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高等教育無償化に潜む罠 寡婦控除ありなしで給付に54万円の差

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 2020年春、家庭の経済状況にかかわりなく、意欲と能力のある若者に教育の機会を保障する高等教育無償化の制度が始まります。

 わたしは、ひとり親家庭の親と子を支援する団体の代表として、この高等教育の無償化の制度に注目をしているとともに、制度の細目が個々の家庭に伝わるよう注力しています。

 新制度は、大学・短大・専門学校に入学する学生(在学生も2年生まで可)で、家計基準を満たし、学修意欲があると認められ、かつ適用対象の教育機関に進学する場合は、高等教育無償化の対象の学生となり、給付型奨学金の給付と授業料の減免が、1~3の区分で行われます。

 しかし、この高等教育無償化にはひとつの罠があるのです。

 それは、ひとり親家庭の場合「寡婦(夫)控除の適用があるなし」で、家計基準に差が出てくるため、給付額に40万円から50万円以上の差が出るということです。(差がでない場合もあります)

寡婦(夫)控除税制の差とは

 現在、婚姻歴のないひとり親には税制上の所得控除である「寡婦(夫)控除」が適用されません(所得税法2条1項30号のイ及び31号)。

所得控除である「寡婦控除」が適用されないため、算出される所得は寡婦(夫)控除が適用される場合よりも高くなり、この結果より高額の所得税・住民税を課されるだけでなく、所得に基づくあらゆる制度の利用の可否あるいは利用料・給付額などに影響が及んでいます。

平成30年与党税制改正調査会でも、この改正が与党内でも問題となり、激論が交わされたのですが、残念ながら制度改正には至りませんでした。

 そのために、高等教育無償化の新制度においても、新たな、取り扱いの差、言ってみれば「差別」が生じていることが分かりました。

高等教育無償化では、支援額に最高約54万円の差

 ご存じのように、高等教育無償化では対象となる学生においては家計基準があり、第1区分(上限額の満額支援)、第2区分(上限額の3分の2の支援)、第3区分(上限額の3分の1の支援)が行われることになり、大学等の入学金・授業量の減免ほか、給付型奨学金の受け取れる額に差があります。

 その目安表を日本学生支援機構が発表しています。

 下の表は、モデル世帯(夫と妻、子ども二人)の場合です。


 夫婦世帯だけではなくひとり親世帯も含めたもう少し細かい目安表を日本学生支援機構が発表しています。


『給付奨学金案内』2019年度版(日本学生支援機構)

https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kyufu/__icsFiles/afieldfile/2019/05/29/2020_yoyaku_kyuhuannai_1.pdf

 あくまで、日本学生支援機構はこれを目安であると発表しており、シミュレーターで計算してほしいということと、シミュレーターでもおおまかなことしかわからないと注意しています。

 では、シミュレーターを見てみましょう。



 https://shogakukin-simulator.jasso.go.jp/



 シミュレーションを始めてみると、このシミュレーターには「寡婦控除のあるなし」を選択する欄があることがわかりました(これを入れてくださっているのは大変ありがたいと思います)。

そして、寡婦(夫)控除がないとすると、以下のような目安になります。



 世帯の年収が205万円で私立大学に自宅外通学するひとり親の子どもの場合を考えてみます。

 寡婦(夫)控除が適用されるひとり親の子どもの場合、給付型奨学金が90万9600円(年額)受けられ、さらに授業料減免が70万円(年額)受けられます。年間で160万円の恩恵があります。

 しかし、シミュレーターによれば、同じ世帯の年収が205万円であっても、親に寡婦(夫)控除が適用されない場合には、第二区分となり、給付型奨学金の額が3分の2の60万6400円、授業料の減免が約46万7000円となるので、その差額は約53万6000円(年額)になります。

