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福田多宏税理士・法人税法違反事件、「大逆転判決」の可能性~10月9日大阪高裁判決への期待

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最近、権力集中の政治状況もあって、世の中全体は、権力におもねる傾向が強まっているように思える。これまでも、「長いものには巻かれない」という生き方を通してきた私だが、「権力との戦い」に注ぐエネルギーは、一層大きくなっている。

その「戦い」の一つの東京地裁立川支部の青梅談合事件(【青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】)は、初公判で、公訴事実を全面的に認めて検察官請求証拠すべてが同意採用という「絶望的な状況」から弁護を受任した、全面無罪を主張した事件だったが、【青梅談合事件、「無罪判決」に涙】という結末に至った。

7月は、その談合事件の論告弁論期日(7月19日)に向け、弁論作成に忙殺されていたのと同時並行で、最終局面を迎えていた(7月17日の弁論期日で結審)のが、税理士福田多宏氏の法人税法違反事件の控訴審の審理だった。

これも、事務所の公開アドレスへの弁護の依頼メールから始まった事件で、その時点では、あまりに「絶望的な状況」で、さすがの私も受任を躊躇した。しかし、その後、弁護を受任し、全面無罪を主張して戦ってきた。

その事件の控訴審判決が10月9日に言い渡される。

「絶望的な状況」から弁護を受任した「もう一つの事件」

この事件は、税理士で経営コンサルタントを営む福田多宏氏が、F社など不動産関連会社2社の実質的経営者と、両社の経理部門統括者と3名で共謀の上、架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、法人税を免れたとして、大阪地検特捜部に逮捕・起訴された脱税事件だった。

福田氏は、捜査・公判で脱税の事実を全面否認、270日にわたって勾留された。昨年(2018年)3月に一審で有罪判決。一審弁護人がそのまま控訴審を担当し、控訴趣意書は、昨年8月に提出済みだった。私の事務所公開アドレスに、控訴審の弁護を依頼するメールがあったのは昨年の12月だった。

刑事裁判では「一審中心主義」がとられ、控訴審での新たな証拠請求は「一審で請求できなかったことにやむを得ない事由があった場合」でなければ認められない。しかも、控訴趣意書を送付してもらったところ、なぜか論理式や演算式等が並んでおり、事件の内容も弁護人の主張も、なかなか理解できない。正直なところ、私が弁護を受任しても、できることは何もないように思えた。がん治療で言えば、全身にがんが転移して、手の施しようがなく、余命数か月という状況、野球で言えば、9回裏二死無走者で0-10という戦況に等しかった。

しかし、脱税への関与を全面否認した福田氏の勾留が270日もの長期に及んだ一方で、脱税の主犯であるはずの会社社長(U氏)は逮捕すらされず、在宅起訴。福田氏と同時に逮捕された経理部長(M氏)は、福田氏に不利な供述に転じた後に釈放され、起訴もされていない。典型的な「人質司法」であり、「ヤミ司法取引」も疑われる事件だった。しかも、「業務委託契約は架空ではなく、実際に膨大な仕事を行い、成果物も残っている」と主張する福田氏自身が、長期にわたって身柄拘束されていたことで、仕事の成果物の存在が長期間明らかにならず、一審での弁護活動の支障になったことも否定できない。福田氏は、権力に虐げられ、救いが必要な人であることは間違いなかった。

とは言え、控訴趣意書も提出済みの控訴審で、弁護人として一体何ができるのか見通しがつかず受任する決断ができないでいたところ、今年の2月に、一審を担当した弁護人2人が、体調の問題で相次いで辞任し、弁護人が不在となったという連絡を受けた。

「結果が変わらないことは覚悟しています。最後に郷原先生に弁護を担当してもらって、それでもダメなら諦めがつきます。そうでなければ一生悔いが残ります」と福田氏から切望され、「誰かが新たな弁護人にならざるを得ないのであれば、私がやるしかない」と考え、弁護人を受任することにした。

新たな弁護団で控訴審弁護活動を開始

控訴趣意書が提出済みである以上、弁護人として行えることは、何とかして、控訴審での新証拠の請求を行い、それに関連してする主張を組み立て、控訴趣意補充書を提出することだった。

もちろん、一審で2年にもわたって審理した事件であり、記録も膨大だった。弁護団として、相当な人的パワーが必要になる。私が主任弁護人となり、東京で3名(東京チーム)、大阪で2名(大阪チーム)の弁護団を結成した。

まず、何とか反撃の糸口をつかみたいと考え、元経理部長のM氏に、弁護人の一人から「控訴審弁護人の聴取に応じてほしい」というメールを送信した。しかし、全く返答はなかった。

昨年8月に控訴趣意書が提出された後、12月に裁判長が異動で交代した関係で、公判期日の指定が遅れていたが、今年2月に、第1回公判が4月12日と指定されていた。弁護人全員が交代したことを理由に、期日変更を請求した。少しでも準備期間を長くとりたかったが、控訴審が係属してからすでに1年を超えていることもあり、裁判所は、「5月中には期日を入れたい」との意向だった。5月24日に第1回公判期日が指定された。

そうなると、遅くとも、連休明け、5月10日頃までには、一審判決を覆せる主張を組み立てて控訴趣意補充書を提出しなければならない。しかし、主任弁護人の私は、4月16日の桑田氏の国循事件の最終弁論に向け、最後のバトルで忙殺されていた。

