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英公共放送BBCの受信料支払い率は94.3% N国党のような政党はイギリスで誕生するのか

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日本では、「NHKから国民を守る党」(通称「N国党」)が支持を増大させ、7月の参議院選挙では党首立花孝志氏が一議席を獲得するまでに至った。

NHKから国民を守る党HPより

政党のウェブサイトによると、NHKにお金(受信料)を払わない人を「全力で応援・サポートする」政治団体だという。公約は、「NHK集金人のトラブルを解決するために、集金行為が必要ないNHKのスクランブル放送化(契約した人だけが視聴できるようにするシステム)の実現」だ。

筆者が住むイギリスでは、NHKの英国版に当たる公共放送「BBC(英国放送協会)」を中心にして、放送=公益に奉仕するサービス、という考え方が強い。その支払いの強制力は日本よりも強く、視聴世帯の94.3%が受信料を支払っている(日本は81.2%)。「自分の懐からお金を出し、公益のためにみんなで支えあう放送を維持する」のが基本的な概念だ。

立花氏が主張するように、スクランブル化でNHKの放送受信を停止した場合、広告収入を基盤とする商業放送やNHK以外のインターネット放送に頼ることになるが、そうなると、「公益」という部分は誰が担うのか、ということが問題になる。BBCもこの先どれぐらい公益サービスとして存在できるのか、危うい状況にある。

欧州の公共放送の受信料制度について、BBCとNHKを中心に比較してみたい。

イギリスの主要テレビは、すべて「公共放送」

BBCは、1930年代半ばにテレビ放送を開始し、1955年、商業放送ITVが登場するまで、イギリスの唯一の放送局だった。

Getty Images

その後、地上波の主要放送局が複数生まれてくるが、BBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5の4つの放送局はすべて「公共サービス放送」の枠に入っている。BBC以外は放送事業の主な収入源は広告で、そういう意味では商業放送・民間放送ではあるのだが、「公共放送」としての決まりを守らなければならない。偏りがないニュース報道を行うなど、番組内容にも規制がかかる。

BBCだけが放送サービスを提供していた時期が長く続いたこともあって、「公益のための事業=放送」ととらえる考え方がイギリス社会に深く浸透することになった。

「BBCの番組を見ないから」と受信料の支払いを拒否できない

NHKの受信料に当たるBBCの受信料は、正式には「テレビ・ライセンス(TV Licence)」であるが、以下、比較の便宜上、「受信料」と表記したい。

BBCとNHKの受信料体制は、似ている点が多い。

小林恭子

BBCは通信法、NHKは放送法などそれぞれ法律によって支払いが義務化されており、視聴世帯から受信料を徴収する。料金が年間約2万円程度であることも似ている(NHKは衛星放送の受信を含めた場合、年間2万4770円)。

誰が支払い対象者となるかを細かく見ると、NHKの場合は「放送受信契約世帯」で、放送受信契約者とは「放送を受信することができる受信設備を設置した者」だ。

BBCの場合は、十数年前から再視聴サービスを含むオンデマンド視聴を実現させていた経緯もあって、「放送あるいはオンラインで配信されるテレビ番組を同時視聴あるいは録画できる、あるいはオンデマンドでダウンロードあるいは視聴できる装置を設置する、あるいは利用する世帯」、と細かく規定している。コンピューター、スマートフォンなど、どのような装置を使うかは問われない。

BBCのオンデマンド視聴サービス「iPlayer」以外のオンデマンド視聴サービスを使って番組を放送後に視聴し、ライブ放送を全く視聴しない場合は受信料を払う義務がないので、若干の例外はあるものの、ほとんどの世帯が支払い対象世帯となる。

一方、BBCには支払い免除となる人たちがいる。まず、75歳以上の高齢者は全額免除だ(来年6月から、低所得層の高齢者に限定される)。また、重度の視覚障害者が住む世帯では半額となる。

NHKの場合も公的扶助受給者や障害を持つ人の状況によって、全額あるいは半額免除となり、学生も親の状況などで全額免除になることがある。

受信料収入はBBCが約4953億円であるのに対し、NHKは7122億円とだいぶ差があるが、これはイギリスの人口が日本の約半分であることに起因すると思われる。

日本では、放送受信料とはNHKの受信料を指し、イギリスでもTV受信料と言えば、BBCの受信料のことを指すのが普通だ。しかし、日本では「NHKの」受信料であることが法的に決められている一方で、イギリスでは、実は特定の放送局を対象にしたものではない。放送業全体のために徴収されており、「BBCの番組を見ないから」と言って、受信料の支払いを拒否できないようになっている。

