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- 2012年06月06日 09:00
【ふくしまの話を聞こう】 福島で生きるための放射線知識 佐藤順一
3/3避難も残留も選択肢として等価
佐藤 県外に出て行った人が県内に残っている人に「えっ、まだいるの、大丈夫なの?」みたいに言っていて、県内の人は「もういいよ、そういうの」となっているような場合がすごく多いんです。先ほど触れたお母さん方の声のなかでも「なぜ福島にいるの?と他の地域に住んでいる人から思われるのが非常に辛いです。涙が出ます」「福島県にいるからということで他府県の人から過剰にかわいそうだと思われるのが辛い」というような意見がたくさん出ていて、これは本当にそうだと思うんですね。
たとえば福島県の放射線量がすごく危険だと思っている人は、「福島県にいる人は、逃げたいんだけど仕方がなく我慢しているんだ」なんて思っている人がけっこう多いと思うんです。でも、それは決してそういうことではなくて、福島県に住むことを選択して当然放射線のリスクについても考えたうえで、福島県で暮らしていきたいと思って暮らしている人がほとんどなんです。なかには当然、避難したいけれど事情があって避難できない人もいるとは思うのですが、福島県に残っている人というのは、基本的にはちゃんと考えたうえで福島県で暮らしていこうと考えているわけです。
そらから、子供を守ろうということで福島県からの避難を支援してくださる団体の方もいますが、これはやはり福島県のことを考えてくださっているわけですから、僕とは立場や考え方が違うにしろ、非常にありがたいことだとは思っています。ただ、そういう団体の方の意見は少し過激になりすぎていて、子供を福島県に残している親のことを悪く言ったり、「勉強不足だ」という言い方で非難したり、県内に残ることイコール悪、みたいな姿勢になってきているのが、ちょっと問題ではあるのかなという気はしますね。
避難したいと思う方たちを支えてくださるのは非常にありがたいことですし、感謝している方もたくさんいると思うんですが、避難する・しないというのは別にどちらが正しいというものではないですし、避難していない人が勉強不足なわけではありません。ちゃんと考えたうえで選択したことですから、そこは理解していただきたいと思います。
これは避難支援を受けている方から僕が直接メールで聞いたお話ですが、その方はそういう団体の支援を受けて避難をして、1年くらい経ってからたまに帰ってきたときに、高校生が駅前で普通にダベっていたりするところを見たりするんですね。そういうのを見てあらためて勉強し直して、「あれっ、これは福島県で暮らしても大丈夫なんじゃないかな?」と思ったとしても、今まで支援をしてくれた方々に対して「やっぱり大丈夫そうなので帰ります」とはなかなか言い出しにくいところがある、というような話もけっこう聞くんですね。
たしかにそれはそうだろうとは思うんですよ。避難支援してくれている方は、福島県に住んでいると危険だと思っているから一生懸命支援してくれているわけですし、その方も同じように考えて今までその活動の恩恵にあずかってきたわけですから。しかし、そういうふうにちょっと考え方が変わったり、1年経って現状を見て帰りたいと思ったときに、遠慮して帰りづらいような状況があるというのもちょっと違うんじゃないかな、という気はするんですよね。
ですから、そういう団体の方でこの中継を見ている方がおられるなら、今まで支援してくださったことはありがたいですし、本当に素晴らしい活動だとは思うのですが、もし仮に福島県に帰りたいと考える方が出てきた場合は、気持ち良く送り出してあげてほしいと思うんです。こういう場合には、本人の意志がいちばん尊重されるべきだし、基本的に人間の意志や考え方なんて変わっていくものじゃないですか。考えが変わったからといって「裏切り者!」と責めるような極端な方向に走らずに、「そうなんだ、じゃあ頑張ってね」と送り出してあげるのがいいんじゃないかな、と僕は思います。