 つまり同じ年収であっても寡婦控除のあるなしで、約54万円の差が出ます(初年度はさらに入学金の減免の差が出ます)。

 年収205万円の家計の中の4分の1の差が出るのです。その分、この学生はアルバイトをたくさんするか、多くの貸与型の奨学金を借りざるをえないのです。

 さらに、年収が320万円で私立大学に自宅外通学するひとり親の子どもの場合、寡婦(夫)控除が適用されるひとり親の子どもの場合は給付型奨学金が17万3200円受けられ、さらに授業料の減免制度も23万3000円程度受けられます。

 しかし、同じ年収320万円であっても、寡婦(夫)控除の適用のないひとり親の子どもの場合は、この制度の恩恵はありません。よって年額で40万円程度の差が出ます。

制度の目的に立ち返ると

 こうした差は子どもの学びと自立を応援する制度として、合理的な差と言えるのでしょうか。

 すべての子どもの学びたい意欲を応援する修学支援新制度に関して、文部科学省は大臣からのメッセージで以下のように呼び掛けています。

――来年4月からは、皆さんの「学びたい」気持ちをさらに応援し、経済的理由で進学をあきらめることがないよう、現行の給付型奨学金の額を大幅に増やします。あわせて授業料 や入学金も支援します。また、対象者も、住民税非課税世帯に加え、それに準ずる世帯ま で拡大します。高等学校などの成績だけで判断せず、皆さんの「学びたい」意欲を何より 重視します。(令和元年 5 月14日 文部科学大臣 柴山昌彦)――

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/05/14/1416660_01.pdf

 こうした目的に沿った制度であるならば、親に婚姻歴があるかないかで、子どもの学びの可能性に差ができる事態は避けたかった、避けるべきではなかったのでしょうか。

 高等教育無償化(新修学支援制度)は、多くの低所得世帯の子どもたちに希望を与えています。それは日々ひとり親の相談にあたるときに実感しています。制度をつくるまでには関係者には多くの苦労があったかと思いますし、ベストの制度をつくることはむずかしいことも承知しているつもりです。

 ですが、とても残念です。

 親が結婚しないで子どもを産み育ててきた、それはつまり、ひとり親が、その子を出産から保育園・幼稚園から小学校、中学校、高等学校まで、さらに高等教育を受けたいと思う年齢になるまで育て、ぶつかってきたであろうさまざまな困難を乗り越え、ようやくここまで辿り着いたということです。

 ここでまた、このような罠、「差別」に出会うことになる多くの親と子は人生の大切な選択の時期に苦しむことになり、最悪、進学をあきらめてしまうのではないでしょうか。

 厚生労働省は子育てにかかわる25施策において、平成30年度から「寡婦(夫)控除のみなし適用」を実施しました。いちばんネックとなっていた、保育料等の計算において、みなし寡婦控除が実現しています。また本年、児童扶養手当の受給者である「未婚の母」には単年度だけですが、特別給付金1万7500円を支給しています。

 厚生労働省の平成28年度全国ひとり親家庭等調査結果によりますと、全国では123万2000世帯の母子世帯、18万7000世帯の父子世帯がおり、母子世帯のうち8.7%がいわゆる未婚の母子であり、父子世帯のうち0.5%が未婚の父子です。

シンプルな解決策は所得税法改正

 解決策は二つあります。

 第一は、高等教育の無償化において、寡婦(夫)控除のみなし適用を行うことです。

 しかし、このように新制度ができるたびに、ひとり親家庭の子どもたちが対象で所得額が関係する制度で、「寡婦(夫)控除のみなし適用」を実施するのは、省庁でも自治体でも大変なことです。今も、未婚の母の児童扶養手当受給者への特別給付金で自治体はてんてこ舞いです。ちなみに、就学援助制度においても寡婦(夫)控除による所得制限の差は残っているのです。

 より根本的な、ベストな解決策、それは、所得税法を改正し、婚姻歴のないひとり親に(離婚のひとり親と同等に)寡婦(夫)控除を適用するようにすることです。

 それが、制度ができるたびに「寡婦(夫)控除のみなし適用」をするよりもずっとシンプルで差別がないのです。

 12月の与党の税制調査会の議論を見守りたいと思います。

※Yahoo!ニュースからの転載

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