記事

「若者は年配者に『じゃああなたは若い頃何をしていたの?』と聞いていい」~古市憲寿×大野更紗×川村遼平―「若者」三者鼎談後編―~

1/3
撮影:田野幸伸
撮影:田野幸伸 写真一覧
「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」の番外編、社会学者の古市憲寿氏、作家の大野更紗氏、POSSEの事務局長、川村遼平氏の三者鼎談。前編に引き続き、「若者」が生きていくために必要な労働にかかわる知識と「若者の甘え言説」について語ってもらいました。【取材・構成:永田 正行(BLOGOS編集部)】

※前編はこちら→困ってる若者”がブラック企業に負けず「幸福」になる方法~古市憲寿×大野更紗×川村遼平―「若者」三者鼎談前編―~

これからは労働法と社会保険の知識が必須


大野:こういう制度や労働法の知識って、雇用する側に必須なのはもちろんだけど、これからの社会においては、雇われる側も知識が必要なのではないかと思います。大企業の日本型雇用というのは、なんでもかんでも企業が大体概ねやってくれたわけです。でも、もうなんでもかんでもお世話してもらえるわけじゃない。これからは労働者もちゃんと権利意識を持って勉強しないとたちゆかない。よりよい制度は、天から降ってはきません。ブラック企業に負けないということはそういうことなんですよね?労働法と雇用保険、労災保険とかの基本的な知識は一労働者として、必須のリテラシーかも。

川村:そうですね。現在も、定時制の高校や専門学校などで労働法に関わる授業をやることがありますが、雇用保険の話も、みんながみんな一発で覚えてくれるわけではありません。たくさんある法律を教えていくのはたいへんです。そこで、「働いていると、こんな風に困ることがあります」という事例を紹介して、その上でポイントを4点くらいに絞って、「それだけは覚えておいてね」という感じに教えています。

その中の一つが、「つらい」、「おかしい」と思ったらすぐ専門家に相談するということです。相談に来る人の多くが、「私の事案って違法だかどうかわからないのに、相談してすみません」みたいな感じで来る。

大野:川村くんは、なぜだか、謝られるわけね。

川村:謝られますね。でも僕としてはそういうふうにどんどん来て欲しくて。たとえば自分はこの症状だからこの病気に違いなくて、この薬を処方してくださいと病院に言う人はいないじゃないですか。そういう感覚が必要だと思うんです。何か困った、おかしいという感覚がサインだからすぐに来て下さいって。

大野:医療保険の領域の議論では、当事者と専門家の間の「情報の非対称性」というのは前提とされます。川村くんの話していることは、情報の非対称性があるから専門家に相談してしかるべきだと。

川村:そうです。ちょっと変だと思ったらすぐに相談する。あとは、自分を責めないというのもポイントの一つです。まずはいったん専門家の判断を聞いてから、自分がもう少し努力すべきなのかどうかは判断すればいい。とにかく自分を責めて、そのまま何も言わないのはやめましょうと伝えています。

今、職場でNOと言えというのは難しいと思います。せめて外部にSOSを発信してほしいというのが相談現場で感じていることです。とにかくうつ病になる前に相談に来て欲しい。

大野:うつ病になってしまってから助けるのは、支援者もより大変になりますからね。

川村:大変です。会社に責任をとらせる以前の問題がたくさん入ってくる。

大野:特にメンタルヘルスやうつ病の問題が介在するケースでは、当事者自身が動けなくなってしまうことも多いですよね。支援者はそのケースが深刻化すればするほどその状況を改善させるのは大変になる。支援者側としては、深刻になる前に話してほしい。

古市:POSSEが無い地域はどうすればいいですか?

川村:一応POSSEは全国から相談を受けています。その上で弁護士事務所を紹介したりだとか。

古市:電話やメールでも相談を受け付けているのですか?

川村:はい。

大野:しかしいくらなんでも、全国規模で考えたら川村クローンが一万人くらいいないと対応出来ないよね。

川村:それはそれでブラックNPOというか。。(苦笑)でも、POSSEで相談を担当できる人も少しずつですが増えてきています。

大野:労働現場における新型ソーシャルワーカーのロールモデルがここにいる、、、。「わたしを頼ってください」ってこんなにまっすぐに言える支援者って、すごいんですよ。なかなか言えないですよ、川村くんは立派だ、、、。まぶしい、、、。

古市:なかなか言えないですよね。僕は「助けてください」「どうすればいいですか」と聞いてばっかりです。で、POSSEは、どういうところに相談しているんですか?

川村:労働基準監督署も全国にいくつかあるのですが、結構冷たいことが多いです。労働弁護団という弁護士の集まりがあって、全国各地に所属している弁護士がいて、無料ホットラインというのをやっています。そういうところもひとつだと思います。

古市:電話すれば無料で相談にのってくれる。

川村:そうですね。あとさっきソーシャルワーカーの話が出ましたが、申し訳ないのですが、キャリアセンターの職員の人には労働法の知識があんまりないケースが多い。相談者からの一次情報が寄せられるのは、キャリアセンターや親・友人だったりします。

古市:相談する相手が、ですね?