今は福島県から避難している方もたくさんいて、僕の塾の生徒の方でも避難している方がけっこういますが、避難した人に対して残っている人たちが「おまえ、なんで出て行くんだよ」と言うのではなくて、「そうなんだ、じゃあ向こうでも頑張ってね。今度遊びに行くから」というような感覚で、人との関わりの輪が拡がるというくらいの認識でもいいんじゃないかな、と僕は思うんですよ。もし考えが変わって帰ってきたのであれば、「ああお帰り、どうだった?」というふうに、軽く受け容れられるような姿勢ができればいいかなと思います。
そのためにはやっぱり、放射線に対する誤解を解く必要があって、今でも何かもう「放射線をちょっとでも吸ったら死ぬ」みたいな意識の人って少なくないですよね。でも、そうではなくて、すべての問題はやはり「度合い」が重要だと思いますし、放射線のリスクでも、リスクのある・なしではなく、どの程度のリスクなのか、どのくらいの危険性なのか、ということを考える必要があります。危険だと言うのであれば、そこら中、何でも危険はあるということになるんですね。室内にいてもインフルエンザウィルスの危険性があるかもしれないし、外を歩いていても交通事故で轢かれる危険性はあるわけです。
身の回りにいろいろなリスクがあるなかで、それがどの程度危険で、どのくらい気にすべきことなのかということを、まずは自分なりの尺度で考えられるようにならないとダメなのかな、という気がします。
原発の是非を論じている場合じゃない
佐藤 そろそろまとめに入りますが、最後に強く言っておきたいのは、今の福島県では検査体制が整ってきて数値などが厳密に測定されたり報道されたりするようにはなってきたのですが、まだそれを適切に扱える段階に達していない一般の方も非常に多くて、その数値を正確に評価できない方も非常にたくさんいらっしゃるということを県外の人に知ってもらいたい、ということです。
僕が半減期などの説明をして「ああ、そうなんだ」というリアクションがくるということは、まだ半減期についても今までちゃんと把握していなかったということですし、たとえばBqという単位について「1秒間に○個の放射性物質が崩壊して放射線が出ていますよ」という説明をしても、「ああ、そういうことなんですね」という話になったりしますので。そういう基礎的な知識をまず固めてから、検査体制などを厳密にしていけるとなお良いのかな、ということがまず一つあります。
あと、もう一つ言いたいこととしては、結局福島県の人たちにとっては、福島県から離れることに対するストレスもすごく大きいんですよ。これは多分皆さんも同じだろうと思うんですが、やっぱり地元愛って何だかんだ言ってあるんですよ。福島県を離れなければいけないということが、低線量放射線で直接被害を受ける以上に人の心を蝕んで、心から身体に悪影響を及ぼしてくることもあるということなんですよね。ただいたずらに福島県からの避難を呼びかけるだけではなく、福島県に残るという選択肢を選んだ人たちにかける言葉についても少しは考えていただきたいな、とは思いますね。
福島県に残るという選択をした人に「大丈夫なの?」と聞くのもまた、その人たちにストレスを加えることになると思うんですね。それは大丈夫だと思っているから残っているのであって、心配してくださるお気持ちは非常にありがたいのですが、それを言葉に出して「心配だ」というふうに言われて「人から心配されてしまうようなことなのかな?」となると、また気持ちがマイナスのほうにいってしまう場合もあります。
ですから、「普通に」接してあげてください、と僕は言いたいんですね。福島県の方々に対しては、普通に接するのがいちばんなんです。普通ですから、福島県は。これについても、先ほどのアンケートの意見を紹介しておきたいんですが、「住み慣れた郡山市でずっと生活したいです。子供を育てたいと思いつつ不安もありました。でも、勉強して頑張っていけそうになりました」というようなお母さんたちのご意見がたくさんありました。
