- 2019年09月27日 17:15
未だに「かき出す中絶」が行われている日本の謎
2/2■英米で手術をする場合は「手動真空吸引法」が主流
海外では1960~70年代より中絶が合法化される国が増加した。戦後の混乱状態のなか合法化された日本とは異なり、フランスなどの国では、女性解放運動の結果、中絶を選択することは女性の権利として考えられ合法化されたといわれている。1973年にアメリカでプラスチック製の柔らかい管を用いた手動真空吸引法(MVA)が誕生し、1990年代には世界100カ国以上で普及した(※8)。
(※8)第38回日本産婦人科手術学会セミナー記録集「子宮内容除去術のための手動吸引法:低侵襲かつ有効な手術手技」
手動真空吸引法は、掻爬法よりも合併症のリスクが少なく、基本的には術前に子宮口を開く処置を行う必要がない。また、術中の痛みが少ないため、静脈麻酔ではなく局所麻酔で行うことができる。鋭的な器具は使用せず、子宮内を真空状態にして吸引するため、電動吸引法よりも子宮に対して愛護的であり、静かに処置することができ、簡便であることがメリットといわれている。
■65カ国以上で認可済みの「経口中絶薬」もNG
さらに、1988年にはフランスと中国で経口中絶薬が認可された。経口中絶薬は、従来の手術よりも安全性が高い方法だ。自然流産と同じような子宮収縮による痛みと出血が生じるため、鎮痛薬を併用する。2000年ごろからは広く世界で普及し、現在、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オーストラリア、タイ、台湾、インドなど65カ国以上で認可され、WHOの必須医薬品(※9)に指定されている。
(※9)人口の大部分におけるヘルスケア上のニーズを満たすものであり、個人やコミュニティーが入手できる価格であるべき薬
WHOは経口中絶薬として、妊娠を維持させる黄体ホルモンの働きを抑制する作用の「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる作用の「ミソプロストール」という二種類の薬剤を併用することを推奨している。
日本では、ミフェプリストンは一切認可されておらず、ミソプロストールは、胃潰・十二指腸潰瘍の治療薬(薬価:1錠約33円)として認可されているものの、中絶や流産に対する適応は認められておらず、妊婦への使用は禁忌であり、適応外使用をしないよう注意喚起されている。
■フランスやオランダでは「中絶は無料」
日本では、2015年にようやく手動真空吸引法のキットが認可された。しかし全ての施設で導入されているわけではない。「慣れた掻爬法で問題ない」と考えている医師もいるだろう。そして、海外では約30年前から存在し、掻爬法よりも安全であると推奨される経口中絶薬は認可されていない。これは、先進国として極めて異様な状況ではないだろうか。
また、日本では妊娠初期の中絶は自由診療で約10万~15万円であり、海外と比較し高額といわれている。WHOは「中絶サービスは合法な医療保健サービスとして地位を認められ、女性および医療従事者をスティグマおよび差別から保護するために、公共サービスまたは公的資金を受けた非営利のサービスとして医療保健システムに組み込まれなければならない」と提言しており、フランスやオランダなどは無料で中絶を行うことができる。
「日本は先進国なのになぜ、中絶が合法なのになぜ、女性に懲罰的な掻爬法を罰金のような高額でいまだに行っているんだ。なぜ安全な経口中絶薬を認めていないんだ」これは、今年2月にタイで開催されたIWAC(International Congress on Women’s Health and Unsafe Abortion)という女性の健康と安全でない中絶・流産に関する国際会議に私が参加した際に、海外の参加者たちから投げかけられた言葉だ。日本の現状を知ったときの彼らの驚きと憤りをあらわにした表情は忘れられない。そのとき私は、明確な答えを示すことができなかった。
■医療には人に罰を与える役割はない
なぜ日本の中絶は、世界基準から外れた状態になっているのだろうか。そして世界から見て異様ともいえるこの現状を、私たち日本人は知らされてきただろうか。
中絶に関する問題は、国によってさまざまな違いがあり、歴史、文化、法律、宗教、政治、保険制度、医療水準、倫理的背景、ジェンダー問題などを多角的に考える必要があるだろう。
中絶について考えていく上でまず共有したいことは、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights)」(※10)だ。私たちには一人ひとり、安全で満足できる性生活を送り、子どもを産むかどうか、産むとすれば、いつ、何人産むか決定する自由を持ち、適切な情報とサービスを受ける権利がある。しかし日本では、こういった権利があることを教えられず、適切な情報を知らされず、世界的な基準で見て、安全なサービスを受けられていない現状がある。
(※10)国際人口開発会議・行動計画(1994年)
当然ながら、医療には人を裁いたり、罰を与えたりする役割はない。どんな人に対しても、その人の身体的、精神的、社会的健康を守るために、世界標準の安全な医療が提供されるべきである。それは中絶に対しても変わるものではない。
9月28日は、国際的に安全な中絶について考える日「International Safe Abortion Day」だ。世界中の人が性と生殖に関する権利を満たすことを目指すWomen’s Global Network for Reproductive Rights(WGNRR)が2011年に定めた。この機会に、より多くの人に日本の現状を知ってほしいと思う。
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遠見 才希子(えんみ・さきこ)
筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程/産婦人科専門医
1984年生まれ。神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。「えんみちゃん」のニックネームで全国700カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。亀田総合病院(千葉県)、湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)などで勤務。著書『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)DVD教材『自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ』(日本家族計画協会)発売中。
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(筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程/産婦人科専門医 遠見 才希子)
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