残された期間は僅かしかなかった。

「確定日付」のある文書という「新証拠」を入手

そこに、「神風」が吹いた。

弁護団側に、「重要な新証拠」が提供されたのだ。

福田氏は、「業務委託契約は架空ではなく、実際に膨大なIT関係の仕事を行い、成果物も残っている。委託契約に基づく支払は正当なもので、所得を隠す手段ではない。それが、F社側に還流していたが、F社側の資金繰りのために必要と言われ、貸付けていたもので、返済を受けて業者に支払う予定だった。」と主張していた。その仕事に従事していたIT業者は、捜査段階で、「会社の依頼を受けて実際に膨大な量の仕事をした。」と供述したが、検察官は、「契約書がない以上、仕事とは認められない。」という「珍妙な理屈」で、その供述を抑え込み、「正当に支払が受けられる仕事はありませんでした。」という内容の供述調書になっていた。

その零細IT業者のうちの一人(T氏)から、次のような話が、福田氏を通じて、弁護団の大阪チームにもたらされた。

検察官の取調べの際、「経理部長のM氏が、一緒に食事をした際に『引き上げているお金は払うから、仕事を頑張ってください。』と言っていた」と供述をしたところ、検察官は、15分間離席した後に、返ってきて、「調書だけ終わらせたらTさんの話を聞くから」と言って、その話を除外したまま供述調書を作成し、その調書に署名させられた。

結局、その点は調書にとってくれなかった。

自分が一生懸命やっていた仕事がすべて否定されたことに我慢がならず、そのような検察官の取調べの状況を文書にまとめ、公証役場に行って確定日付をもらった。

ところが、その確定日付のある文書を持って自宅に帰ったところ、自宅に国税局の査察調査が入っていて、その文書は押収されてしまった。

その後、取調べ検察官が交代したので、その検事にも、「M氏からお金は返すと言われていた」と同じことを訴えたが、全く調書にはとってくれなかった。最近になって、その確定日付のある文書が還付された。

T氏が弁護団に持参したのは「説明書」と題する文書だった。確定日付のある文書であれば、その日に存在していた文書であることが明らかであるし、押収されていたのが最近還付されたのだから、「控訴審での新証拠」として請求できる。T氏の話のとおりであれば、T氏らIT業者がF社のために行っていた仕事に対して、F社の経理部長のM氏が、「仕事の対価は払う」という約束をしていたということになる。F社の経理部長自身が、T氏らに支払義務があることを認めていたことになり、「契約書が交わされていないから対価の支払義務はない」という検察の主張は否定されることになるのである。

取調べの経過が、本当にT氏が説明する通りだったのかを確認するため、検察官T氏の取調べの際の録音録画媒体(ディスク)の開示を求めた。ディスクを確認したところ、T氏の供述内容も、検察官が15分間席を外した状況も、T氏の「説明書」の記載のとおりだった。その後取調べ担当検察官が交代し、T氏が繰り返し同様の供述をしているのに、供述調書に録取しなかったことも確認できた。

我々弁護人は、その取調べのディスクの反訳書とT氏の「説明書」を証拠請求し、T氏の供述に基づき、控訴趣意補充書で、「業務委託契約は実体を伴うもので、架空経費の計上ではない」と主張した。

5月24日の第1回公判で、控訴審裁判所は、「本件証拠を原審で請求できなかったことにやむを得ない事由がある」として、T氏の証人尋問を行うことを決定、6月12日に実施されることになった。弁護人控訴事件の多くは、一回の公判で結審し、短期間で判決が言い渡される。事実取調べが行われること自体が異例だった。

M氏の取調べの録音録画ディスクを弁護団で手分けして見分

T氏の証人尋問が決定されたことを受け、T氏が供述する「M氏発言」についてのM氏の取調べの録音録画媒体も確認することにし、検察官にディスクの証拠開示を請求した。

M氏は、長期間在宅で取調べを受け、その後、逮捕・勾留され、勾留延長されて取り調べられており、取調べの時間は膨大だった。弁護団で手分けをして録音録画媒体を視聴した。

M氏は、逮捕前までは、「業務委託契約には実体があった。脱税の共謀はしていない」という、福田氏の弁解に沿う供述をしていたが、逮捕・勾留後に、供述を翻して、福田氏との脱税の共謀を認め、釈放され、不起訴になっていた。その過程で、検察官とM氏との間で、「ヤミ取引」が行われたのではないか、という疑いをもってディスクを視聴したが、実際には、M氏は、自発的に「これまで福田先生に言われるとおりに嘘をついていました。本当のことをお話しします」と言って、業務委託契約が架空であることを認め、福田氏との脱税の共謀も認める供述をしていた。少なくとも、ディスクを見る限り、「ヤミ司法取引」を疑う状況は全くなかった。

しかし、一方で、重要なことがいくつかわかった。

一つは、T氏が「説明書」で述べているように、M氏が「引き上げているお金は支払う」と発言をした事実があったのか否かについては、M氏の取調べの中では、検察官は全く質問をしていないということだった。

T氏が、「M氏から、『引き上げているお金は支払う』と言われた」と供述したのに、供述調書に録取しなかったことに正当な理由があるとすれば、M氏にも聞いてみないと真偽がわからず、M氏に確認する必要がある、ということだ。しかし、検察官のその後の取調べでそのような質問が行われた形跡は全くなかった。

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