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企業はなぜブラック企業に転落していくのか? - 玉木潤一郎(経営者)

過去に度々報じられてきた違法残業の問題では、多くの企業が労務環境の不備を指摘されている。

労働基準監督署から是正勧告を受けたり、未払賃金を支払うよう命じられたり、最悪のケースでは社員から自殺者まで出すことがあった。

報道は氷山の一角であり、声をあげられない潜在的なブラック労務やハラスメントは、水面下に多数あると予測される。働き方改革関連法案の施行を待つまでもなく、今後は国をあげて労務問題に取り組まなければならない。

自殺者を出すほどの社会問題でありながら、企業はなぜ労働法規の違反を繰り返すのだろうか。

■労働法規に疎い経営者

企業がブラック化するのは、その規模の大小にかかわらず経営者に責任がある。

労務環境を改善できない経営者を無能だと誹るのは簡単だが、それだけで問題は解決しない。そもそも無能な者が経営者になって企業を存続させることは難しい。問題を起こす企業の中には消費者に支持される商品・サービスを提供する企業も多い。本来なら大半の経営者は有能なはずだろう。

ではなぜ有能であるはずの経営者が労務環境を改善できないのか。

企業で社長に登りつめるような者はそのほとんどがかつては営業のエースだったり、技術者のリーダーだったり、商品開発のカリスマだったりする。労務管理を担当する総務畑や人事のエキスパートが社長になる例は少ない。

筆者の知る範囲では、創業社長であればさらにその傾向は強まる。独立起業を考えるような者はもともと営業や技術のスーパープレイヤーであることがほとんどだ。

ほとんどの社長は会社の収益を向上させることには長けているが、一方で労務整備は金儲けほど得意ではない。

■名選手=名監督にあらず

プロ野球の場合、天才的な名選手は監督に不向きだとも言われる。

独特の感覚や生来の身体能力に物を言わせて現役時代に結果を出してきた天才選手の場合、監督として限られたチームの戦力をやりくりして最大の結果を出す仕事には向いていないと言われる。天才といわれた長嶋茂雄氏がバッティングの指導で「来た球をパチンと打て」と言った、という笑い話があるほどだ。

会社の上司や経営者にはそのミニチュア版が多く見られる。いわゆる「なぜいつまでたっても出来ないのだ?!」「こんな簡単なことにどれだけの時間を費やしているのだ!?」という指導をするタイプである。

このタイプの共通点はプレイヤーとしての能力は高いが、思考の柔軟性に欠ける傾向にある。もともとスピードが速い自分と同じように出来ない者の気持ちが理解できず、それを怠慢や手抜きだと捉えてしまう。

■ヘタクソな労務管理の責任は経営者にある。

昨年から度々報じられた議員の秘書に対するパワハラ問題にも、その傾向を伺うことが出来るのかもしれない。エリートコースを歩んできた「優秀」な議員にとっては、秘書のもたついた言動が理解できなかったであろうことは想像に難くない。

まして企業においては、部下の成果が目に見えるケースが多い。修羅場をくぐってきた上司から見れば、成果のあがらない部下はやること為すことが下手で遅く見えるだろう。

さらに自分自身がこれまで努力して成果を出すことに対する充実感が高かったため、今まさに成果が挙がらず苦しんでいる部下に対する配慮ができない。

そこでやり直しを命じたり長時間労働を強いたりするわけだが、その上司はプレイヤーとしては有能だったとしても、管理職となってからは別の仕事=マネジメントが新たな自分の仕事だという理解が出来ていない。

プロ野球の監督と同じく、企業の管理職は限られた戦力を運用して勝っていくのが仕事であり、自分より出来ない部下を怠慢だと酷使するしか出来ないようであれば、管理職として失格である。

プロ野球であれば勝てない監督はシーズン後に解任が待っているが、企業では厳しい管理職はむしろ評価されてきた。訴訟や自殺者が出るような事件が起きるまで問題が表面化しないとしたら、水面下に潜む労務問題は想像を絶する数であろう。

そして最大の責任は、そのようなマネジメントを是としていた経営者にあることは間違いない。

■We型のマネジメント

国内経済が拡大していた高度成長期には、「お前がやれ」というYou型のマネジメントが通用していた。

これはマネジメントとしては単純で、指示をして管理するタイプの経営である。人口の増加に伴い経済が成長していく高度成長期には、物は作れば次々と売れていくし、人々は今よりさらに快適なサービスを望む。

したがって団塊の世代が現場にいるころは仕事は追わずとも湧いてくるものだったし、You型のマネジメントが当たり前だった。

そんなYou型のマネジメントは、残念ながらブラック労務と直結しやすい。まして現在の複雑な経済環境でそんな単純な経営をしていては、企業は立ち行かない。

これからの日本では、We型のマネジメントが要求されていく。「お前がやれ」ではなく、「一緒にやってみようよ」という形のマネジメントである。個人技に頼るのでなく、商品、広告、販売、アフターサビスなど企業全体のリソースを用いてチーム戦で結果を出していける企業が生き残っていけるだろう。

働き方改革による制度上の改正だけでなく、今後は経営者がWe型のマネジメントを目指すことで、過大な残業やハラスメントに悩む社員がなくなり、企業がブラック体質に傾かなくなることが望ましいだろう。

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