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困ってる若者”がブラック企業に負けず「幸福」になる方法~古市憲寿×大野更紗×川村遼平―「若者」三者鼎談前編―~

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左から古市憲寿氏、大野更紗氏、川村遼平氏(撮影:田野幸伸)
左から古市憲寿氏、大野更紗氏、川村遼平氏(撮影:田野幸伸) 写真一覧
現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。今回は、番外編として若手論者による三者鼎談を実施いたしました。ご登場いただいたのは、「絶望の国の幸福な若者たち」の著者で社会学者の古市憲寿氏、「困ってるひと」がベストセラーとなった作家の大野更紗氏、NPO法人POSSEの事務局長、川村遼平氏の3名。3人の若手論者に、「若者」が現代社会をサバイブしていく上で必要な労働に関わる知識と、日本の雇用の問題点を語っていただきました。鼎談の様子を前後編2回に渡ってお伝えします。【取材・構成:永田 正行(BLOGOS編集部)】

「ニッポンの会社」に広がる「働きにくさ」


―今回の企画のきっかけになったの、NHKで放送された「職場を襲う "新型うつ"」という番組をめぐるお三方のTwitter上でのやりとりでした。

古市憲寿氏(以下、古市):あの番組に関しては「新型うつ」を議論のきっかけにして、現代の「働き方」の問題を考えてみたいという意図があったと思います。「うつ病が特殊な病気」と決めつけてしまう前に、そうした症状の人の増加を労働環境の変化や、社会全体の変化として捉えよう、と。番組内の再現ドラマだけではちょっとわかりにくかったかもしれませんが、「新型うつ」という特殊な個人がいるわけではなくて、社会の変化の中で「新型うつ」が生まれてきているという話だと思います。

大野更紗氏(以下、大野):働きにくい環境というか、「働いていると苦しい」という状況に多くの人が置かれているということですか。

古市:「新型うつ病」は一部の人の病気かもしれないけれど、結局その裏側には「新型うつ」状態の一歩手前の人や、会社に行くことはできるけれど、ちょっと気分はおかしいとか、なんらかのストレスを抱えている人がいるわけですよね。「新型うつ」を特殊な事例ではなく、氷山の一角として考える。そういう「働きにくさ」みたいなものが社会に広がっているという認識だと思います。

大野:それほどまでに苦しい「ニッポンの会社」というのは、どのような組織なんでしょうか?

古市:まず大きなデータを示しておくと、厚生労働省が実施している労働者健康状況調査によると、働く上で強い不安やストレスを感じている人が6割くらいいるとあります。そういう働きにくさや過労死といった話は大ざっぱにはわかるのですが、正直実感としてはわからない部分も多い。僕はフリーで適当に生きている人間ですから(笑)。

川村くんは、普段から働く人の労働相談にのっていますよね。そうした現場の実感を交えて今の日本が抱えている「働きにくさ」について教えてもらえると嬉しいです。日本の労働環境や、職場におけるうつ病の問題をどう捉えていますか?

川村遼平氏(以下、川村):「職場におけるうつ病」に関する統計はなかなかないので、トータルに話すのは難しいですが、東京都の産業労働局がメンタルヘルス系の相談について集計しています。(参照リンク

古市:そもそも、この統計における「メンタルヘルス」というのは何なのですか?

川村:ここに書いていることと同じですが、「本人自らが心の問題を抱えている場合」「使用者との調整の中で心の問題が浮かび上がってくる場合」について、メンタルヘルスとカウントしています。なので、あくまで参考の数字です。

古市:本人の自己申告で、本人が言わなければ、それはカウントしていないということですか?

川村:「使用者との調整の中で」とあるのは、使用者と話していて、「あの人ちょっともしかしたら」という話が出てきたらということだと思います。これによると、メンタルヘルスに関連して、労働問題となるケースには大きく分けて2つの種類があります。

一つは、「会社が従業員の自主的な退職を迫るあまり、それが「いじめ」に繋がり、精神的に追いつめられて発症する場合」。もう一つは、「職場の人員削減が進み、特定の従業員に多くの仕事と責任が積み重ねられ、その重圧に耐えかねて心身の不調を訴える場合」です。相談を受けている感覚としても、かなりそれに近い実感を持っています。

大野:なるほど。この2つのモデルケースはとても大事ですね。私は現在、会社組織に属していないので、以下は想像ですが。

前者については、会社側が「何らかの都合」によって、従業員に辞めてもらわなければならなくなった際に、「なんとなく、辞めてほしい空気」を職場でかもしだすということによって、退職を迫っているというようなイメージですか?

川村:そうですね。それに加えて、具体的ないじめ・パワハラにつながって精神的に追い詰められて発症するというケースもあります。

大野:もう一つのケースについては、昨今の経済情勢の悪化などが要因となり、雇用調整やリストラによって、人員整理が進む。しかし、会社組織の中の仕事量は変わらない。よって当然のことですが、一人の正社員の人にのしかかる仕事の量と責任がものすごく増えている。その結果として、心身の不調を訴えるということですね。

川村:相談が寄せられることの多いアパレルや小売、外食といった業界では、非正規の人が職場に多い。それこそワタミや大庄では、20代の社員の過労死が起きています。ああいう会社で正社員になると、入社一年目で店の業績に対しても責任を負います。

多くの労働者が解雇に対して”泣き寝入り”しているのが現状


古市:よく日本型雇用慣行の歪みという話がされますよね。つまり解雇規制が厳しいことが原因で、会社としてはなかなか従業員のクビを切ることが出来ない。会社が従業員のクビをなかなか切れないから、自主的な退職を迫るしかなくて、いじめなど、精神的に追い詰めるということにつながる。人員削減が進んで従業員が少ないというのも、そもそも解雇規制の問題と絡んでいるとよく指摘されます。

解雇規制が厳しいので、人がなかなか切れない。であれば、一番忙しい時期にギリギリで回せるくらいの人員を取ることが企業にとって合理的になってしまう。その結果、仕事や責任が集中してしまう。そういう理解で良いですか?

