記事

第428回(2019年9月29日)

1/3

9月中旬、北京に出張してきました。宿泊したホテルに隣接するショッピングモールも周辺のコーヒーショップもスマホ決済オンリー。現金決済は基本的にできません。2010年代に入って、中国(とくに都市部)は訪問する度に変化の早さに驚きます。技術革新、産業政策、国家戦略等、中国の動静は常にフォローアップすることが必要な時代です。

1.リープフロッグ

調査・視察のために1日半の北京訪問。短い割にたいへん有意義でした。中国のスマホ決済の爆発的普及は話に聞いていましたが、実際に見聞すると驚きでした。

2013年にはほぼ皆無だったスマホ決済。2016年500兆円、2017年1500兆円、2018年2500兆円と急増し、今年は3000兆円を超える見込みです。

世界のカード決済は2017年25兆ドル(約2700兆円)強。中国1ヶ国のスマホ決済がそれとほぼ同規模。因みに、日本のスマホ決済は2018年で約1兆円です。

スマホ決済の中心となっているのはアリババと騰訊控股(テンセント)。アリババが優位ですが、利用者数はそれぞれ10億人超。決済にとどまらず、医療、金融等、重要な個人情報を扱うサービス分野に急速に拡大しています。

スマホ決済等に関連する新規ビジネスは現時点までに約4千万人の雇用を創造。アリババ創業者・馬雲(ジャック・マー)氏は「雇用創造を1億人まで拡大し、アリババ経済圏をGDP(国内総生産)換算で世界5位の規模にする」と語っています。

北京では今やスマホ決済が中心。当局者に聞いたところ、1ヶ月のスマホ決済回数が100回以上(1日3回以上)の人、現金をほぼ使わない人、いずれも人口の約半分だそうです。

スマホ決済の急速な普及の背景には、偽札が多く、現金の信頼性が低かったこと、スマホ決済は未回収・紛失リスクが低く、簡便で低コストであること等が影響しています。

日本では少額であれば交通系ICカード、高額はクレジットカードという使い分けが普及していますが、そうした決済手段の未整備が、かえって中国における技術革新及び実用化のリープフロッグ(カエル跳び)現象を生み出しました。

アリペイ(支付宝)の場合、個人間の送金・決済は手数料なし。法人でも0.6%とクレジットカードの5%程度を大きく下回ります。コストの低さもリープフロッグを促しました。

スマホ決済と連動して個人の信用情報システムの普及も加速。アリペイの付随機能として2015年に導入された芝麻信用(セサミクレジット)です。

芝麻(ジーマー)は中国で胡麻(英語でセサミ)のこと。お伽話の「アリババと40人の盗賊」で主人公アリババが唱える「開けゴマ」という呪文に因み、「ゴマで可能性が開かれる」という意味を持たせているそうです。

セサミの信用スコアはアリペイでの支払い履歴等アリババ保有データに加え、学歴、職歴、資産、交友関係のほか、政府保有データも参考に算出されています。

中国政府は、金融取引のホワイト・ブラック情報、交通違反・犯罪歴等の膨大な個人情報を管理。これを活用し、2016年12月には国務院(内閣)が、航空機・鉄道等の利用に際して器物損壊や暴力等問題行為のあった乗客延べ700万人以上に対し、航空機・高速鉄道の利用禁止、チケット購入禁止等の措置を科しました。

その際、中国政府は「今後の社会では信用は第二の身分証。信用を失えば著しい不利益を被る」と国民に警告を発しました。政府データには契約不履行者を公開する失信被執行人リストもあり、当該リストに載った人はセサミでもランクが低くなります。

セサミの自分の信用スコアはアプリで閲覧可能。改定は毎月上旬に行われ、自分のスコアを常に気にする人が増えているそうです。

セサミの信用スコアは、個人特性(身分、高級品消費等)、支払能力、信用(過去の支払返済履歴等)、人脈(交友関係)、素行(消費面の際立った特徴等)の5分野を総合的に数値化して算出。700以上が「信用極好」、650以上が「信用優秀」、600以上が「信用良好」、550以上が「信用中等」、350以上が「信用較差(やや劣る)」です。

セサミは個人信用を数値で可視化したもの。第三者、初対面の人にも信頼度をアピールできます。学歴や資産等の入力は任意ですが、点数が上がるとメリットが大きいので、自信のある人ほど積極的に情報を入力するそうです。

一方、スコア偽装の可能性もあるため、AIを活用してユーザーを監視。不正行為が発覚すると、スコアが減点されたり、利用が停止されるそうです。

信用スコアは与信審査や金利優遇などの判断材料にされるほか、様々なメリット・デメリットに直結。例えば、中国ではデポジットが必要なサービスが多いため、高スコア者にはデポジットを免除。空港や役所等での高スコア者への優先対応も行われるそうです。

米国や日本でもクレジットスコアというサービスがありますが、あくまで返済能力を確認するため。人間としての信用力全体を判断するものではありません。

一方、中国のセサミは、決済履歴、学歴、資産、人脈等々の様々な情報から人間としての信用力全体を数値化して判定。日米のクレジットスコアとは根本的に異なります。

あわせて読みたい

「アリババ」の記事一覧へ

トピックス

議論新型コロナウイルスに向き合う

ランキング

  1. 1

    アイリスオーヤマ製TVの凄さとは

    WEDGE Infinity

  2. 2

    ヌード講座判決 賠償命令の背景

    町村泰貴

  3. 3

    堀江氏「桜疑惑は些末な問題」

    ABEMA TIMES

  4. 4

    ナイキCMを100%褒め称える危うさ

    倉本圭造

  5. 5

    凋落の新聞社 報道の行く末とは

    ヒロ

  6. 6

    岩田健太郎医師のGoTo批判に疑問

    かさこ

  7. 7

    フォロワー160万人 AV女優の戦略

    NEWSポストセブン

  8. 8

    10代死亡はミス? 厚労省の大誤報

    青山まさゆき

  9. 9

    コロナ報道の正確性に医師が疑問

    名月論

  10. 10

    堀江氏「医療崩壊の原因は差別」

    ABEMA TIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。