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特集
東京サイドストーリー
2020年の五輪・パラリンピックの開催をひかえ、勢いが増すばかりの首都・東京。約1,400万人が暮らすこの都市には、まだまだ知らない物語がたくさん眠っています。渋谷、新宿、六本木に代表される大都会とは一味違った東京の横顔をBLOGOS編集部が取材。あなたの知らない「東京サイドストーリー」をお届けします。

スリル満点のミニ・モノレールも観光資源 過疎高齢化進む檜原村の楽しみな今後

  • 2019年09月30日 13:20
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23区をはじめとする62区市町村からなる東京都。繁華街から観光スポット、工場に住宅街とあらゆるすべてが揃う世界的な大都市でありながら、都内には八つの村がある。そのうち七つは新島や三宅島など太平洋の島しょ部に位置し、残る一つが檜原村だ。

都西部の山梨、神奈川県境に位置し、新宿区にある都庁から村役場までは直線距離で約49キロ。右を向いても左を見ても山々に囲まれ、川や滝など豊富な自然が待ち受けている。ただ、23区が多くの若者を引き寄せるのに対し、村は他の多くの地方自治体と同様、過疎高齢化が深刻な課題だ。

鉄道の駅やコンビニはおろか、チェーン店もない。東京にありながらも東京らしさを感じさせず、東京でも目立たない。そんな村を訪ねてみると、閉塞感があったのは確かだ。ただ、よそ者だからだろうが、豊かな観光資源を活用した今後の成り行きが楽しみという、一種の期待にも似た思いだった。

23区からわずか90分でたどり着く東京の大自然

9月下旬の平日。早朝、杉並区内の自宅から中央自動車道を進んで八王子ICを降りる。しばらく車を走らせると、次第に道は曲がりくねり、とても東京都内とは思えない青々とした景色が広がった。出発から約1時間30分。目的地の檜原村までの道のりは想像よりもはるかにあっけなかった。

村の玄関口に位置する村役場からさらに車で20分ほど。「小林家住宅」は村で唯一、国の重要文化財に指定されている。山岳地域にある村の中にあって陣馬尾根と呼ばれる尾根筋上に位置し、山中にぽつんと建つ山岳民家は村一番の観光スポットだ。

「ジェットコースターより怖い」 手作り感満載のモノレール

標高600メートルに位置する駐車場から小林家住宅へは急こう配の山道を30分近くかけて歩くか、モノレールを利用する。「どんなジェットコースターよりもスリルは味わえる」。手作り感満載のモノレールに乗った感想だ。

碓氷峠を越える横川―軽井沢(群馬、長野県)の信越本線や、大井川上流部を走る大井川鉄道(静岡県)に使われた「アプト式」と呼ばれる方式が採用されている。歯車型の車輪が歯車状のレールに噛み合うことで前に進む仕組みだ。

小林家住宅へ向かうモノレール

定員は6人。ヘルメットをかぶりシートベルトを締めて座席に座ると、さながら炭鉱に向かうトロッコに乗り込んだ作業員かのよう。檜原村シルバー人材センターの男性がエンジンをかけて動き出したが、歩く速度より遅い。林の中をゆっくりと進み、ガタガタという金属音が響いた。

最大斜度は45度まで達する。目の前の安全バーを握らないと体がのけぞって転げ落ちそうになる。後ろを振り返ることは、高所恐怖症の人にはおすすめできない。乗り込んでから15分。モノレールは小林家住宅までたどり着いた。

江戸期の山岳民家の知恵 尾根の谷間を望む絶景

小林家住宅は江戸中期の建造とされる。それまでは川などの流域に住んでいた小林家の住人が山崩れの被害に遭って、現在の山岳地帯にまで移住したというのが一説だ。人馬での移動が主流であった当時、3本の尾根が交わる交通の要衝に住宅を建てたとみられる。

標高は750メートル。住宅は二つの広間や縁側など居住に十分な設備が整い、いかにも落ち着いた雰囲気だ。かまどでくべられている薪は、住宅内の煙を住宅内に充満させて、状態よく保存するための知恵だ。

周りを見渡しても木々が生い茂り、毎年春になるとつつじがピンク色の花を咲かせるのだそう。尾根の谷間を望む景観も絶景だ。自然との共生を続けてきた小林家住宅に触れると、やはり東京にいることを忘れてしまう。

縁側でたたずんでいると、住宅を管理している小林茂雄さん(74)がお茶をもてなしてくれた。午前9時過ぎから午後4時までシルバー人材センターの職員が交代で住宅を管理し、住宅の四方に設置した遠隔カメラからは24時間体制で万一の出火などに備えているそうだ。

