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食品添加物よりおそろしいのは「家庭の台所」だ

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「できあいの食品は食品添加物まみれ。だから子供には手作りの料理を食べさせたい」。そんな迷信が母親たちを苦しめている。科学ジャーナリストの松永和紀氏は、「ゆがんだ報道によって食品添加物が過剰に不安視されている。添加物よりも手料理による食中毒のほうがよっぽど危険だ」という――。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

食品添加物よりも「手作り」がこわい場合も

私はこの十数年、多くの生協の依頼を受けて食の安全に関する連載を広報誌に執筆し、勉強会の講師を務めてきました。痛感するのは、料理をして家族の健康を支える女性たちの抱える複雑な思いです。

彼女たちの多くはこう思っています。

母たちがしてきたように本来、料理は手作りすべきでは? けれども、仕事や家事に忙しい現実の中で、加工食品を使わざるを得ない。加工食品には大量の食品添加物が使われ体に悪いと聞くけれど、大丈夫だろうか? 私は、家族にとんでもないことをしているのか?

こうして、罪悪感に苛まれながら日々の生活に追われる女性のなんと多いことか!

科学的なデータは、手作りが必ずしも高い安全性や品質にはつながらないこと、食品添加物を気にするよりも心配すべきことがあることを明確に示しています。罪悪感に苛まれる必要はありません。

たとえば、おにぎり。「素手でにぎらなければ価値がない」とした女性誌の記事が昨年、世間を賑わせました。「昔からおにぎりは手で握るものだった。手の常在菌が付くから発酵食品となり意味がある」という記事に対して、「おにぎりによる黄色ブドウ球菌食中毒を知らないのか!?」という指摘がSNSで相次ぎました。

黄色ブドウ球菌は、健康な人でものどや鼻の中に持っており、手指の切り傷で増殖しやすい菌です。手指の小さな傷を気にせず素手で調理すると、食中毒を引き起こします。黄色ブドウ球菌の食中毒は多くの場合、おう吐や腹痛などの軽い症状で済みます。したがって、食中毒が多発して数十人、数百人と死んでいたような昔は、おにぎりで少々あたってもだれも気にしなかっただけなのです。

こう書くと、「昔は、塩辛い梅干しを入れていたから食中毒を防止できていた」と言い出す人が必ずいますが、それも間違い。梅干しの抗菌効果は、ほんのわずか、それも梅干しのごく近くだけです。結局、「昔はよかった」という郷愁が、「昔は安全だった」という思い込みにつながっています。

添加物なくしてツナマヨおにぎりなし

現在、報告される食中毒死亡者は年間数人程度。食品工場の衛生管理のレベルは著しく向上しています。作業者は手袋をして調理加工を行っており、おにぎりであれば、機械が成形します。

中の具材は、ツナマヨネーズなど品質が変わりやすいものが人気のため、食品添加物も用いて日持ちを向上させています。

添加物がなければ、ツナマヨネーズ入りのおにぎりは、家庭で作ってすぐに食べるしかありません。しかし、添加物のおかげでコンビニエンスストアなどの店頭に一定時間並べられ、私たちは気軽に購入して食べることができます。

添加物には厳しい安全性審査がある

では、食品添加物の安全性はどのように守られているのでしょうか?

食品添加物に指定されて許可されるには、図表1のような試験で問題がないことが確認されなければなりません。人体実験はできませんので、主に動物を用いて試験をします。動物と人では代謝のメカニズムが異なる部分もあり、それを補うためによく似た化学構造を持つ医薬品や天然物質などの人への影響を調べた研究結果なども考慮します。

日本では、内閣府食品安全委員会がさまざまなデータを集めて詳細な検討を行い、問題ないと判断したものだけが使用を認められます。厚生労働省が、添加物ごとに使い方や使用量、残留する場合の規格基準等を決め、事業者はそれらを守って使用しています。



「添加物は、悪い原材料をごまかすために使われる」というのは、よく聞かれる話です。しかし、添加物の使用量には多くの場合、上限があり、品質をごまかすほどの量は使えません。また、食品の原材料価格がかなり安い一方、添加物はおしなべて高価。添加物は、品質の保持や向上、安全性確保などのために使われるのです。

食中毒を防ぐ発色剤がゆがんだ報道で誤解されている

ハムやソーセージなど加工肉によく使われる発色剤の亜硝酸塩は、色をよくし肉の臭みを消します。さらに、ボツリヌス菌の増殖抑制効果がある、とされています。ボツリヌス菌は自然界に普通にいる菌ですが、非常に強い毒素を作り食べると死亡する場合があります。

