記事

福田多宏氏控訴審判決で問われる「刑事司法」「検察改革」の現状

1/2

私が、「権力との戦い」と位置付け、全力で取り組んできた3つの刑事事件について、この夏から秋にかけて、相次いで判決言渡しが行われている。

国立循環器病研究センターの官製談合防止法違反事件(国循事件)の桑田成規氏については7月30日に、大阪高裁で控訴審判決(一審判決破棄・量刑変更)、青梅談合事件の酒井政修氏に対しては9月20日に東京地裁立川支部で一審無罪判決が出された。そして、福田多宏税理士に対する控訴審判決は、10月9日に大阪高裁で言い渡される。

国循事件については、昨年8月、控訴趣意書提出時の【“国循事件の不正義”が社会に及ぼす重大な悪影響 ~不祥事の反省・教訓を捨て去ろうとしている検察】、弁論終結時の【正義の「抜け殻」と化した検察官~国循事件控訴審、検察「弁論放棄」が意味するもの】で事件の内容と公判の状況を詳しく述べた。青梅談合事件については、判決に先立って、それまでの経過を【青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】で、判決言渡し時の状況については【青梅談合事件、「無罪判決」に涙】で述べた。また、かねてから事件を取材していたジャーナリストの江川紹子氏が、この事件と刑事司法をめぐる問題について解説してくれている(【無罪・青梅談合事件から見える日本の刑事司法の今】)。

そして、福田氏の事件については、「絶望的な状況」で弁護を受任したものの、その後の控訴審で大きな展開があり、今、かなりの期待を持って控訴審判決を待つ状況であることを、前の記事【福田多宏税理士・法人税法違反事件、「大逆転判決」の可能性~10月9日大阪高裁判決への期待】で詳しく述べた。

これら3つの事件は、刑事司法にとって、そして、大阪地検不祥事以降に進められてきたはずの「検察改革」にとって、大きな意味を持つ。国循事件、青梅談合事件の経過と判決結果を踏まえ、福田氏の事件の注目点を指摘しておきたいと思う。

「違法性評価の誤り」を指摘して原判決を破棄した国循事件判決

まず、3つの事件のこれまでの経過と結果を概観しておこう。

国循事件については、昨年3月、一審で、懲役2年執行猶予4年の判決が出され、私は、7月に控訴審の弁護を受任した。

控訴趣意書では、共調達法制の専門家上智大学楠茂樹教授の意見書を軸に、原判決の判断と検察官の主張の誤りと、それらが、公共調達の実務に重大な悪影響を及ぼしかねないことを指摘し、「起訴された2つの事実については無罪、残り一つについても、本来、刑事事件として立件されるような事件では全くなく、立件されたとしても、起訴猶予とされるのが当然であって、検察官が訴追裁量を誤り、起訴した本件に対する被告人桑田の量刑としては、少額の罰金刑が相当であることは明らか」と主張した。

検察官は、当初、答弁書を提出して、それなりの反論をしようとしていたが、途中から全く具体的な反論も主張もしない「黙秘」に転じ、最後は、弁論まで放棄した。

裁判所は、控訴審判決で、「一審判決は、表面的な事象にとらわれすぎているきらいがあり、違法性について重要な点を見落としている」とし、「官製談合を促進し、入札の仕組み自体を損なう行為ではなく、発注者の利益に適う面もあるから、その点を反映した量刑を行う必要がある」として、原判決を破棄、懲役2年を1年に落とし、執行猶予期間も4年を3年とした。

控訴審判決が判示するように「違法性の程度が低い」というのであれば、弁護人が求めているように罰金刑に落とすのが当然であるのに、ぎりぎりのところで執行猶予付き懲役刑が維持され、検察の「最低限の面子」は保たれる格好になった。これに対して、桑田氏は上告し、上告審は、刑事弁護で多くの実績を上げている気鋭の弁護士(名古屋のK弁護士)が受任し、一審判決、控訴審判決の誤りを徹底して主張することになっている。

同時期に弁護活動の最終局面を迎えた青梅談合事件と福田氏事件

青梅建設業協会会長の酒井政修氏が、警視庁捜査二課に談合罪で逮捕され、全面否認のまま東京地検に起訴された青梅談合事件では、80日に及ぶ長期勾留で心身とも疲弊した酒井氏は、2018年9月の第1回公判で、不本意ながら公訴事実を認め、検察側の請求証拠すべてが同意書証として採用され、保釈となった直後に、私が弁護人を受任したものだった。

入札関連事件については、【入札関連犯罪の理論と実務】(2006年:東京法令)など著書もあり、長年、警察大学校専門講師を務め、経済犯罪捜査について、都道府県警の幹部候補の指導に当たってきた経験もある私にとっては、この事件は、まさに専門分野の事件だった。

第2回で罪状認否を全面否認に変更、全面無罪に向けて弁護活動を行った結果、7月19日の論告求刑公判では、検察官は、求刑を「罰金100万円」に落とし、半分「白旗」を上げた。そして、9月20日に、我々の期待どおり、全面無罪判決が言い渡された。

青梅談合事件の公判が、6月30日の公判期日で、6人の証人の尋問と被告人質問が行われて証拠調べが終わり、7月19日の論告弁論期日に向け、弁論作成に忙殺されていたのと同じ時期に、福田氏の控訴審も、最終局面を迎えていた。

