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最難関の中高「筑駒」に根づく逞しさ 生まれる新たな農業への息吹 筑波大学附属駒場中学校・高等学校 - 鈴木隆祐 (ジャーナリスト)

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高校から入学した齋藤駆君は、都内の国立大学附属中出身。中2で農業体験も経てきたが、「こちらのほうが普段表せない自分を素直に出せる」と、顔に付いた泥の洗礼を拭いつつ語った。

「あちらはもっと淡々とこなしていました。誰もこちらみたいに羽目を外さない。共学だと出しゃばったらダメなんだと思った。高校から入り、最初は友だちもいなかったけど、寂しいと思う時期は1ヶ月もなかった。5月には校外学習もあって、そこで一気にこの学校の気風に染まった感じですね」

齋藤君にとっても、筑駒での田植えは楽しみであった。そうした通過儀礼的な意味合いも当然、この稲作にはある。ただ、農耕という日本人、いや人類の根幹を肌身で覚えさせていく点で、筑駒ほど徹底した教育を施す学び舎はない。

矢継ぎ早の質問が飛ぶ授業「田植えの歴史」

渡邉教諭は技術の授業でも、生徒たちにさつま芋作りなどをさせるが、そこでも古い農具をあえて用いる。いかに必要に応じ、技術が進歩を遂げてきたかも身をもって体感させるためだ。近代国家における農業は生産性を上げるため、合理的であろうとしてきたからこそ、ここまで進化もし、持続してきた産業だ。渡邉教諭は最新のICTを活用し、農業の新旧のあり方も伝え、スマート農業についても扱うが、重視するのはあくまで農業の原理である。「稲作も作物の栽培も原理から教えないと応用が身に付かない」からだ。

渡邉教諭は学校が積み重ねてきた田植えの手法を、過去の記録も持ち出し生徒たちに説いていく。筑駒の伝統と矜持がそこで彼らにも染み渡る

それを如実に感じたのが、前の週に見学した中1の授業。午前中いっぱい、田植えのレクチャーと関連の教科学習があるが、例えば生物なら苗の観察、社会なら米作の歴史を振り返る。ことに小佐野浅子教諭による社会は筑駒らしい、スピーディーで濃密な授業だった。

筑駒には、小佐野教諭のように大学院での専門的な研究を経て勤める教諭も多い。だから、相当の学識を持ち、これも同校の文化である「生徒の矢継ぎ早の質問」にも動じず、見事に打ち返す。

田植えの前には社会や理科の授業で田植えに関連する学習も行う。理科の授業ではみな真剣に苗の観察に臨む

日本の弥生時代研究は、まずは土器ありきで始まり、およそ紀元前3世紀から紀元3世紀頃までとの見方が通説となっていた。それが水田稲作の時代こそが弥生時代であると位置づけられるようになり、近年の研究成果ではその始期が紀元前10世紀まで遡りうることが指摘されている……といった歴史の流れを、細かなディテールまで含め、夥しい質疑応答の中で感得させる。ロジカル・シンキングを鍛える基盤がいかにも分厚い。そして、それこそが筑駒の尊ぶ「原理」。だからこそ、卒業生に占める東大現役合格者の割合は54.3%(2019年)という脅威の数字も保てるのだろう。

全国的に珍しい農芸部

また、筑駒には普通科では全国的にも珍しく農芸部がある。校内の片隅には専用の畑があり、季節に応じた作物を育てている。中には店頭では見かけないハーブ類もあった。しかし、進学校の部活である以上、生産性向上のための土壌調査や、散水方法の効率化なども学ぶし、スマート農業を実施する会社も訪問する。高1の加藤弘之君は「今後の日本の農についても、問題意識を持ち始めた」と真剣な面持ちで語る。 

「最新の技術には興味はあります。ただ機械化が進むなか、従来日本人が築き上げた技術、原体験をまずは泥の中や畑で身をもって学ばないといけないと思います。作物を育てるのに農家がいかに苦労するか、机上ではわからない」

イケメンのメガネ男子が自ら育てた作物を慈しむ様に、大げさでなく、農業の明るい未来を見た気がした。文化祭では来場者にこの畑も案内する

やはり高1の遠藤浩明君は、一連の学びを通じて得た気づきを基に、農業関連のコンテストにも自身のアイデアを応募した。アプリで作動させる散水の仕組みも、今後は校内の畑で試みるという。しかし、それら活動への動機もケルネル田圃から生まれた。

「農業就業者が減る中、まずは小規模でも、自らの手で農に触れることで興味へとつながる。水田学習を通じてそう強く感じました」

そして中1、高1生は来春、収穫した米を赤飯にして、卒業生や新入生に振る舞う。水田で作られる米はそのためもあって、うるち米ではなく餅米なのだ。これでようやく、1年間の農の学びが完結する。そして、卒業生らも混じり、「入学時の米の味が忘れられない」と感慨にも耽る。

泥まみれになって学ぶ原体験が生徒らを成長させ、後輩たちへと受け継がれていく。田作りは譲れない筑駒のアイデンティティといえよう。

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