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混合診療の話と、私が歯医者を嫌いな理由のほんの一部

 さて、この頃はすっかり「のど元を過ぎた」感もありますが、TPP「交渉」参加を巡って取り沙汰されたものの一つに、混合診療の問題があります。もっとも、この種の問題に関心がある人ならおわかりのように、TPP参加の有無とは無関係に解禁論が叫ばれてきた代物でもあります。中にはTPP「交渉」に参加しただけで混合診療が解禁されるみたいな言い方をしていた人もいたわけですが、TPPに参加することで起こると言われたものの大半がそうであるように、これもまたTPP参加の有無とは独立して動きのある分野なのです。TPP「交渉」に参加せずと、混合診療の解禁が進められることは十分にあり得る話と心得ておくべきでしょう。

 現行の制度上、健康保険の適用対象となる「保険診療」と患者が自費で全額を支払う「自由診療」は組み合わせてはいけないことになっています。つまり、保険で「A」という治療を受けつつ、同時に自費で「B」という治療を受けることはできない、どうしても両方を受けたいのであれば「A」も「B」も両方を自費で払わねばならない、もし自由診療を組み込むのであれば元々は保険診療であった範囲をも自費で払うようにしなければならないことになっているのです。一方で混合診療が解禁されると、保険診療「A」と自由診療「B」の組み合わせが許され、「A」の部分は保険で、「B」の部分だけを自費で払うという融通が利くようになります。

 ……こう聞くと混合診療を解禁した方が何かとメリットが大きそうに見えるのですが、医療関係者に反対論が目立っていたりもします。今以上に医療格差を増大させるという意見もありますし、医療の質を下げるという主張も少なくありません。そして混合診療解禁後に保険診療範囲が狭められると懸念する人もいるわけです。というより、混合診療解禁を説く人の中には最低限の医療のみを保険診療として残し、高度な医療は自費でまかなえば良い、保険診療を縮小できれば公的保険財政の健全化にも繋がる云々と説く人もいるとか。そうなるかどうか未来のことは定かではありませんけれど、可能性としてはどうでしょうかね。

 純粋に混合診療「だけ」が認められるのであればさておき、混合診療を言い訳にして保険診療の範囲が狭められる、あるいは新たな治療法が確立されても保険対象に組み込まれないようになるとなったら、経済力に乏しい患者にとっては大いに損です。では、そうなる可能性つまり保険適用範囲が縮小される可能性はどの程度なのでしょう。貧富を問わず遍く利益があるのは保険適用範囲の拡大ですが、その「代わり」として混合診療が想定されるなら危ういと感じるところもありますし、実質的に混合診療が解禁されていると言っても過言ではない歯科医療を例に考えてみると、その可能性は概ね推定できるようにも思います。歯科医療に纏わる問題は混合診療に由来するものばかりではありませんが、未来を占うには格好のサンプルなのではないでしょうか。もし歯科の保険診療の水準に不満があるのなら、混合診療(というより混合診療に付随して持ち込まれるであろうもの)に警戒心の一つも持っておいた方が良さそうです。

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 ……で、ここからは余談みたいなものですが、「普通の」医療関係者には混合診療解禁に批判的な人が多いと書きましたけれど、ことは歯医者に限ってみればむしろ逆なんじゃないかという気がしないでもありません。そりゃ事実上の混合診療を既に導入済の業界からすれば、致し方のないところでしょうか。保険ではマトモな治療は難しく、かといって保険治療の10倍(窓口負担では30倍超!)以上が相場の自由診療は敷居が高い、何とも難儀な世界でもあります。自由診療だからと言って適切な治療が受けられる補償はどこにもないにせよ、保険診療で満足な治療が受けられるかと言えば、「不可能」と専ら否定的なことを書いている歯科医師が目立つわけです。まぁ、人知れずひっそり、保険の範囲で懇切丁寧な治療を続けている歯医者もいるのかも知れませんが。