「小林家住宅を観光資源に」 関係者が模索する活用法

住宅には、つつじが咲く春になると50人近くの観光客が訪れるという。特に、モノレールは子供からの人気も高く、予約待ちの状況にもなるそうだ。村の観光の起爆剤にもなりそうな小林家住宅だが、人が集まるイベントは春のつつじ祭りだけだそう。

小林さんは「村は林業が主産業で、需要があった時代は生活を十分に支えてくれた。だが、木材の価格が暴落した今となっては、林業に代わる何かが求められている。小林家住宅がよそからたくさんの人が来るきっかけになればよい」と話す。村などと調整を重ねながら、住宅での宿泊体験や喫茶スペースのオープンなど今後を見据えている。

村の93%が林野 主産業を体感できる都民の森

小林家住宅に代表されるように、村を一言で表すとしたら、「自然」という言葉がぴったりかもしれない。村の総面積は約105平方キロで、1村だけで東京都の総面積(約2188平方キロ)の20分の1ほどを占める。しかもその93%が林野で、大半は秩父多摩甲斐国立公園に指定されている。

自然公園「都民の森」は標高1000~1500メートルの高地に位置する。公園内には、森の中に生息する花や鳥などを紹介する森林館や、村の主産業であった林業にちなんで木材に触れられる木材工芸センターなど、自然を満喫できる体験型施設も建てられている。

都民の森内を散策して回るのが最大の醍醐味だろう。三頭山(標高1531メートル)頂上までの途中にある三頭大滝まで約30分かけて進むと、何人ものハイカーと出会う。行き交うたびに「こんにちは」とあいさつを交わすのは気持ちがよく、都会の喧騒の中ではあまり体験できない。

息をぜえぜえと切らしながら滝に到着した。つり橋を渡れば、より滝を間近に眺めることができる。原生林の緑の中を35メートルの高さから水流が岩肌を流れ落ちる。秋は紅葉が映え、冬にはうっすらと雪化粧することもあるそうだ。一帯には水しぶきを上げる滝の音だけが響き渡り、時が経つのも忘れてしまった。

都民の森内にある三頭大滝

一部は災害の影響で通行できない状態だが、園内にはブナの路コース(約5.4キロ)、三頭山周遊コース(約7.6キロ)などの散策コースが用意されている。どれも歩きやすいコースで、秋の行楽にもってこいかもしれない。

檜原村では他にも多くの滝を眺めることができる。村役場からもほど近い払沢の滝は、日本の滝百選にも選ばれ、多くの観光客の姿がみられた。全4段に分かれ落差約62メートルと三頭大滝より規模が大きい。

払沢の滝は冬になると結氷するという

滝までは、駐車場から遊歩道を進む。途中には陶芸作家の作品が並ぶ喫茶店や、古い郵便局を改装した土産物店があり、散策だけでもそのレトロな雰囲気を満喫できる。遊歩道は比較的平坦で、犬を連れた観光客も見られた。冬には結氷することでも知られ、その清水は住民の飲料水としても使われるほどだという。

過疎高齢化は深刻な課題 東京都内の利便性生かして望まれる発展

豊かな自然と共生しながら暮らし続けてきた檜原村の住人。人口は19年9月1日現在で、1170世帯2174人。村によると、1980(昭和55)年の人口が4407人で、40年弱で半減したことになる。

終戦を迎えた1945年の7103人がピークで、以後は減少が続いている。全国の地方都市でみられるように、結婚や就職を機に村外に移り住む若者が目立ち、死亡数から出生数を除いた「自然減」も人口減の大きな要因だ。

高齢化率は50%近くに達し、東京都内全体の23.3%(19年9月15日現在)の倍以上だ。研究機関「日本創成会議」が14年5月に発表した「消滅可能性都市」にも含まれる。

過疎高齢化という同様の問題は全国各地の自治体が抱えている。そんな中、一つ確実に言えることは23区からほど近い檜原村は地理的に優位だということだろう。自然という財産に加え、そばや豆腐などの食文化、キャンプなどアウトドアを楽しむ環境。人工美ではない景観がそこにはある。ましてや、東京都内に。

村民の立場から見たら「好き勝手に言っている」と思われるかもしれない。それでも、思ったことは、「村がますます元気になり、その自然や温かなもてなしで都会の人を魅了することは、東京をより元気にする」ということだ。東京都の一つの村としてキラッと輝き続けてほしい。

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