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「スクールロイヤー」の現実的な懸念材料

 教育現場の問題に、弁護士が制度的に関与する方向が具体化してきています。2017年から、いわゆる「スクールロイヤー」活用に関して調査していた文科省は、このほど全国各地の教育事務所などに、約300人の弁護士を配置する方針を固めたことが報じられています(日経電子版9月23日付け)。

 今後、どのような役割を現実的に担っていけるのかについては、依然、未知数ではありますが、かなり広い役割が期待されている面があります。日弁連も昨年1月、その整備を求める意見書を発表。そのなかで、「スクールロイヤー」を「学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士」と規定したうえで、助言・指導が想定されるケースとして、次のようなものを列挙しています。

 ① 触法、非行、暴力、性加害等の問題行動
 ② いじめ
 ③ 児童虐待
 ④ 不登校
 ⑤ 少年鑑別所、児童自立支援施設、少年院等から学校に戻る場合の環境整備等
 ⑥ 出席停止、懲戒処分の検討
 ⑦ 障害がある児童生徒への対応
 ⑧ 重大少年事件やいじめ、自殺事件等が発生した場合の対応
 ⑨ 貧民問題での支援等
 ➉ 保護者の行き過ぎたクレームと教員のストレス
 ⑪ 子どもの最善の利益の視点からの指導
 ⑫ 教員の負担軽減と健康管理
 ⑬ 体罰、セクハラ、指導上の問題等への対応
 ⑭ 学校事故への対応(予防、法的責任の確認・対応)
 ⑮ 学校におけるコンプライアンスの実現と紛争の予防

 日弁連は、一部先行して制度化されている自治体かあることも紹介しながら、いかに学校現場に法的なサポートが必要な場面があり、いかに制度構築が必要であるのかについて、意見書で述べています。また、文科省の教育委員会でのアンケートで、76%が「法的な専門知識を有する者が必要」と回答したと記事は伝えています。しかし、「弁護士」の必要性ということに関しては、現場の実情との兼ね合いもあり、現実的には教育関係者の捉え方にバラツキもあるようです。たまたま自分が意見を聞いた教育関係者のなかには、日弁連が描くような必要性を頻度として小さくとらえる見方や、それがどこまで資格者としての「弁護士」でなければならないのか、という声もありました。

 積極的評価や期待感もあるなかで、こと「弁護士」がかかわるということについて、今、極めて現実的な二つの懸念が言われていることを確認しておく必要があります。

 一つは、弁護士のスタンスに関する懸念。つまり、弁護士がどのようなスタンスで、問題に当たる(当たれる)のか、どういう弁護士を当然の前提にできるのか、という点です。あくまで自分が接した限りの印象に過ぎませんが、「スクールロイヤー」の役割として、教育関係者の口から最もストレートに期待する声として聞けたのは、前記日弁連の列挙した項目の➉。いわば「モンスターペアレント」対策としてでした。

 学校対保護者の対立、あるいは学校と保護者の間で板挟みになる教師の立場に絡んで、弁護士の役割に期待する声です。それは、あくまで「モンスター」に対する学校あるいは教師側の有効な対抗措置のなかで、その役割をとらえるもの。とりわけ、関係者が口にしたのは、保護者側が弁護士を伴って、登場した場合などです。つまり、弁護士に対して弁護士を立てて、防衛するという描き方です。

 しかし、いうまでもなく、こうしたクレームについて、常に「モンスター」を前提にすることはできません。「スクールロイヤー」がこの場合、どこまで中立的な立場を貫けるのか、それが担保されるのかについての懸念があるのです。つまり、事実を公平に明らかにする、という以前に、クレームの弱点を学校側の利益のためについている(くる)のではないか、という疑念をどこまで払拭できるのか、ということです。

 もっともだからこそ、日弁連意見書も「子どもの最善の利益」ということを、まさに前提的に掲げているともいえるわけですが、そこは中立性の問題として引きずりかねない問題です。

 さらに、弁護士の資質や現実的な影響力の面で懸念する見方が弁護士の中からも出されています。
 「全国約4万人の弁護士は多種多様であり、考え方や人格のバラつきがある。
その中から誰をスクールロイヤーに選びだすのか。面接方法も採用基準も検討途上であるが、適切に人材を見極めることは極めて難しいはずである」
 「弁護士から『これが法律的判断です』と言われたら、教師や保護者が反論をすることは難しくなる。しかし、弁護士が学校で起きた出来事を正しく認識できるとは限らない。事実を誤解した弁護士が『あの教師の行為は体罰には該当しません』とお墨付きを与えてしまい、生徒や保護者に泣き寝入りをさせてしまう危険性もある」
 「スクールロイヤーの言動に対して、是正と監督の手段がない点も重大である。教師の問題行動に対しては、研修や懲戒処分による是正措置が存在する。もっとも重い免職処分を受ければ、教師は職を失ってしまう。ところが、スクールロイヤーには本業の弁護士業務がある。スクールロイヤーを辞めても収入を失わない。だから、何も怖れることはなく、誰からも是正されずに辣腕を振るうことができる」
 「日常的に生徒と接することもなく、教育現場の実践と苦労を理解していない弁護士が『専門家』として招かれ、上から目線で『指導と助言』をする事態が目に浮かんでしまう」(大前治弁護士「弁護士が学校を支配する…? 『スクールロイヤー』の危うさ」)
 弁護士は、いうまでもなく教育のプロとして、そこに関わるのではなく、法律のプロとして、法的観点から助言・指導することになっていますし、それこそが期待されています。しかし、それは百も承知でも、それを逸脱した影響力をもってしまわないのか、それは何によって是正され得るのかという懸念です。弁護士の資質にかかっているといえば、それまでですが、そこはどういう前提に立てるのか、という話にもなります。

 そして、もう一つ、制度の存続に直結する、弁護士にとって極めて現実的な懸念は処遇です。報道によれば、この制度には、年間経費として約4億円が見込まれ、財源に地方交付税が活用される方向と伝えられています。しかし、依然、この「スクールロイヤー」が現実的にどのように処遇されるのかは未知数です。当然、制度の存続や資の担保も、これ次第ということにもなります。

 増員政策による弁護士過剰がいわれるなかで、全体的に多くの弁護士には、「安く買い叩かれる」方向での活用が現実化していくことへの懸念があります。しかも、日弁連の前記意見書を見ても、その点に関する懸念を前提とした、現実的な「要求」が見当たらず、いつもながらの制度のあるべき論先行の提案がなされているようにとれます。「またか」という声も会内にはあるようですが、法テラスの現実を見ても、弁護士の生活・生存は後回し、なんとかなる、では済まない現実から制度を考える視点が必要なはずです。

 ネット上には、「増え過ぎた弁護士の救済措置」と捉える声が、早くも出されています。当然300人に止まらす、さらに拡大する(させる)ことへの期待感は弁護士会のなかにもあり、その意味ではそうとられても仕方がない面があることも事実です。前記したように、意見書が列挙する役割も、絶対に資格者としての弁護士でなければならないのか、という視点も当然あり得るでしょう。

 これを「弁護士のニーズである」と規定して、突き進む前に、制度の何が現実的課題として立ちはだかるのか。「べき」論に引きずられずに、それを慎重に考えるべきであることこそ、この「改革」の失敗が教えていることという気もしてくるのです。

今、必要とされる弁護士についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4806

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