やはり漠然とした情報を与えている方が多いので、こういう勉強会を開いて福島県の勉強をしていくことというのが非常に大事なのかな、と思っています。ちなみに、僕自身は本当に何の団体にも属していませんし、ハッキリ言うと、とくに何かの目的があってこういうことをやっているわけではないんです。僕は原発に対しては賛成とも反対とも言っていませんし、今はそんなことを言っている場合じゃないと思います。原発問題について言うと、僕が講演会をやってお母さんたちにフリーで質問を求めた場合、原発の是非について聞いてくるお母さんなんてまずいませんし、実際に今まで一人もいませんでした。
そんなことを言っている場合じゃないんです、福島県は。原発の是非という問題は、これから先にもしも事故が起きると放射性物質の汚染などで被害に遭うかもしれないから、その前提で議論するという話じゃないですか。でも、福島ではもう起きていますから、すでに。すでに放射性物質がそこまで来ている状況で、「これから先原発は必要か必要じゃないか」なんてことを考えている場合ではないんですよ。そんなことよりも、まずとにかく現実に存在する放射線をどうするかという問題のみを今の福島県民は考えているわけです。
今は脱原発とか反・反原発とかいろいろな議論が出ていますけれど、今の福島はすでにそういうフェイズではないので、その辺の現実を理解してもらいたいな、と思うんです。つまり、原発の是非のような議論のプロパガンダとしてあんまり福島を使わないでください、という気持ちが非常に大きいですね。今はそれどころじゃない状況なので。お母さんたちの意見を見ても、「ここに住んでいて本当に大丈夫なのか」と自問自答をくり返していたり、子供がいるお母さんなんかは「子供がいるのに残るという選択をして、それは本当に正しかったのか」と悩んでいる方が非常に多いんですよ。そういう方々に対しては、僕はこれからも「その選択はまちがいじゃなかったですよ」と断言していきたいと思っています。
そこで、自分で残るという選択肢を選んだ方々に対して、「あなたは子供をがんのリスクにさらしているんだ」というような言い方をするのは、ぜひやめていただきたいと思います。それは違いますから。子供をリスクから守るという意味では、たとえば父親の元を離れて母子だけで逆単身赴任みたいに避難することにも、父親と触れ合えないとか、自分の故郷や友達と離れなければいけないというリスクがあったりするわけです。
ですから僕はこれからも、「個人が下した選択であるなら、避難という選択も残留という選択もどちらもまちがいではない」と断言していきたいと思うんです。今の現状だと「残っていることはまちがいだ、残っている奴は本当にダメなんだ、勉強不足だ」というようなことを断言している方のほうが多いので、それに対するカウンターパンチャーとして、僕はやや安全寄りの話をしていきたいと思っています。
今日は皆さんに福島県のお母さんたちの声をいろいろ聞いていただけたこともよかったと思います。最後になりますけれども、福島県のなかで屋外での活動を制限されている地域が多かったり、自主的にそれを制限している学校もありますが、屋外での活動を制限していることによるストレスのようなものを子供が感じていたり、それに対して不安を感じているお母さんもいますので、そういう現状もわかっていただきたいな、と思います。
放射線から遠ざけさえすれば、ストレスやリスクからすべて解放されるというものではないんです。それをやることによって、何らかの犠牲は払っているわけですし、そのことにリスクや不安を感じているお母さんたちもいるんです。ですから、どちらかに一方にだけ転んで極端なことを言わないでほしいというのが僕の希望です。
僕はこれからも福島県で、お願いされたときに限ってこういう講演活動をやっていこうかな、と思っています。基本的には報酬はいただいていなくて、お願いされたらそこに行ってこういうお話をして帰ってくる、というのをくり返しているだけなんです。でも、これからももしかするとまたこうして東京の方とお話をする機会もあるかもしれませんから、福島県で講演があれば参加者の声は集めておきたいと思います。では、本日はご清聴ありがとうございました。
佐藤順一(さとう・じゅんいち)福島県郡山市の学習塾『佐藤塾』の講師&副塾長 。立教大学理学部物理学科卒・同大学院理学修士 。原発事故後、生徒や保護者から放射線について質問を多く受けたことから、放射線についての資料作成や、地域での講演・勉強会等の活動を続けている。



