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宝石店の入口に高額商品が飾ってある理由とは 人間は間違える動物である - 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

人間は最初に見た数字に影響される傾向があるから、錯覚に基づく誤った決定をしないように注意が必要だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。


(Kwangmoozaa/gettyimages)

人間は、最初に見た数字に影響される

学生を集めた実験をします。第一グループに「質問です。利根川は100キロより長いですか? イェスかノーか、書いて下さい。では、利根川は何キロですか? 思った数字を書いて下さい」と出題し、第二グループに同様に「利根川は500キロより長いですか? では、利根川は何キロですか?」と出題し、書かれた答えを比べると、第二グループの方が長いのだそうです。

「100キロよりは長いだろうから、200キロかな」「500キロよりは短いだろうから、300キロかな」といった具合に答えを書く人が多いのでしょうね。

「人間は最初に見た数字が頭にインプットされて、それに影響される」ということのようです。人類の進化の過程で、「次に遭遇する猛獣の大きさは全くわからない」と考えるよりは「前回の猛獣と同じだと仮定して用意をしよう」と考える方が生き延びる確率が高かった、といった事なのかもしれません。

さて、上記の問だと、「100キロより長いか否かを聞かれているのだから、100キロというのは人々が迷うような数字なのだろう。そうだとすると、100キロと近いところに正解があるはずだ」といった思い込みをする人もいるかもしれませんね。

じつは、そうした思い込みを排除するため、「運転免許証の下3桁を書きなさい」「利根川の長さは何キロですか?」という設問でも、下3桁の数字が大きい人ほど長い距離を書く、という傾向があるらしいです。にわかには信じがたいですが、真面目な行動経済学者が言っていることですから、そうなのでしょう。

品物の価値がわからないと値札に影響される

途上国へ行くと、5ドルの品に50ドルの値札をつけている場合も多いようです。それを30ドルに値切って喜んでいる日本人が多いそうですが、それは日本人が品物の価値を自分では判断できないため、50ドルの値札を見て、それが商品の価値だと感じてしまうのでしょうね。

これについては、国民性や文化の違いもありそうです。日本人は生まれた時から「値札は商品の価値と等しい」という経験を積んで、そう思い込むように育てられていますから。

余談ですが、途上国の怪しげな店では、値切り交渉で値段を口に出してはいけないそうです。欲しそうな顔をして、「いくらまで値下げするか?」「それなら不要だから帰る」と言い続けるのだそうです。そして、本当に帰る素ぶりをした時に、相手が追いかけて来るのを待ち、その時の相手の提示価格で買うのだそうです。やってみたことはありませんが、たしかに合理的ですね。

米国の友人に聞いた話では、米国では値上げをしてからバーゲンをする店が多いのだそうです。「100ドルです」と言われるより「200ドルですが、半額セール中なので100ドルで結構です」と言われる方が買いたくなる客は多いでしょうから。

日本でも、バーゲンセールは多いですね。これには、本当に売れ残った品物を大幅に割り引いている場合と、最初からバーゲンで売るために品質を落とした商品を用意している場合があるようですから、後者は途上国に近いのかもしれませんね。

他人に頼む時は多めに

筆者にも、苦い経験があります。親戚の若者が訪ねてきた時のことです。「新入社員研修で、我が社の製品を親戚に売ってこいと言われています。ご協力をお願いします。ついては、10個買っていただけるとありがいのですが」と言うのです。

無下に断るわけにも行かず、2個買いました。後から考えれば、最初から「2個買って下さい」と頼まれていたら、1個しか買わなかったと思います。まんまとやられました。騙されたわけでは無いので、怒るわけにも行きません。「優秀な親戚を持って鼻が高い」と無意味な自己満足をしたものです(笑)。

マンションを買った日に家具を買ってはいけない

3000万円のマンションか3500万円の少し広いマンションかを悩んだ末に契約したとします。頭の中には3000万円といった数字がこびりついてます。そんな時に家具屋へ行けば、悲惨な結果が待ち受けているでしょう。

そうです。10万円の家具も15万円の家具も、どちらも安く感じられて、「5万円しか違わないなら、良い方を買おう」となる可能性が高いからです。

マンションを契約したら、家に帰って毎月のローンの返済額を計算し、その結果毎月自由に使える小遣いの値段を計算し、それからスーパーの安売りで買い物をしましょう。小さな数字に目が慣れてから家具屋へ行っても、遅くはないと思いますよ。

宝石店の店頭に高額商品が飾ってあるのは……

宝石店の店頭に500万円のダイヤが飾ってあったりします。もちろん、セレブが買ってくれる事も期待しているのでしょうが、おそらく店には今ひとつの狙いがあります。それは、庶民の脳に500万円という金額を焼き付けることです。

500万円という金額が脳に焼き付いてから入店した客は、5万円や10万円の宝石を見て「安い。これなら買える」と考えるでしょう。「10万円と15万円なら5万円しか違わないから大きな方を買おう」と考える客もいるかもしれません。

マンションを買った客は、一度帰宅して脳にこびりついた3000万円といった数字を洗い流すことが可能ですが、宝石店の客は、一度帰宅しても次回の来店時に再び500万円のダイヤが目に入ってしまうわけですから、問題は一層深刻かもしれませんね(笑)。

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