M氏が、一審で記憶に反する証言を行ったことを認める陳述書に署名、それを一審の証言に対する「弾劾証拠」で請求する方針を決定したのは、7月17日の最終弁論の直前だった。控訴審での事実取調べの結果、一審判決の事実認定が明白になったことを弁論で詳細に論じ、控訴審の審理は終結した。

検察には「引き返す勇気」は全くない

3つの事件に共通するのが、大阪地検不祥事を受けての検察改革で掲げられた「引き返す勇気」というのは、今の検察に全くないということだ。捜査への着手、被疑者の逮捕・起訴などの検察官の権限行使を一旦行うと、それが見込み違いによるもので、誤っていたことがわかっても、その誤りを認めて、方針を変えようとすることはない。

《国循事件》

大阪地検特捜部が、国循事件の強制捜査に着手することとなった背景に、桑田氏が国循医療情報部長に就任して以降、国循からの大型の情報システム受注を次々と失うことになったN社やその関係業者側の不満・反発があった。N社は、平成24年度にD社にネットワーク関連業務の受注を奪われた後、25年度の入札で、関係業者S社に参加を打診し、それを受けたS社は、原価を無視した過度な安値で落札して強引に受注を図ったものの、「履行能力調査」の結果、受注断念に追い込まれていた。

特捜部は、「癒着・腐敗」を炙り出そうと、桑田氏とD社との金銭的関係や飲食等を徹底的に洗ったが、桑田氏とD社との間には、刑事事件になるような「癒着・腐敗」など全くなかった。

国循事件は、検察不祥事以降に、大阪地検特捜部が初めて手掛けた「本格的検察独自捜査」である。贈収賄事件の立件を目論み、大規模な強制捜査に着手し、失敗したが、無理矢理、官製談合防止法違反の刑事事件に仕立て上げた。

不当な起訴に対して組織的なチェックが働かなかったばかりでなく、2年にもわたる審理に膨大なコストをかけた挙句、懲役2年を求刑したのである。

一審判決は、その検察の主張に盲従したが、控訴審では、楠教授の意見書を主軸とする弁護人の主張に検察官は立ち往生し、最後は、弁論も放棄して「沈黙」。結局、控訴審判決では、「官製談合を促進し、入札の仕組み自体を損なう行為ではなく、発注者の利益に適う面もある」という認定までされるに至った。「執行猶予付き懲役1年」という、特捜部の独自捜査の主犯に対する量刑としては例がないほどの軽い量刑にとどまったが、それでも罰金刑に落とさなかったのは、裁判所の検察に対する「温情」以外の何物でもない。

検察不祥事の当事者であった大阪地検特捜部ですら、今も「引き返す勇気」が全くないことは、この事件の経緯からも明らかだ。

《青梅談合事件》

青梅談合事件の根本的な問題は、東京地検が、警視庁捜査2課の「無理筋捜査」の事前相談に、ゴーサインを出してしまったことにある。警察は、青梅市の幹部の贈収賄事件等を狙って、捜査に着手し、青梅建設業協会の会長の酒井氏の任意聴取を繰り返したが、何も事件のネタは見つからなかった。そこで、警察として、引き返さなければならないのに、逆に協力者の酒井氏を談合事件で立件しようとした。東京地検は、その「無理筋捜査」にストップをかけなければならなかったのに、それを容認し、警察が逮捕して送致してきた酒井氏を勾留し、起訴したのである。

検察官は、他の指名業者を取調べて、逮捕・起訴のプレッシャーをかけて、あたかも「談合の犯罪」であるようなストーリーの供述調書をとって、「無理筋の事件」を、酒井氏が全面否認したまま強引に起訴した。その「暴挙」も、酒井氏が80日にも及んだ接見禁止のままの勾留に耐えられず、昨年9月の初公判で公訴事実を全面的に認めたことで、問題なく決着しそうに思えた。しかし、その後、私が弁護人を受任し、罪状認否を変更、全面否認に転じて弁護人の主張・立証を行い、昨年12月の時点で、検察官は、「公正な価格を害する目的」についての立証に完全に行き詰まった。しかし、「立証不能」が明白になっても、検察官は、全く引き返そうとしなかった。それどころか、検察官は、補充立証のために、半年もの期間をかけて、結審・判決を先送りしたのである。

「無理筋捜査」から引き返さなければいけなかったのに、警察の意向を容認したばかりか、自らの「無理筋立証」を諦めようとせず、最後まで、有罪立証を続けた。

この事件も、検察には、「引き返す勇気」が全くないことを示している。

あわせて読みたい

「検察」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    社長辞任 勝者なき大塚家具騒動

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  2. 2

    仏再封鎖 医師「PCR数凄いのに」

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    橋下氏「否決なら住民投票無効」

    橋下徹

  4. 4

    安倍待望論も? 菅首相は裏方向き

    早川忠孝

  5. 5

    堀江氏 餃子店1千万円支援に苦言

    女性自身

  6. 6

    年末年始「17連休案」空振りの訳

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    誤報訂正せず 毎日新聞社に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    ソニー好決算 PS4や「鬼滅」も

    片山 修

  9. 9

    鈴木大地氏止めた森元首相は正解

    早川忠孝

  10. 10

    JTBがGoToトラベルの情報を独占

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。