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GSOMIA破棄が示した韓国・文政権の野望 西側陣営から離反する韓国、東アジアの地政学的な大変動 - 秋元千明 (英国王立防衛安全保障研究所アジア本部所長)

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ランドパワーに寄り添う
韓国の重大な地政学的過ち

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しかし、現実にそんなことが可能なのだろうか。地政学的視点にたてばその答えは明白にノーである。朝鮮半島は今も昔も地政学の主戦場である。朝鮮半島は数百年もの昔から、大陸内部に拠点を置く国家、通称ランドパワーと海に拠点を置く国家、通称シーパワーのせめぎ合いの場所であった。朝鮮半島の歴史を簡単に俯瞰してみよう。

朝鮮半島には紀元前2世紀頃、最初の国家として衛氏朝鮮が誕生し、その後、高句麗、百済、新羅の三国時代や高麗の時代を経て、14世紀末には朝鮮民族の最後の王朝であり、統一国家である李氏朝鮮が誕生した。

その時代は1895年、日清戦争で日本が清を破り、下関条約によって朝鮮を独立国として認めさせるまで続いたが、その間、朝鮮半島の国家はほぼ一貫して、中国の属国である冊封国であった。つまり、朝鮮半島は国家が誕生して以来、中国というランドパワーの支配下に長く置かれていた。

しかし、これは決して安定したものではなかった。16世紀には日本の豊臣秀吉が当時の中国、明の征服を目指して李氏朝鮮に侵攻した。文禄・慶長の役である。これに対して、明は援軍を朝鮮に差し向け、朝鮮半島を舞台にランドパワー・明とシーパワー・日本の間で、休戦期間をはさんで通算3年以上にわたって戦争が続いた。この時代にあって世界的にも類例のない大戦争であった。

結局、豊臣秀吉の明征服の野望は途中で頓挫し、戦争は終結したが、この時以来、日本は朝鮮半島を大陸進出の出入り口として戦略的に注目するようになり、19世紀後半の日清戦争にまで引き継がれた。

日清戦争後、独立を認められた李氏朝鮮は大韓帝国として独立するが、中国の影響力は大幅に低下した。するとロシアが朝鮮半島への進出を狙うようになり、それを認めない日本との間で日露戦争が勃発した。日露戦争は朝鮮半島を経由して海に進出しようとするランドパワー・ロシアと、それを阻止しようとするシーパワー・日本の戦争であった。

その結果、日本が勝利し、大韓帝国と日韓併合条約を結び、韓国を併合した。これによって、シーパワー・日本が朝鮮半島を統治することとなり、その状態が第二次世界大戦による日本の敗戦まで続くことになるが、日本の敗戦が濃厚になると、再びロシア(旧ソビエト)は朝鮮半島東北部に侵攻し、朝鮮半島に関心を示すようになった。

そして、第二次世界大戦後、朝鮮半島は南北に分断され、北を支援するランドパワー・中国とロシア、南を支援するシーパワー・アメリカなど西側諸国の間で戦争が起こり、朝鮮半島は日本の支配が終わった後、再び戦火に包まれたのである。

このように朝鮮半島の歴史は勢力圏を朝鮮半島全域に拡大しようとする大陸のランドパワーと、それを阻止しようとする太平洋のシーパワーの衝突の歴史であり、その構図は現代でも基本的には変わっていない。

こうした歴史の事実を振り返れば、地政学上、韓国が発展するには二つの道しかないことがわかる。

それは、太平洋のシーパワーと連帯して大陸のランドパワーに対峙するか、もしくは大陸のランドパワーに寄り添い、太平洋のシーパワーと対峙するかである。実際に現代の韓国がこれまで進んできた道はシーパワーと連帯する道であり、米韓同盟はまさにそのシンボルである。
韓国はこれまで米国の核の傘のもと安全を確保し、日本の莫大な経済支援を受けながら経済発展を遂げてきたのであり、日米韓のシーパワーの連帯こそが韓国の発展の源泉であることを忘れてはならない。

ところが、文大統領の国家観は韓国発展の基盤となってきたシーパワーの連帯を否定し、大陸のランドパワーに寄り添おうとしているようにさえ見える。李氏朝鮮時代への回帰である。

地政学を海軍戦略へと発展させた著名な米国の戦略家であり、海軍軍人だったアルフレッド・セイヤー・マハンは100年以上前、次のように説いた。

「いかなる国家もランドパワーであるならシーパワーにはなれず、シーパワーであるならランドパワーにはなれない」。

このマハンの指摘が正しいことは次のようにすでに近代の歴史が証明している。

▼ランドパワーの帝政ロシアはシーパワーになろうと南下政策を進め、日本に撃退された。それを契機に国家の威信が傷つき、革命が起きた。

▼ランドパワー・ドイツは二つの世界大戦を通して海岸線を拡張してシーパワーへの転換を図ろうとしたが失敗し、結局、破滅した。

▼冷戦時代のランドパワー・旧ソビエトは海洋支配を試みたが、シーパワーの西側諸国との冷戦に敗れ、結局、国家が崩壊した。

▼シーパワー・日本は第二次世界大戦前、大陸へ進出し、ランドパワーになろうとしたが失敗し、破滅した。

国家は本来備えている地理的要因からどのような国家になれるかは自ずから限定されており、輸送や通信の技術がいくら進歩しても、その特性は変えられない。その意味で、文政権のめざす新しい国家戦略が最終的にどのような結末を迎えるのか、すでに過去の歴史が明らかにしているところである。

中露北が日米韓を牽制
不安定化する東アジア

この文政権の地政学的チャレンジに呼応して、大陸のランドパワーは一斉に反応している。日本の輸出規制をめぐって日本と韓国の対立が先鋭化すると、ロシアと中国は7月23日、日本海の上空で共同の軍事演習を始め、戦略爆撃機や早期警戒機を日本の竹島の上空に意図的に進入させた。

そこは韓国が防空識別圏を設定している空域であり、日本と韓国の対立をあおり、日米韓の連帯を牽制しようという意図が明確にうかがえる。

また、韓国が8月22日、日本とのGSOMIA破棄を決定すると、北朝鮮は24日、国連安保理決議に違反する短距離弾道ミサイルを発射し、ロシアも同日、北極圏のバレンツ海から最新型のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験を行った。これら一連の出来事が韓国のGSOMIA破棄決定の前後に集中して起きていることは、明らかに大陸のランドパワーが日米韓のシーパワーの連帯に揺さぶりをかけようとして行ったものである。

このように日本の輸出管理の強化に対して、文政権がGSOMIAを破棄し、歴史問題を絡めて日本非難を繰り返していることは、背景に「反日」を利用して韓国を新しい国家に変貌させようとする文大統領の野望があることを強く想起させる。しかし、それは、これまで緊張しつつも安定を維持してきた東アジアに地政学的な大変動をもたらす極めて危険な実験であると言わざるをえない。

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