川村:解雇規制に関してはちょっと微妙なところがあります。多分念頭におかれている「解雇規制」というのは、裁判などの紛争の場で初めて出てくる話なんです。

大野:中小企業は、法務について専従の事務を雇う余裕もないから、ざっくりしていそうな気がします。社員が数名しかいないような小さな企業であれば、業績が悪化して倒産しそうになったときに「なんとなく、空気」が職場に蔓延するのはわかります。

しかし、いわゆる東京証券取引所一部に上場しているような「大企業」には、たいてい、法務部門がありますよね。日本における整理解雇規制というのは、大企業の場合、法務部門が判例に即して判断しているのですか?

川村:ここら辺は、細かく説明しますね。まず、実際に解雇を不当だと裁判で争うのは、今の若者の行動としては少数だと思います。そうすると、辞めさせたい人間を辞めさせるハードルは、実態としてはそれほど高くないですよね。

大野:一概には言えませんが、年齢が若い場合は、もし解雇されたらその会社と裁判で長々と争う時間的・金銭的・精神的負荷を負うよりは、「さっさと次の仕事を探そう」とか「さっさとこの先の人生を立て直そう」と考えそうですが。

古市:誰に相談してよいかもわからないですし。

大野:信頼できる弁護士を探して私企業を訴える、というのは若者にとってはものすごくハードルが高い。それだったら黙って泣き寝入りして、次に働く企業や場所を探した方が楽そうですが…。

私企業や民間の領域における「解雇に対する抵抗感」というのは、高度経済成長期やバブル期に比べれば、希薄になっている気がします。経済的な不況が長引いて久しいです。若者にとって終身雇用はもはや、自明のものではない。

古市:だとしたら、なぜ企業はクビを切らないのですか?

川村:これについても、産業労働局の分析はかなりいいところをついていて、「自主的な退職を迫っている」というんです。

古市:自主的な退職?

川村:つまり勧奨による退職ではないということです。これは、法律上の意味合いが違う。解雇というのは会社の法律行為として、労働者には有無を言わせずに辞めさせることです。一方、「勧奨退職」とは、会社側が申し入れをして、労働者がそれに合意して辞める場合」を言います。それに対して、「労働者側から申し入れがあって退職する場合が、ここで言う”自主的な退職”です。「退職を迫っている」というのと「自主的な退職を迫っている」のとではは位相が違うんです。

古市:自主的な退職を迫ることは、企業側にどんなメリットがあるんですか?

川村:はっきり言うとあまりありません。

大野:「自主的な退職」と、「退職」をしたのとでは、退職金が違うとか?

川村:退職金に違いがあることもあります。ただ、1~2年目で退職する人たちは退職金が元々ありません。不利になる点として、雇用調整助成金やトライアル雇用の助成金のような、雇用維持や雇用創出に関する助成金が受けられなくなります。

古市:受給の条件に、解雇数が多いか否かという項目があるんですか?

川村:退職勧奨や解雇をしたケースがあると、その助成金が受けられないという仕組みになっています。

古市:それは過去一件でもあると、ダメってことですか?

川村:そうですね。半年など、一定期間の間に限ってですが。こうした補助金が受給できなくなることを嫌がるというケースがあります。もう一つは後でも話が出てくると思いますが、言質として「自分から辞めました」という退職届を取っておいた方が無難という判断です。

大野:それはどういう意味ですか?

川村:「不当に辞めさせられたんだ」といって従業員から訴えられるリスクというのは、会社にとって、それほど大きくないと思います。それでも、万が一にも、そういうことが無いように、「労働者側が、自分の一身上の都合により辞めました」という書面をとっておく、ということです。企業が、過度に訴訟リスクに備えている。

大野:従業員のクビを切ることに対して、企業側が過度に防衛する傾向もあるのでしょうか?

古市:一時期、大企業が社員を辞めさるために、窓際族みたいなところにポストを作って、何も仕事を与えず部屋だけ与えて飼い殺しにするというニュースが話題になりましたよね。そういうリスクは結局起こっちゃうわけじゃないですか。いじめとかも今はパワハラで話題になり始めた。その中でわざわざ自主的な退職届を取ることに、どれだけ意味があるんでしょうね。

川村:現場ではそんなに合理的な行動ばかりが起きているわけじゃない、というのもポイントですね。

大野:今の川村さんの話を聞いていると、企業側でも、労働の法務や事情について、理解をしていない部分があるのではないかと思いました。「必要に迫られて解雇したいのだけれども、なんとなく、どうしていいのかわからない」。

川村:知らずにやっているケースもあります。今日の話では傍論ですが、最近問題になっているのは、「解雇すると大変なことになりますから、辞表をとっておいた方がいいですよ。その枠組み作りについては私たちがやります」と、社労士や弁護士が企業に営業をかけて、その退職届を出させるというところまでを一連のパッケージにしているケースもあります。

古市:従業員を円滑に辞めさせるということ自体が、一つの産業、ビジネスになってしまっているというわけですね。

大野:リスクヘッジビジネスみたいな。

川村:解雇というと大変だから、こういうふうに懲戒の規定を作っておいて、何度か懲戒処分にして、その上で解雇すれば大丈夫だという宣伝も見かけますね。社内のテストを受けさせて、そのテストの点数が悪ければ退職にしますというようなことをパッケージングしてやっていたというケースもあります。

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