 麻酔の注射を打ったり歯を削られたりは別に構わないのですけれど、それ以外の部分で不満を感じるところが多いので、私は歯医者が嫌いです。例えば無資格の歯科助手なのか歯科衛生士なのか素性のはっきりしない人が問答無用で口の中に手を突っ込んでくることですね。で、こちらの同意なく勝手にスケーリングが始められたりします。この辺はどんな歯医者でも保険診療である限りは共通なのか、今まで一つの例外もなく体験してきたところですけれど、やはり混合診療と同様で歯科助手によるスケーリングもまた違法のはずですし、歯を削るような治療でなくとも事前の説明と承諾は必要ではないでしょうか。しかし、承諾を求められたことは一度たりともありません。で、その分の料金もきっちり請求されるわけです。「頼んでないよ」と断ろうと思ったこともあります。

 まぁ支払い自体は微々たる金額なので気にはしていません。そうでなくとも歯医者の保険診療って安すぎると感じていますから、「ああやって小遣い稼ぎをしないと経営が成り立たないんだろうな」と同情するところもあります。設備の維持に加えて歯科助手、歯科衛生士の給与を支払ってとなると医師が自ら格安の保険診療に時間をかけていては採算が取れないような仕組みになっているのでしょう。だから歯石除去だの歯周ポケット清掃だのと口実を設けてはアルバイトの歯科助手に患者の歯茎をえぐらせて、それを医療行為と称してなけなしの診療費を請求するような脱法行為も横行してしまうのかも知れません。もうちょっと保険の診療報酬を上げるべきじゃないかと思うところですが、そこを高額な自由診療との混合で穴埋めしているのが歯科業界という印象があります。これを行政が放置していいのやら。

 輪をかけて嫌なのは、歯を削ってから補綴物ができるまでの期間です。削った穴に仮の詰め物が入れられるわけですが、これが具合が悪くてたまらない、盛り方が雑で歯がかみ合わず、歯だけではなく顎まで痛くなってくる、「仮」の詰め物であっても最低限の調整は必要と思うのですけれど、どこの歯科医も削った後は歯科助手に任せて他の患者のところに行ってしまいますね。格安の保険診療では数をこなさないと赤字なのでしょうか、そんなわけで「切削面を覆えていない」「変な場所だけ高く盛られて痛い」「冷凍ピラフを食べただけではがれる」と三拍子揃った状態で補綴物ができるまで、満足に飯も食えず痛みをこらえながら過ごす羽目になるわけです。で、土曜日の午後に詰め物が取れて、例によって通院中の歯医者は月曜まで休診、仕方がないから営業中の歯医者を探して仮蓋をしてもらいに行くなんてこともありましたけれど、この場合の請求は「0」だったりします。保険で請求できる範囲でもないのかも知れませんが、「ちょっとぐらい請求してくれてもいいから、もっと丁寧にやって」というのが私の本音です。

 「設備が綺麗」とか「先生が優しい」とかどうでもいいような口コミはあっても、肝心の治療の質までは実際に受けてみるまで分からないのが歯医者の世界です(まぁ、その辺は他の医者も変わらないでしょうか)。なかなか客観的に評価するのが難しいというのはわかります。でも例えばこんなのはどうでしょう、「歯を削ってから補綴物ができあがるまでの期間」とかは客観的な指標として間違いのないところです。いざ歯を削ってから受付で「次は○月×日(1ヶ月後!)です」みたいなことを言われると流石に「次は別の歯医者にしておこう」と思います。保険の銀歯は国内の有資格者に作らせなきゃいけないらしいですが、妙に長い制作期間を聞かされると、中には中国とか人件費の安い外国で作らせているところもあるのではと邪推せざるを得ません。「治療が早い(通院回数が少ない)」を売りにする歯医者はたくさんあるのに、「当院では歯を削ってから1週間以内に補綴物を制作しています」みたいな売り方をしている歯医者を見たことがないのは何でなんでしょうね。私の要望が独特なのか、それとも歯科医師業界が患者のニーズをつかめていないのか。ともあれ私は歯科医療の現状に極めて強い不満があります。

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