ただし、BBCが集めた受信料は、いったん、国庫に入り、それから同額をBBCに戻す形を取り、BBCの国内の放送活動のために使われている。

注目して頂きたいのは監督機関の違いだ。BBCの所轄はデジタル・文化・メディア・スポーツ省になり、BBCの受信料の値上げ率は担当大臣との交渉によって決定されるものの、監督機関は、電気通信・放送分野の独立規制機関オフコム(情報通信庁)だ。オフコムは規制対象となる業界からの資金によって運営されており、放送・通信市場の競争促進を通して、市民・消費者の利便を図ることを主目的としている。

日本の場合は、監督機関が総務省となり、総務大臣、つまりは政府の意向によって活動内容に干渉される土壌を作っているのではないかと筆者は懸念している。

場合によっては家宅捜査も 受信料未払いに厳しいBBC

受信料の取り立てを比較してみよう。

BBCとNHKの最新の資料によれば、支払い比率(支払い対象世帯の中で、支払った世帯の比率)は、NHKが81.20%のところ、BBCは94.30%に上る。

BBCは受信料を集金する役割を担っているが、実務は「TVライセンシング」というブランドネームのもとで、複数の民間企業に委託している。例えば、事務処理や支払ったかどうかの確認、取り立てなどを担当するのは、キャピタ・ビジネス・サービス社である。

同社は受信料を支払っている世帯、支払っていない世帯の約3100万に上る情報を持ち、これを活用して支払い済みか未払いかを確認するとともに、未払いの可能性が高い世帯の住所に探知用ワゴン車を向かわせて状況を調査させている。

もし未払いであることが調査で判明した場合、支払いを求める手紙、電話、電子メールなどが送付される。それでも支払いが行われない場合、調査官が派遣され、該当する世帯の敷地で受信料を支払わずにテレビ番組を視聴・録画している、あるいはBBCの番組をオンデマンドサービスの「iPlayer」で視聴あるいはダウンロードしているかどうかを調べる。

BBC iPlayerのHPより

場合によっては、裁判所から家宅捜査令状を取り、警察官とともに家宅に入り、調査を行うこともあるという。

調査の結果、受信料を支払わずに、上記のサービスを利用していたことが判明した場合、訴追され、有罪となれば最大で1000ポンド(約13万円)の罰金が科せられる。裁判費用の負担も義務化される。複数の法律アドバイスのウェブサイトによれば、受信料未払い自体で刑務所に送られることはないが、裁判所の支払い命令に従わない場合、禁錮刑もあり得るという。

TVライセンシングによれば、受信料未払い疑惑で調査官が訪問した世帯住所は、2018-19年度で、270か所に上ったという。このうち、21万6900戸が視聴・録画しているのに受信料未払いだった。

この中で、どれぐらいの人が有罪となって罰金を支払ったのかについて、BBCは全国的な統計をまとめていないが、テクノロジー・サイト「ザ・レジスター」の計算によると、2016年、不正未払で起訴された人は18万4595人。この中で2万1300人が無罪となった。裁判まで行った人は14万人。裁判所が命じた罰金を支払わなかったことで刑務所に送られたのは、90人に上った。

イギリスは、地方によって異なる司法圏となるが(イングランド・ウェールズ地方、北アイルランド地方、スコットランド地方)、昨年、イングランド・ウェールズ地方において受信料未払いで起訴されたのは12万9446人(司法省調べ)。このうち女性が9万3319人で72%を占めた。有罪となったのは94%にあたる12万1203人であった。

NHKの場合は、受信料の支払いについて不正があった場合、所定の受信料を払うほかに、2倍に相当する金額を支払わなければならない。支払いを3期(半年)以上延滞した場合、所定の受信料を払うほかに、1期あたり2.0%の割合で計算した延滞利息を払うよう要求される。滞納の場合、督促状が送られ、裁判化もあるが、支払い義務の時効は5年となっている。

BLOGOS編集部

NHKの集金員が自宅を訪ねてくると、どきりとする人は多いと思う。筆者も学生時代は、そんなひとりだった。しかし、BBCの場合と比べると、ソフトなアプローチと言えそうだ。

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