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秋場所優勝の御嶽海と準V・貴景勝は「白鵬介錯人」になれるのか - 新田日明 (スポーツライター)

大いに盛り上がったのではないかと思う。大相撲秋場所は関脇御嶽海が昨年の名古屋場所以来となる7場所ぶり2度目の優勝を成し遂げた。千秋楽の本割で12勝3敗と並んだ関脇貴景勝(千賀ノ浦)との優勝決定戦を制し、賜杯を受け取ると両国国技館は大歓声に包まれた。

優勝決定戦では正面から強く当たり、鋭く前へ。もろ差しになると一気に寄り切った。相手に何もさせなかった完勝劇には文句のつけようもない。8日目の本割では貴景勝に突き2発から土俵際まで追い込まれ、粘るもそのまま押し出されて苦杯をなめた。1週間後、運命的な流れでやってきた再戦で見事にリベンジを果たした。

(Martin Leitch/gettyimages)

館内で行われた土俵横での優勝インタビューでは「そろそろ皆さんの期待に応えられるように11月場所で決めたいなと思います」。昇進の期待される来場所での大関取りを誓った。大関取りの目安とされる3場所33勝に到達するためには、来場所で12勝以上をあげる必要性がある。他にも優勝や優勝争いを最後まで繰り広げたり、白星をあげた相手についても考慮されたりするなど多くの要素が大関昇進の判断材料となるだけに、来場所にかける御嶽海の思いは早くも熱量が高まっているようだ。

一方の貴景勝も下馬評を覆す奮闘で最後まで優勝争いに加わり、今場所を大いに盛り上げた。関脇陥落から1場所で10勝以上をあげたことで現行のかど番制度に従い、大関返り咲きも決めた。5月の夏場所で右膝靱(じん)帯を損傷し、途中休場。7月の名古屋場所も全休し、さらには一部週刊誌で貴景勝親子と千賀ノ浦部屋の〝確執〟が報じられるなど公私ともに逆境に立たされていた。

千賀ノ浦親方とは右膝を痛めた後、強行出場するか否かで意見の相違があり、ここでも溝が生じていたとささやかれている。しかし、こうした土俵内外のマイナス要素を今場所の頑張りで見事にねじ伏せてみせた格好だ。

だが、幕引きは残念ながら最悪の形で終わってしまった。優勝決定戦で敗れ、大関返り咲きとの同時Vを達成できなかったばかりか、左胸付近を負傷した。千賀ノ浦親方ら同部屋関係者の話によれば、軽傷ではない模様だ。10月5日からの秋巡業の参加は見送られることになりそうで、来場所への影響も懸念される。せっかく大関返り咲きを決めたにもかかわらず、貴景勝はまたしても〝爆弾〟を抱え込むことになってしまった。

しかも左胸付近の負傷を患った相手が御嶽海だったことで「またか…」と思った人は多かっただろう。右膝を痛めたのは5月の夏場所4日目で組まれた御嶽海戦だったからだ。いずれにしても貴景勝には、じっくり休んで11月の九州場所で何とか万全な形で土俵に上がってほしいと願うしかない。

「両横綱が休んでいる。3敗、4敗の優勝者ってちょっと物足りない」

今場所は26歳の御嶽海、そして23歳の貴景勝と2人の若い世代が土俵上でしのぎを削り、千秋楽まで優勝が決まらず目の離せない戦いが続いた。それでも大相撲観戦歴も長い、某コメンテーターが千秋楽当日に放映されたテレビ番組で「両横綱が休んでいる。3敗、4敗の優勝者ってちょっと物足りない」と発言するなど、ネット上では物議を醸していた。

この発言に対して四の五の言うつもりはない。ただ「両横綱が休んでいる」場所であったのは紛れもない事実だ。大関高安も休場していた。だから今場所優勝の御嶽海、そして準Vの貴景勝は白鵬、鶴竜の両横綱と高安が復帰してくるであろう来場所以降も主役にならなければいけない。特に白鵬に対しては引導を渡す〝介錯人〟になるぐらいの気持ちで臨んでほしいと願う。

相撲界に世代交代を印象付ける

無双横綱の白鵬もピークは過ぎ、土俵人生は「最終章」を迎えつつある。帰化も認められ、引退後には日本人の親方として後進育成に努める決意も腹に据えた。第二の人生を着々と描いているが、来年夏の東京五輪までは現役を続ける意向を持っている。白鵬本人としてはボロボロになりながら相撲をとる姿を見せるつもりなど毛頭なく、最後まで無双横綱として君臨し、綺麗な幕引きを図るつもりであろう。それが白鵬の貫く美学だからだ。

だが「勝ち逃げ」を許してはいけない。白鵬を相手に真っ向勝負で倒し、力の差を見せつけて相撲界に世代交代を印象付ける。この〝介錯人〟としての役割を御嶽海、あるいは貴景勝に求めたい。 日本相撲協会の周辺からも次のような声が聞こえてくる。

「白鵬は史上最強横綱の伝説を崩すことなく、東京五輪で土俵入りの夢を叶えた後、どこかのタイミングで身を引く。あまり時間的な猶予はない。それまで御嶽海、貴景勝あたりが取組で完勝し、白鵬に勝っての幕内優勝を成し遂げなければいけない。もちろん2人だけではなく、他の若い力士でもいい。とにかく新しく相撲界を引っ張っていく若い日本人力士の台頭がなければ、白鵬引退後の空洞化につながる恐れがある。

白鵬に引導を渡せないまま辞められてしまったら、世の中は『結局、誰も無双横綱を倒せなかった』と思い込み、その後の相撲界の人気低迷を招いてしまうことにもつながりかねない。白鵬不在の場所ではなく、堂々と白鵬に勝って賜杯を手にすることが何よりも必要だ」

白鵬の〝介錯人候補〟として期待値が高まっているとはいえ、まだまだ2人の力士には物足りなさや未熟さも論及されている。御嶽海は今場所の取組で立ち合いの変化を見せ、次期大関の呼び声が高い中での注文相撲に批判が殺到した。「稽古嫌い」と評される上に「このままでは仮に大関になれても、今の大関たちと同じ『万年大関』で終わる」と予想する関係者も少なくない。

さらに心配なのは貴景勝だ。左胸付近の負傷がどの程度のものなのかは現時点で不透明。だが元横綱稀勢の里の荒磯親方も現役時代、引退に追い込まれた大きな要因となったのは左上腕に加え、この左胸の負傷だった。それだけに早期回復は確かに容易ではないかもしれない。

角界では「貴景勝はケガが多過ぎ。あの小柄な身長(175センチ)に対し、169キロもある体重がネックになっていることも考えられる。典型的なあんこ型力士の突き押し相撲が大きな武器とはいえ、それが負傷と背中合わせとなっているようでは諸刃の剣だ」と不安視する向きもある。

白鵬が現役を退くまで伝説を守り抜くのか。それとも御嶽海、貴景勝ら新時代の旗手が〝介錯人〟として無双横綱に引導を渡せるのか。日本相撲協会の関係者並びに好角家の多くも固唾を飲みながら来場所の戦いを注視することだろう。

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