- 2019年09月27日 16:04
甲状腺検査はリスク評価を攪乱する――疫学からみた福島の甲状腺検査 / 祖父江友孝氏インタビュー - 服部美咲
2/2歴史と海外の知見に耳を傾ける
――かつて、日本では子どもの神経芽腫のスクリーニング検査が行われていました。その後、平成15年に厚生労働省の報告書が出て、スクリーニングは中止になったという経緯があります。
子どもの神経芽腫のスクリーニング検査については、海外でランダム化比較試験(ここでは、対象となる子どもたちを2つのグループに分け、片方で検査を行い、片方で検査を行わないこと)が行われた結果、死亡率低減効果がないということがわかりました。
子どもの神経芽腫のスクリーニング検査は、日本で開発された技術を使って、日本でのみ行われている検査でした。検査技術の開発を受けて、死亡率減少効果についての評価を行わずにスクリーニング検査を始めたところ、「過剰診断が起こっているのではないか」という声があがりはじめました。スクリーニング検査開始の後に、神経芽腫による死亡率が減少しているという証拠が出なかったんです。やがて、海外で「神経芽腫のスクリーニング検査には死亡率低減効果がない」という論文が出ました。
子どもの神経芽腫では、治療をしなくても自然に消えてしまうという症例が多く見られました。肺や全身への遠隔転移までしていても、成長とともに自然に消失するという例もありました。こういった劇的な例を、臨床の先生方はみて、感触も得ていました。そういったこともあり、スクリーニング検査の継続は慎重にしなければならないという判断があったのだと思います。神経芽腫の子を持つ親の会も、検査中止にあまり反対しなかったと聞きます。
――2018年に出たIARC(国際がん研究機関)の勧告を、どのように受け止めればよいでしょうか。
海外の専門家から見れば、「甲状腺がんスクリーニングはすべきではない」という明確なメッセージです。その上で、放射線被ばく線量が高い個人に限って、個別にモニタリングプログラムを組むことは考慮しても良い。福島で「甲状腺がんスクリーニングを受けるのが当然」と思っている人にとっては、まったく逆の勧告です。びっくりして「どうしてそんな勧告が出るのか」と思った一般の方に、丁寧に説明をしなければなりません。
しかし、まずはとにかく、福島における常識と海外における常識には相当ギャップがあるということを認識することが大切です。マスメディアには、一般に向けてIARCの勧告をしっかり伝える責務があると思います。
参考リンク
・甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際がん研究機関(IARC)国際専門家グループの報告書について(環境省)
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/post_132.html
・「神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会」最終報告
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0814-2.html
・福島県「県民健康調査」甲状腺検査評価部会/第10回資料「疫学研究の質と因果関係判断の考え方」(祖父江部会員提供)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250465.pdf
・がん研有明病院「甲状腺がん」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/thyroid.html
・公正で倫理的な「天秤」を持つ――がんのスクリーニング検査のメリットとデメリット/津金昌一郎氏インタビュー/服部美咲
https://synodos.jp/fukushima_report/21788
・医師の知識と良心は、、患者の健康を守るために捧げられる――福島の甲状腺検査を巡る倫理的問題/髙野徹氏インタビュー/服部美咲
https://synodos.jp/fukushima_report/21604
・韓国の教訓を福島に伝える―韓国における甲状腺がんの過剰診断と福島の甲状腺検査
https://synodos.jp/fukushima_report/21930
・福島で見つかる甲状腺がんは被ばくとの関連がない
https://synodos.jp/fukushima_report/22744
・続・福島の甲状腺がんと放射線被ばくに関連なし――福島県「県民健康調査」検討委員会
https://synodos.jp/fukushima_report/22873
・過剰診断とは何か?–福島の甲状腺検査の問題点



