、その重心は、挑戦より安定にあるように見える。新内閣では、「憲法改正」や「全世代型の社会保障改革」に向けて「挑戦」すると繰り返されてはいるものの、どこかその言説は気魄を欠いている。

外形的には、本来、今から2年は、またとない「挑戦」の絶好のチャンスだ。参議院選挙は今後3年間行われず、衆議院選挙も総理が解散しなければ2年後の10月までない。即ち、あと2年の自民党総裁(=総理)の任期満了で引退と腹をくくれば、選挙や内閣支持率のことを気にせずに、かなり思い切ったことができる状況だ。

にも関わらず、米国で来年、総理と相性の良いトランプ大統領が再選されるとグッと可能性が高まると言われている安倍総裁4選(2021年秋以降も総理を続ける)も見据えてか、特に人事は「安定」重視が際立っている。

私は、今回の党・閣僚人事について他者に問われると、「安定のSRU」に「派閥配慮味」をまぶした感じだと述べている。実際、派閥推薦・当選回数重視の文脈で新しく「まぶした」何人かの大臣を除けば、Stay(留任)の菅官房長官・麻生財務大臣・二階幹事長・岸田政調会長などのSグループ、Reuse(再任用)の河野防衛大臣・世耕参院幹事長・加藤厚労大臣・高市総務大臣・下村選対委員長などのRグループ、Upgrade(側近から1ランク上での登用)の西村経済財政担当大臣・萩生田文科大臣・河井法務大臣・衛藤一億総活躍大臣のUグループなどで、ほぼ説明がつく。

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そんな中、閣僚クラス人事で唯一「挑戦」と言えるのが、小泉進次郎氏の環境大臣での登用だ。まだ30代の小泉氏を、わずか当選4回で大臣に登用すること自体が「挑戦」に見える。が、より本質的には、例えば氏の父上の小泉純一郎元総理が政権批判も厭わない形で脱原発を強く唱える中で、よりによって環境大臣に抜擢したことが「挑戦」だと思われる。

更にはっきり言えば、原発問題に限らず、安倍政権の方針に敢然と反旗を翻す可能性が比較的高い小泉氏を抜擢することが挑戦だ。氏は、総裁選では安倍総理のライバルの石破氏を推すなど、無派閥ながら総理と最も党内で敵対的な水月会(石破派)と近い。そして、言うまでもないが、小泉氏は国民的に人気があり、党の看板に頼らなくても選挙で勝利できるため、公認しないなどの脅しは効かない。小泉氏が何かの政策的対立などを契機に、仮に「新党をつくる」的な動きに出たら、現実的野党の「国民民主党」などの外部勢力が色めき立つだけでなく、選挙の度に散々お世話になっている自民党内の若手なども同調しかねないからだ。

だが、これまでのところ、そうした懸念は杞憂に見える。まだ着任して3週間弱なので決めつけるのは早計だが、原発その他、大きく政権の方針と異なる動きを取る雰囲気はない。物議を醸すとすると、せいぜい、育休取得の是非くらいであろうか。安倍総理は、小泉氏の人気を政権浮揚に取り込むことができ、しかも、上記のような政権内をかき回されるという「撹拌リスク」がないと見て、ホッとしていることであろう。もちろん、総理を含めた政権中枢は、こうした展開を十分読み切って(或いは水面下で原発などについて念入りに確認して)抜擢しているに違いないので、予定通りと言うべきか。

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ただ、恐らく、政権中枢も小泉氏も想定外だった展開が、最近のネットメディアでの「小泉攻撃」であろう。即ち、小泉氏の発言は、いつも「ポエティック(詩を読んでいるかのよう)」であって「中身がない」というものだ。ポパー的に言えば、反証可能性がなく、言説として意味をなさない、という厳しい批判だ。

14年近くい官僚経験から政治行政における「はっきりした言説」の危険性を知っている筆者としては、小泉氏の「大胆そうで、実はあまりリスクはない」発言というのは、立場的に仕方ないものと思えるし、ギリギリを良く突いているように思える。実際、筆者の信頼できる知人には、よく上記批判の典型例として引用される国連での小泉スピーチ(セクシー発言など)を現場で聞いた役人もいるが、通例の政治家に比べ、国際的に遜色がないどころか、出色の出来だったとのことだ。本来であれば30代大臣のデビュー戦としては、もっと褒められて良い。

だが、通常の大手メディアに加え、ネットでの言説が「メディア」として氾濫する昨今、この世界の常である「持ち上げて落とす」の周期が短くなっている、即ち「飽き」が早く来る感じがするのも確かだ。つまり、時代やメディアの寵児として持ち上げられた小泉氏も、ついに「落とされる」局面に差し掛かってしまったということだ。総理や主要大臣に上り詰めてから落とされるならともかく、「えっ、もう?!」という感じがしないでもないが。

別の表現をすれば、小泉氏は、少し前から明確にとっている「近衛文麿的戦略」を見直さなければならないかもしれないということだ。近衛文麿は、五摂家の当主として、その家柄の良さから早くから国民の期待を集め、国難とも言える時期、即ち前年の2・26事件に揺れる1937年に、45歳の若さ(初代総理の伊藤博文に次ぐ若さ)で総理に就任した。小泉氏のおかれている状況に似ていると思うのは私だけではないであろう。(ちなみに、愛憎のあり方は異なるが、実母でない親類を実母と思って育った点も近衛と小泉氏で共通する)

大ざっぱに言えば、私の理解では、近衛という人は、国民的人気・期待への対応義務が若い頃からDNA的に刷り込まれてしまったため、現実の局面では、常に八方美人的になるという、優秀な政策判断はできても政策的決断は出来ないという陥穽から逃れられなかった政治家だ。故に、第一次政権の時は「優柔不断」のままに日中戦争の収束に失敗し、第二次・第三次政権では、再度期待を集めて日米戦回避に臨むが、こちらも本当の意味で腹を括った決断はできずに政権を投げ出す形になり、結局泥沼の戦争に突入することになった。

私見では、小泉氏は、国民的人気・期待を裏切らないよう、つまり、政策的・政局的に大勝負に出て敵を作ることなく、時を過ごそうとしているように見える。いずれ来る安倍政権の終了後などに、恐らく訪れる国難(経済面・外交安保面など)に際して、期待を集めて政権が降ってくるのを待っているスタンスに思える。「総理になる」という意味では合理的戦略であるが、しかし、なってから近衛のようなパフォーマンスしか出来なければ本末転倒だ。それまでの「訓練」が死活的に重要になる。

この点に関して、筆者には、民主党政権などを見て来ての強い想いといくつかの腹案があるが、紙幅が尽きた。いずれ、場所を変えて述べる機会もあるであろう。いずれにせよ、小泉氏のような政治家には、近い将来、大胆な、そして場合によっては敵をつくるような政局的・政策的動きや発信をしてもらいたいと強く願う。政治家(Statesman)の原義は「述べる人」ということであり、それは、詩を詠むことではないわけだから。

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