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「韓国がケンカをふっかけてきた」という誤解 「知日派」韓国人の声 その1

ヤン・テフン(梁泰勲)著 『僕は在日〈新〉1世』(構成・林信吾 平凡社新書)

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】

・韓国人ジャーナリストが日韓関係の悪化を懸念。

・韓国にとって日本の発言や行為は同国の三権分立を脅かすようなもの。

・日韓ともに隣国との関係を建設的に考えるべき。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48108でお読みください。】

本誌の読者の皆様には、はじめまして、ということになりますね。

日本に来て30年ほど、フリーのジャーナリストとして働くようになってから20年近くになりますが、主として日本の情報を韓国に送るのが仕事で、日本のメディアに露出する機会はあまりないもので。

申し遅れましたが、私はヤン・テフン(梁泰勲)と申します。

韓国の釜山出身で、今も言いましたように、日本在住のジャーナリストとして活動を続けています。

『僕は在日〈新〉1世』(構成・林信吾 平凡社新書)という本をお読みいただければ、どういう経緯でこうした職業に就くこととなったか、また、韓日両国それぞれに対する思いも、伝わるのではないかと思います。

ただ、なにぶん10年以上も前に出版された本なので……

その当時は、本の中でも自分のことを「基本的に親日」であると規定していましたが、今は強いて誇らしげに言うなら「知日」かな、と思うようになっています。

これはなにも、日本に対して心理的に距離を置くようになった、ということではありません。

人生の半分以上を日本で過ごした韓国人として、とにかく日本が大好き、というのではなく、日本の良いところも悪いところも一段と深く理解し、歴史問題などもよく勉強し、正しい情報を発信するように心がけようという、私なりに前向きな表現なのです。

たとえば、9月の前半は九州に出張し、有名な吉野ヶ里遺跡などを見学してきました。

ああいう、遺跡の保護に予算とエネルギーを注ぎ込む姿勢は、韓国人も見習うべきではなかろうか、自国の歴史を大切にするとは、具体的にはこういうことではないのか……そういった問題提起を、韓国に向けて行おうとしているところです。

▲写真 吉野ヶ里遺跡全景 出典:Wikimedia Commons; Saigen Jiro

そんな私ですから、昨今、韓日両国の関係が悪化に歯止めがかからない状況には、本当に心を痛めています。

とりわけ昨年10月に、日本の最高裁に当たる韓国の大法院が、戦時中に徴用工だった韓国人の訴えを認め、日本企業に賠償を命じる判決を出して以降、両国の関係はどんどん険悪になっています。

それ以前から、領土問題はくすぶっていましたし、歴史問題がからむと、とかくエキセントリックな意見が人気を博するような傾向は、どちらの国にもあったと思いますが。

ただ、日本のネット社会の一部で信じられている、

韓国が、またまた歴史問題を蒸し返して、ケンカをふっかけてきた

という見方に対しては、それは事実ではない、と明確に申し上げたい。

まず徴用工とはなにかと言いますと、戦時中の日本には国家総動員法というものがありまして、国家の要請があれば、本人の意志と関わりなく軍需工場などで働かねばなりませんでした。この制度が植民地であった韓半島(朝鮮半島)にも適用されたのです。そして、徴用された韓国人や遺族が、謝罪と未払い賃金などの補償を求めて訴訟を起こしたわけですね。

ネットの一部では、

「日本人労働者と同様に衣食住が保障されており、奴隷労働などではなかった

「そもそも単なる出稼ぎ労働者だ

といった〈研究発表〉もなされてますが、問題の本質が理解できていないのに、こういうデータがあるぞ、などと言われてもねえ。

もちろん日本政府は、ここまで愚かなことは言っていません。単に、植民地支配にからんで生じた問題は、1965年の日韓請求権協定ですべて解決済みなので、このような判決は「国際法に照らしてあり得ない」と反発したわけですね。この発言は安倍首相自身のものです。

そこで、韓国政府に抗議し、そこからどんどん問題がこじれていったわけですが、これを韓国人の目から見たら、ケンカをふっかけてきたのは日本の方だろう、ということになるわけですよ。

たしかに現代の国際社会では、条約や二国間協定といったものは、国内法や司法判断に優越する、と考えられています。

しかし、だからと言って、どこの世界にこんな抗議をおとなしく受け容れる政府があるんですか、という話ですよ。内政干渉どころか、韓国の三権分立が脅かされたも同然の行為ではありませんか。

日本の政治家がこの判決について「遺憾に思う」のはまったく自由ですし、その意見を世界に向けて発信するにも、やはりまったく自由ですが、韓国政府に抗議するというのは、あきらかに筋が違う。

日本ではこういうことを「江戸の敵を長崎で討つ」と言いますよね。最大限、善意に解釈しても、日本政府の対応にはボタンの掛け違いと言いますか、大いなる誤解があったようだと言わざるを得ません。

その後、韓国政府は日本側からの仲裁の提案に応じる姿勢を見せていませんが、これまた、話の順序が逆だろう、ということなのですね。韓国の政府=行政府が司法判断に口出しはできないし、いわんや外国政府が文句を言うなど、それこそ「あり得ない」というのが、韓国政府の立場なのです。

▲写真 文大統領 出典:ロシア大統領府

日本では、いわゆる外圧や政治的な思惑が、司法判断に影響を与えるようなことが、そんなに年中起きるのですかと、嫌みのひとつも言いたくなるではないですか。

まあ、こんなことを言いますと、逆に嫌みを言われそうですね。韓国の司法がそんなに健全だとは知りませんでした、と。

実は私自身、この判決に問題なしとはしない、と考えてますし、何故このタイミングでこうした判決になったのか、という点に関してはきわめて批判的な立場です。この問題は、もう少し後でお話しさせていただきましょう。

それはそれとして、ここでもう一点、明らかにしておきたいのですが、私は日本の安倍政権にも韓国のムン政権にも肩入れしていませんし、そもそもフリーランスのジャーナリストですから、韓国政府の利害を代弁する立場ではまったくありません。

あくまでも、韓日双方の報道を読み比べ、両国のジャーナリズムに築いたネットワークを活かして得た情報を、客観的に語るのみですが、韓国政府は今、困り果ててますよ。

日本政府も韓国の国内世論も、きわめて非妥協的、もっとはっきり言えば頭に血が上ったような状態になっていまして、完全な板挟みですからね。

徴用工判決が出てから、もうすぐ1年が経とうとしています。

このあたりで、お互いひとまず頭を冷やして、隣国との関係というものを建設的に考え直してみるべきではないでしょうか。

(取材・構成・文責/林信吾)

【ヤン・テフン】

1967年、釜山生まれ。韓国の大学に合格していたが、兵役満了後、日本に私費留学し、城西大学経済学部卒業。韓国のTV製作会社の日本子会社勤務を経て、通訳・コーディネイターとして独立。現在はジャーナリストとしても活躍中。

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