ハムやソーセージなどの加工肉は、国際がん研究機関(IARC)からグループ1(人に発がん性がある)に分類されているため、「発色剤の亜硝酸塩によりがんになる」という情報が雑誌などにしばしば掲載されます。しかし、これも間違い。たしかに、欧米での調査研究で、加工肉の摂取量の多い人たちでは大腸がんのリスクが高くなっていますが、日本人の調査では、がんリスクの上昇はみられません。というのも、日本人の加工肉摂取量は、欧米に比べれば非常に少ないのです。

IARCは、加工肉に関する見解をしめすと同時に、牛肉や豚肉、羊の肉など、国際的には「赤肉」と呼ばれる肉についても、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しました。これに対して日本の国立がん研究センターは、日本人での調査結果を基に、「大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても、小さい」とする見解を示しています。

そもそもIARCは、加工肉と肉、両方のがんにつながる原因として、焼いたり燻製したりするときにできる発がん物質や、肉の消化の際に体内でできる物質などを挙げています。添加物については一言も触れていません。

しかも、野菜を食べると野菜に含まれる成分の一定量が体内で、亜硝酸塩と同じ成分になり、その量は発色剤として食べる量よりもはるかに多い、と考えられています。

なのに、日本の雑誌やウェブメディアの多くは、IARCの出した原文を読まず、都合の悪い野菜からの摂取は無視して、「発色剤のせいでがんになる」と報じるのです。これでは、消費者がハム・ソーセージを怖がるようになってしまうのも無理はありません。

一度下がったイメージはなかなか覆せない

悪名高い“化学調味料”も、情報にゆがめられ誤解されています。

昆布などに多く含まれるアミノ酸の一種、グルタミン酸に、固形化するためナトリウムを結合させたものが、うま味の素の「味の素」として1908年、売り出されました。体の中に入るとグルタミン酸となります。

戦後、NHKが「味の素」を報じる際に商品名を出せないことから、「化学調味料」と名付けました。当時は、化学がバラ色のイメージを振りまいていた時代で、味の素も大人気でした。

ところが、1968年、アメリカの医師が、グルタミン酸ナトリウムを大量に食べたことが原因で頭痛や顔のほてりなど生ずる症例があったとして、「中華料理店シンドローム」と名付けて学術誌に報告したのです。

これを契機に、グルタミン酸ナトリウム=化学調味料の評判は一気に下降。動物の腹腔に大量に注射して影響をみるような無理な実験で出た症状も、グルタミン酸ナトリウムは悪い、とする根拠となってしまいました。

その後、多くの実験・研究が行われ、1987年にはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が安全だと認め、EUやアメリカ食品医薬品局(FDA)なども同様の判断を示しています。

グルタミン酸ナトリウムの摂取が味覚障害につながっている、という説もありますが、科学的根拠はしめされません。そもそも、人の体重の2%はグルタミン酸であり、トマトやチーズ、それに母乳にも大量に含まれています。なのに、添加物としてのグルタミン酸ナトリウムのみが味覚障害の原因に、というのは、科学的にはあり得ません。

現在では、味の素社だけでなく多くの企業が、グルタミン酸ナトリウムやほかのうま味となる物質を用いて調味料を製造しており、化学調味料ではなく「うま味調味料」と総称しています。加工食品に原材料として用いられた場合、調味料(アミノ酸等)として表示されています。

化学調味料も無添加も同じ成分

今、問題になっているのは「無添加商法」です。店頭には、保存料無添加、化学調味料無添加などと表示する製品が、数多く並んでいます。

添加物を一般的に使わずに製造する食品で無添加と表示するのは禁じられていますが、実際には横行しています。

また、化学調味料無添加をうたう製品の多くが、食品から抽出した「エキス類」や分解して作った「たんぱく加水分解物」を用いています。これらは、グルタミン酸などうま味調味料と同じ成分を含んでいます。うま味調味料との違いは、糖液などを発酵させて作るか、食品を分解して作るか、という製法です。作り方は違えど、結局は同じものを食べるのに無添加とうたうのは消費者を騙しているのではないか? 個人的には、無添加をうたう企業姿勢に疑問を持たざるを得ません。

消費者庁が設置した「食品添加物表示制度に関する検討会」でも現在、この問題が協議され、「消費者の誤認を招いている」とする指摘が相次いでいます。

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