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〝ディープ・スロ—ト〟は誰だ?トランプ弾劾への動き再燃 - 樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

トランプ米大統領が、民主党のバイデン前副大統領への捜査をウクライナ政府に働きかけた疑惑は「トランプ弾劾」の動きを再燃させた。こんどばかりは、〝火勢〟が広がる気配をみせている。内部告発によって、問題の詳細が明らかにされたからだ。

ディープ・スロート(内部情報源)による暴露は、1970年代に発覚したウォーター・ゲート事件を彷彿とさせる。この事件で告発者は、政権に不利な情報を次々に新聞にリーク、これによって、当時のニクソン大統領が辞職に追い込まれた。

大統領選で再選をめざすため、対立候補を不利な状況に追い込もうという、ことの重大さでは、ウクライナ疑惑もウォーター・ゲート事件も根は同じだ。

今回のディープ・スロートはだれなのか。ウクライナ疑惑はどう展開していくのだろうか。

(drante/gettyimages)

「破廉恥な権力乱用」

今回、弾劾訴追への動きが急展開した経緯については、すでに日本の各メディア、当サイトでも詳細に報じられているが、重複を顧みず触れてみよう。

発端は、今年8月12日付けで、米上下両院の情報特別委員長宛てに送付された告発状。9月26日に議会側から公表された。

冒頭、「大統領が2020年の選挙で外国政府の介入を要請することを目的に権力を行使しているとの情報を得た」として、具体的に7月25日のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の電話協議に言及。

トランプ氏がゼレンスキー大統領に、バイデン氏と、その次男、ハンター氏について捜査を行うよう圧力をかけた事実を明らかにし、「深刻で破廉恥な法律違反、権力乱用」と糾弾、「差し迫った懸念」であるため、手続きを踏んだうえで内部告発に踏み切ったと説明している。

告発状はさらに、ホワイトハウスの当局者が、その法律顧問からの指示で、電話協議の速記録を通常のコンピューター・システムから機密情報を保存する特別なシステムに移したとし、これらの事実は、ホワイトハウスが、両首脳のやりとりに関して、ことの重大さを認識していたからだと分析している。

下院のペロシ議長(民主党)は弾劾訴追の正式調査開始を決断した理由について、9月24日、「トランプ政権の行為は、国家安全保障、選挙の清廉さに対する不名誉な裏切りである」と説明、大統領を激しく非難した。

告発状の公開を受けて、ホワイトハウスは、トランプ、ゼレンスキー両首脳の談話協議の速記録を公表、間接的に問題になることはないと強気にでた。

焦点のバイデン氏に関するやり取りをみてみる。

トランプ氏は、ゼレンスキー氏が5月に就任したことに祝意を表したあと、おもむろに「ほかのことだが」―と切り出し、「バイデンの息子についてさまざまなことがいわれている。バイデンは、(息子の)起訴を中止させたが、多くの人がそれについて知りたがっている。司法長官と何かできることがあれば、いいことだ。バイデンは訴追を止めたことを自慢しているが、不愉快なことだ。もし調査してくれれば……」と伝えた。

ゼレンスキー大統領は、「私は状況をよく知っている。次の検事総長は100%、私の側の人間だ。議会で承認されれば、調査を開始するだろう」と応じた。

トランプ氏は、自らの側近のジュリア―二元ニューヨーク市長やバー司法長官と話し合ってほしいと繰り返し要請した。

このやりとりだけなら、圧力をかけたといえるかどうかは微妙なところだが、ジュリアーニ、バー長官との話し合いを、くり返し求めていることを考えれば、そういう指摘がなされてもやむをえまい。速記録が改ざんされたのではないかとの見方もあり、9月27日付けの日経新聞は、「会談は30分続いたというが、速記録すべてをゆっくり読んでも12分程度だ」という米法律専門家の疑念を伝えた。

速記録が公表された25日、国連総会を機会に、ニューヨークで、トランプ大統領とゼレンキー大統領が会談したが、開始前にトランプ大統領は記者団に「圧力などなかった」と疑惑を否定、ペロシ議長を「左翼勢力の影響を受けているか、彼女自身が左翼だ」と罵倒した。

ゼレンスキー氏は、「ウクライナは独立国家だ。われわれは何をすべきか知っている」と述べたにとどまった。

弾劾裁判での有罪、罷免は困難?

