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studygiftとWishboneを比較する—私たちはどこまで他人に寛容になれるのか?

何だか引っ張ってしまって申し訳ないのですが、studygiftについて考察を深めてみます。

歓迎されるWishbone、出る杭打たれたstudygift

studygiftに対して批判が集まったことは皆さんご存知の通りです。

米国には、NPOが運営するWishboneという学費支援のクラウドファンディングサイトがあります。調べてみた感じ、目立った批判はないようです。というか、賞賛する声の方が多いです。

画像を見る

Wishboneは高校生を支援対象にしており、年齢という意味ではstudygiftよりセンシティブです(サービス内容は以前書いた簡単な解説記事をぜひ)。ソーシャルウェブによる共助のあり方を考えるために、Wishboneとstudygiftを比較して整理してみます。

(事実確認の不足など、studygiftの過失についての議論というよりは、仕組みそれ自体の比較を試みます。)


画像の豊富さ

意外だと思われそうですが、僕はサイトデザインが原因の一つだと考えます。

studygiftは「その人の魅力」をふんだんな画像クリエイティブで表現します。対するWishboneは、支援対象者の顔写真と動画しか載せていません。

画像の充実が、かえって「自分を売っている」印象を与え、仕組みに対する抵抗感を高めてしまったと考えます。

studygiftは最初の支援対象者が女性であったことも関係しているでしょう。批判者の言葉を読むかぎり「女子学生が自分を商品として販売している(それを大人が促進している)」という印象を抱いていた方は少なくなかったように思います。

マイケル・サンデルの議論にもありましたが、「売ってはいけないものを売っている」という抵抗感が、クラウドファンディングによる学費支援には付きまとってしまいます。この抵抗感の一部は、デザインの力で抑えることができるでしょう。


選定方法・基準

こちらの方が本質的な違いですが、Wishboneは支援対象の学生を「現場教師」の手を借りて決定しています(参考)。現場をよく知る第三者のオピニオンが入ることで、支援に納得感が生まれます。

studygiftの場合は、特定の基準を設けず、運営者自身が支援対象を選んでいた点にも、批判を呼び起こす原因があったと考えられるでしょう。


支援の使途の明確さ、期間

Wishboneにおいては、支援者は「放課後・サマースクールの教育プログラムを受ける資金」を拠出することになります。

studygiftでは、「奨学金」という、比較的ざっくりとした使途で資金を集めていました。このことも、批判を呼ぶ原因となっていました(旅行代になるのか、PC代になるのか、など)。

また、Wishboneは期間も「教育プログラムを受け終わるまで」という暗黙の了解があります。対するstudygiftは期間が明示されていなかったため、これも批判が寄せられる原因になっていました(「人生を売るのか」など)。


支援する理由の明確さ(「同情と期待」)

Wishboneは原則、貧困家庭の子どもを支援対象にしており、支援する理由が明確です。Wishboneの場合は、「可哀想だな」という同情と「頑張って!」という期待が自然と醸成されます。

一方studygiftは、対象者が金銭的に困窮しているのは間違いないのですが、「支援を集めるなんて甘えだ」と切り捨てる向きも多かったです。同情も期待も、それほど集まらなかったといえるのではないでしょうか。同情・期待どころか、「嫉妬」が集まってしまっていました。

この点は実態というよりは「見せ方」の問題で、言葉の使い方ひとつ、画像の見せ方ひとつでガラッと変わってきます(それゆえの危険もあり、極端な例では詐欺なども起こりうるでしょう)。


この「同情と期待」は、掘り込んで考えるべき困難な問題です。なぜならそれは、運営者が法を犯さないかぎりは、観客側の問題だからです。


studygiftに関しても「甘えだ!」と断罪する人が少なく、「誰でも失敗するよね、頑張ってね」と応援する声が多ければ、大分状況が変わっていたでしょう。

先日NPOキズキが行った「ドロップアウトした受験生の教科書代を集める寄付プロジェクト」は、僕の見るかぎり、誰も「甘えだ!」という刀を振りかざしませんでした。しかし、人によってはこの事例でも「甘やかすな!」と断罪するでしょう。


これは支援対象を見つめる、僕たち自身の寛容度の問題だと思います。

難しい話ではなく、支援対象を前にして「人間失敗するよね。頑張ってね(同情も期待もする)」と思えるか、「自己責任なのに、他人を頼もうとするなんて(同情も期待もしない)」と思うかどうかです。この境はとても微妙です。絶対的な基準を設けることは不可能です。しかも見せ方によっても変わってきます。


僕たち自身に問題を引き当てるとすると、「私たちはどこまで他人に寛容になれるのか?」という問いこそが、studygiftの騒動から学べることだと思います。

この問いはstudygiftの話に留まりません。社会問題が顕在化してくるこれからの時代、日常的に向き合うことになるでしょう。

別記事にて考察を書きましたが、寛容度を高めないと、生きにくい社会が来ると僕は考えます。「甘え」に見えてしまう状況は、これからどんどん可視化されていきます


皆さんはstudygiftを見て「人間失敗するよね。頑張ってね」と思いましたか?「自己責任なのに、他人を頼もうとするなんて甘えだ」と感じましたか?

読者のみなさん一人ひとりに、ぜひ引き取って考えてほしい問いです。


関連本。僕は今回の騒動を、この本の内容の議論に繋げたいと考えています(書評)。

・社会的包摂は、社会的排除の対立概念。「社会が人を追い出していくさま」を問題視し、「社会が全ての人を包み込むこと」を目指すアプローチ。

・元大工のあるホームレスの男性は、確かに社会が求める「理想の労働者」にはなれない人間だったが、彼の価値をそのような物差しだけで測ることはできない。なぜ、彼は彼のままで社会に貢献することができないのであろう。「労働者」として何の価値もなかったとしても、なぜ、彼は彼のままであってはいけないのだろう。なぜ、職業訓練をして、お行儀のよい社会人にならなくてはならないのだろう。


リンク先を見る
弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書) posted with ヨメレバ 阿部 彩 講談社 2011-12-16 Amazon 楽天ブックス
ブックオフ

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