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産経新聞【正論】強靱な対外情報発信態勢確立を

産経新聞【正論】
2019年9月5日

 韓国の徴用工問題に端を発した日韓対立は、韓国政府が日米韓安全保障の要である日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA(ジーソミア))を破棄する事態にまで発展した。出口が見えない現状を前に、越え難い両国の文化の壁を痛感する。

≪歪な日韓関係に文化の壁≫

 「言葉多きは品少なし」「多言は一黙にしかず」といった言葉があるように、日本人は「和」を尊び議論を好まない傾向がある。海に囲まれた島国として共通の価値観を持ち、主張しなくても理解し合える平和な環境が育てた文化であろう。

 一方の韓国人は仮に非があっても明らかな証拠でもない限り自らの正当性を強硬に主張する。長い歴史の中で、絶えず隣国から強い圧力を受けてきたこの国が「生存するための知恵」だと多くの人が指摘する。

 筆者は、この違いこそ、歪(いびつ)な戦後の日韓関係をつくってきた一番の原因と考える。歴史問題で韓国は〝告げ口外交〟とも形容される強引な日本批判を展開してきた。対する日本はその執拗(しつよう)さに辟易(へきえき)し、必要な反論をしてこなかったきらいがある。

 例えば、韓国元徴用工の請求を認め日本企業に損害賠償を命じた昨年10月の韓国大法院(最高裁)判決。日韓両国間の請求権問題は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」とされ、日本はこれを受け有償2億ドル、無償3億ドルを支援。韓国はこの経済協力支援を基に「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長を実現した。

 3億ドルの無償支援に、元徴用工に対する補償も含まれる、と解釈され、韓国政府も「解決済み」の姿勢をとってきた。それ故、日本では元徴用工への補償は韓国の内政問題と理解されてきた。

≪国と国で交わした約束を否定≫

 しかし、大法院は元徴用工への補償は協定の対象外と判断、個人の慰謝料請求権に道を開いた。国と国の間で交わした約束(協定)を否定するばかりか、今後の多くの訴訟提起に道を開き、戦後処理問題を振り出しに戻しかねない。日本政府は国際法違反を理由に対応を求めているが、文在寅政権に表立った動きは見られない。

 文政権は、朴槿恵政権時代の2015年、「最終的かつ不可逆的な解決」をうたった両国外相会談の確認に基づき、日本政府が10億円を拠出した「和解・癒やし財団」に関しても昨年11月、一方的に解散すると発表した。国家間の確認が政権交代を理由に、いとも簡単に反故(ほご)にされた形で、これでは国と国の交渉は成り立たない。

 日本が打ち出したフッ化水素など3品目の輸出管理厳格化と、輸出手続きを簡略化できる輸出優遇国「Aグループ(旧ホワイト国)」からの韓国外しに対する韓国政府の反応も異常である。

 文大統領は「徴用工判決に対する報復」と決め付けた上で、「過去の過ちを認めず、反省もせず歴史を歪曲(わいきょく)している」などと日本を批判、国民に反日を呼び掛けている。双方とも輸出手続きの運用上の見直しであり、本来、歴史問題や安全保障とは関係ない。
 韓国政府の管理や対応のどこに問題があったのか、今後、明らかになると思うが、いずれにしても歴史問題が生み出す異常なまでの「反日」意識が、その後のGSOMIA破棄につながっているのは間違いない。

 文政権の性格を見れば、徴用工問題で韓国の歩み寄りを期待するのは難しい。徴用工問題は慰安婦、竹島問題などと並び、国民の不満を外に向け、政府批判をかわす歴史問題の要だからだ。伝えられるようにGSOMIA破棄の背後に、側近のスキャンダルによる政権危機回避の思惑があるとすれば、なおさらである。

≪外交は厳しい言葉の戦争だ≫

 GSOMIA破棄後の会見で、韓国の国家安保室は「ホワイトハウスと協議してきた」と語った。一般的には「同意があった」と受け取れる発言だが、実際はポンペオ米国務長官らが相次いで不満と失望を表明、そうしたニュアンスを否定した。

 最近、「日本は韓国を見て、韓国は世界を見て外交をしている」といった、ありがたくない評価を聞くことがある。確かにわが国には、「正しいことをしていれば理解される」といった甘い期待感も見受けられる。しかし、沈黙を美徳とする価値観は国内で通用してもグローバル化が進む国際社会では非常識でしかない。

 各種世論調査を見ると、日韓関係を「悪い」と見る人は両国とも急増しているが、一方で日韓関係を重要と見る人も高い数字を占め、文政権に対する韓国世論も賛否に二分されているようだ。内外に向かって、すべき主張を堂々と展開することが日本理解を進め、次代を担う若者を中心に、新しい両国関係の道を開く。

 外交は厳しい言葉の戦争である。政府も久しく情報発信の強化を表明してきた。日韓対立の行方を世界が注目している。国際社会でのプレゼンスを強化するためにも、強靱(きょうじん)な情報発信態勢を今こそ確立するときである。

(ささかわ ようへい)

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