川村:そうです。その人たちがここにつながれば、みんながみんな相談を受けられるようにならなくても、少しは改善されると思うんです。僕はうつ病の相談にはのれないので、その場合にはカウンセラー、カウンセリングを受けた方がいいとアドバイスすることもある。

大野:精神科や心療内科、医療へつなぐケースもあるんですね。連携ですね。

川村:お医者さんを紹介するケースもあります。また、場合によっては団体交渉した方がいいケースもある。その場合には組合を紹介して、僕らは法律的な知識だとか、証拠の作成だとか、制度活用だとかそういうことをやっています。トータルにやっていこうと思うとPOSSEだけでは無理なので、連携が必要です。

「うつ病を作り出していいよ」という法律なんてない


大野:今の現行の制度でも、なんとか運用していく余地はあるような気もしますね。

川村:そうですね。出来ると思います。

大野:今日や明日、突然大きな法律を変えることはできないです。でも、川村くんたちの実践のように、今日の状況を改善させていくことはできる。

川村:「うつ病を作り出していいよ」という法律はまったくありません。とにかく法律にのっとって、変えていくということだけでも全然違うと思います。このあいだも「36協定(さぶろくきょうてい)」の話がネットで出ていましたが、その中に「特別条項」というのを設けると、実質月100時間、200時間まで残業させることができる。そういう無茶な労働時間が書かれている協定がバンバン通っています。でも、月45時間という上限が36協定にも一応あるんです。

古市:それは何によって規定されているんですか。

川村:これは、告示で定められています。法律とは違いますが目安としてあって、それを超えるものに関しては、労働基準監督署が指導することがあります。

古市:すぐに違法となるわけではない。

川村:そうなんです。微妙なところではあります。そういう36協定は認めませんと社会全体がなるだけで、過労は抑制されます。

古市:36協定をもう少しわかりやすく説明してください。

川村:労働基準法で、労働時間は一日8時間、週40時間までと決まっています。 しかし、労使協定を結べば延長することが出来る。労働基準法の36条にその規定があるので、この労使協定は36協定と呼ばれています。

古市:ほとんどの会社が、36協定を結んでいるんですか?

川村:結んでいない会社もあるんですが、大体の会社は結んでいて、しかも「特別条項」として月100時間までやることもありえますみたいに書いてあったりする。

大野:それでなんとなくなあなあで「サービス残業」が発生している。

川村:そうですね。未払いの残業代も。とはいえ、これは「残業代を払わなくて良い」という協定ではないんです。未払いはどんなことがあろうと違法です。しかし、残業させること、長時間働かせること自体は、その協定があれば直ちに違法だとは言えない。

古市:つまり、労働基準法の週40時間労働というのは形骸化しているってことですか?

川村:それは形骸化していますね。

大野:企業別の組合が機能していた時代というのは、若い世代にとっては「過去の遺物」となりつつあるのかもしれないですね。

古市:従業員としては合理的というか、別に残業代をもらえるのであれば問題ないというわけですね。一つの企業に死ぬまで所属するなら悪くないという話もありますね。

川村:それも自然だと思います。

古市:こないだ黒田祥子さんの研究を読んでいて驚いたんですけど、1980年代から2010年代で日本の労働時間があまり変わっていないらしいんです。平均労働時間自体が週休二日制が導入されて、確かに減ったように見えるのだけれど、労働者一人一人で見ると、実はあまり変わっていない。

一般的にいって、若い人が多く働いている。高齢者は多く働かない。だから高齢化の影響によって確かに平均の労働時間は少なくなった。しかし高齢化という変数を標準化して見てみると、実は一人一人の労働時間は変わっていないらしいんです。特にフルタイムで働く男性だと一日10時間以上働く人が増えているというデータもあります。土曜日の労働時間は減ったけど、平日の労働時間はむしろ増えている。

大野:いまだにモーレツ社員のままということですよね。

川村:そうですね。でも、会社にアイデンティファイ出来るほど、長期雇用があるかというと、そうではない。

大野:会社という組織は、労働者に、生涯にわたる恩恵や企業福祉を与えられる存在ではなくなりつつある。

川村:雇用保険も基本的には、正社員になれば会社が面倒見てくれるのだからそんなに拡充しなくてもいいんじゃない?という話でした。トライアル雇用というのも、出会わないから雇われていないのであって、一旦雇われればあとはうまくいくでしょうねみたいな。そういう発想なんです。

古市:基本的に今の日本の雇用関係の保障というのは、日本型雇用慣行であったり、会社になんとかインクルージョンしようといった方向性のものが中心です。でも、それから一回漏れてしまった人に対しては社会保障が手薄いということですね?

川村:そうです。厳しいと思います。

大野:企業も苦しいのかもしれないですね。

川村:あまり企業に求めすぎなのもどうなのかなと、同じ問題意識を持っています。

大野:もう少し社会の側で、個人を支えていこうよと。

川村:その代わり、「いじめない、辞めさせない。過労させない」くらいはなんとか社会の規範にしていきたいですね。

大野:「いじめない、辞めさせない、過労させない」…小林多喜二の幽霊が出てきそうな話ですが、これが今日の若者のリアリティです。

あわせて読みたい

「SYNODOS×BLOGOS」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    トランプ氏の大相撲観戦に苦言

    早川忠孝

  2. 2

    反安倍勢力を警察が「予防拘禁」

    田中龍作

  3. 3

    トランプ来日はシンプルにいい話

    篠田 英朗

  4. 4

    夏のユニクロ肌着 苦手な男性も

    NEWSポストセブン

  5. 5

    賛同者も? 長谷川豊氏の差別発言

    非国民通信

  6. 6

    安倍首相は天皇の政治利用を慎め

    小宮山洋子

  7. 7

    サンジャポがねつ造か 非難の声

    女性自身

  8. 8

    首相は日米会談の合意内容明かせ

    大串博志

  9. 9

    山下達郎&まりやが海外で大人気

    NEWSポストセブン

  10. 10

    かぶる傘 五輪中なら悪くない案

    赤木智弘

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。