
企業や自治体などで行われる健康診断。毎年受けるのが当たり前、というイメージがありますが、実は法的な強制力を持って健康診断を毎年労働者に課しているのは、世界中で日本くらいなんだそうです。(注)
忙しいのに面倒だな…と心の中で思いながら受けている人もいるかもしれませんが、どうせ受けるのであれば、結果を理解して、上手に活用したいもの。でも健康診断の結果表って色々と数字が書いてあり、どう読んでよいか迷うこともあります。
身近なのに、意外と知らない健康診断の活用法について、産業医の小橋正樹(こばし・まさき)さんに聞きました。

―― 健診の後に受け取る結果表、ちらっと見て「こんなもんか」と捨ててしまう人も多そうです。どういうところに気をつけて見れば良いでしょうか?
まずは、「総合判定」欄にある医師のコメントなどに目を通してみてください。最近では、どんな検査項目に問題があったかだけでなく、健康面でどんなことに気を付けなければならないかの注意事項が書いてあるケースもあります。
基準値には2種類ある?
―― そういえば、検査項目には基準値として○○未満などと書かれていることがありますよね。あの基準値って、どのようにして決まっているのでしょうか?
意外と知られていないことですが、健康診断の結果表に書かれている基準値(○○~〇〇などと書かれている範囲)には「決められ方」に違いがあります。
ひとつは「健康な人の数値」をもとに決めているものです。「肝機能検査」や「貧血検査」などの検査項目で採用されているもので、健康な人の約95%がこの範囲の値になるという目安のもと設定された値です。
例えば健康な人が100人いたとして、肝機能の値を調べてみると、意外に高い人や、低い人が見つかります。人の体は一人一人違うので、数値にばらつきが出るんです。
もうひとつは、「将来の病気のリスク」をもとに決められたものです。
例えば血圧について、ひと昔前まで基準値は現在より高く設定されていました。1987年に旧厚生省が出した値は、上の血圧が180mmHgというものでしたが、現在では140mmHg(診察室血圧)以上は高血圧とされています。
なぜ段階的に厳しくなっているかというと、過去に世界中で高血圧による心筋梗塞などの病気のリスクが調べられ、その結果「○○より上の血圧の人は病気になりやすい」ということがわかってきたからです。
こちらの値のほうが、従来の「健康な人」をもとにした基準値より、病気を防ぐことに役立つのではないか?という意見があり、各専門学会の診断基準や治療ガイドラインなどに沿って健康診断の基準値が設定されるようになったわけです。
血圧のほか、脂質(コレステロール)、血糖値などの基準値も、同じような考え方によって定められています。

基準値が健診機関ごとに違うケースも
―― 決められ方が違うわけですね。じゃあ、結果表の基準値のどれが「健康な人をもとにしたもの」で、どれが「病気のリスクをもとにしたもの」か、見分けることはできるんでしょうか?
それは結果表を見ただけではわかりません。また、採用している基準値も全国一律で決まっているわけではなくて、健康診断を実施する施設(健診機関)によって、そんなに大きな差ではありませんが、異なっていたりもします。
もし興味があれば、健診機関のホームページを見てみたり、 所属されている企業の産業医や保健師などに聞いてみたりしてみてください。
ポイントは「過去の結果」と比較すること
―― 自分の検査値が基準値から外れていたら、必ず一回は病院に行かなければならないんですか?
それはケースバイケースです。さきほどの肝臓検査値のように「健康な人」の結果をもとに基準値が決められている場合、たとえ基準値から外れていたとしても、それは「個人差」の範囲かもしれません。
身長に例えるとわかりやすいのですが100人のクラスで一番背が高い人がいても、それだけでは、 別に病気とはいわれませんよね?
この考え方は、健康診断の各検査項目の数値を考える場合も基本は同じです。基準値からはやや外れているけど特に病気もなく例年にわたり数値が安定している場合は、それがその人の正常値として判断することがほとんどです。
ただ逆に、基準値の範囲内だからといって必ずしも大丈夫というわけではありません。例えば、貧血の指標である血色素量(ヘモグロビン)が例年16.0g/dlと正常上限値だったのに、ある年突然12.0g/dlと正常下限値になっていた場合、「胃や子宮などから異常な出血があるのではないか」などと病気の可能性を強く疑わなくてはいけません。
つまり、大事なのは「過去の結果と比べること」です。最近では、企業の健保組合で健診の結果をデータ化して、過去の結果を比較できるようにしてくれるところも増えています。過去数年の結果と比べて何らかの数値が急激に上がった/下がったなどのことがあれば、産業医や保健師に相談したり、自分の生活を見直してみたりしても良いと思います。
また急激な変化だけでなく、毎年徐々に悪くなってきている項目についても注意が必要です。
もしご自身が健診を受診した施設でそのようなサービスを行っていなければ、例えば健診の結果を毎年スマホで写真にとっておき、いつでも見られるようにしておくと役立つかもしれません。