ペロシ議長の調査開始宣言を受けて、米下院の関係3委員会は27日、ポンぺオ国務長官に対し、関連資料の提出、国務省高官の委員会喚問出席などを命じた。

合衆国憲法では「反逆罪、収賄罪、そのほか重大な犯罪」などに関与した場合、大統領は弾劾裁判にかけられる。下院が過半数の賛成で訴追を決め、上院での弾劾裁判で3分の2が「有罪」と認めれば、罷免される。

下院は民主党が多数派だが、上院は共和党が過半数以上の議席を維持しており、訴追されても「有罪」の可能性は低いとみられる。

弾劾手続きに賛成する国民は37%、反対50%という世論調査結果(米政治専門誌)があることもこうした見方の材料になっている。

ディープ・スロート、CIA局員か

一方、弾劾の行方とならんで、米国民の関心は、内部告発者がだれなのかーーだ。告発状で自ら明らかにしているように、政府職員であることは間違いないとみられるが、米メディアなどによると、CIA(米中央情報局)局員といわれている。ホワイトハウスで勤務しているとの情報もあり、下院の本格調査の過程で、身元が明らかになる可能性がある。

トランプ大統領は26日、国連総会出席のためニューヨークに同行してきた外交官らとの会合で、「誰が告発者に情報を与えたのか知りたい。それはスパイだ。かつては、スパイと裏切り者は今と違う扱いを受けた」と、内部告発者と、その協力者を恫喝した。

1972年の米大統領選のさなか、再選めざすニクソン大統領(当時、共和党)陣営の一部が民主党本部に侵入したウォーター・ゲート事件では、当初、大統領は隠ぺい工作にかかわっていたことを否定。しかし、ディープ・スロートがそれを覆す情報をしばしば。米紙「ワシントン・ポスト」の2人の若手記者にリーク。議会が弾劾訴追に乗り出し、1974年7月、下院司法委員会は訴追を決定しため、形勢不利と見た大統領は、上院での弾劾裁判を待たず翌8月に辞職した。

ディープ・スロートはFBI副長官

大統領の政治生命を奪った情報提供者は、 ディープ・スロートというニックネームを奉られ、その正体は長い間、謎だったが、事件から30年以上たった、2005年になって、事件当時のFBI(連邦捜査局)の副長官、マーク・フェルト氏がその人と明らかになった。

今回のディープ・スロートは、すぐに特定されて活動が不可能になるのか、それとも大胆にリークを続けるのか、大いに関心をそそられるところだ。

バイデン問題、民主にも不利に働く?

関心といえば、トランプ大統領が〝圧力〟をかけたといわれるバイデン前副大統領をめぐる問題自体も不明朗な印象を与える。

バイデン前副大統領は2016年、ウクライナを訪問した際、同国のエネルギー企業、「ブリスマ」のスキャンダルを捜査していたウクライナのショーキン検事総長を更迭するようポロシェンコ大統領(当時)に強く要請した。これもやはり「圧力」に近かったともいわれる。

当時、ウクライナの検察当局はブリスマのオーナーが関与している横領、マネーロンダリング(資金洗浄)などの捜査を行っており、バイデン氏の次男、ハンター氏がブリスマの役員に名を連ねていたことから、バイデン氏の要請は次男への波及を避けるなどの目的もあったのではないかとの指摘も、共和党を中心になされている。

捜査の指揮を執っていたショーキン検事総長は解任され、その後の米メディアへのインタビューで、「ハンター氏ら幹部への事情聴取を含むあらゆる捜査を検討していた」と述べている。

弾劾に向けた調査の過程で、ブリスマとバイデン前副大統領、ハンター氏との関係がつまびらかになれば、来年に迫った大統領選での最有力候補が打撃をこうむることにもなりかねず、民主党にとっては、〝諸刃の剣〟ともいえそうだ。

今回の事態にもっとも当惑しているのは、バイデン氏自身かもしれない。

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