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「個人」の刑事責任を追及することの難しさと虚しさ、そして模索すべき第三の道。

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検察審査会ルートで強制起訴され、東京地裁で審理されていた東京電力福島第一原発事故に関する業務上過失致死傷被告事件の判決が出た。

2015年7月の起訴議決に始まり、在宅起訴を経て、行われた公判は、2017年6月の第1回公判を皮切りに実に37回*1

事故からは8年半、起訴からも約4年。当事者でなくても気が遠くなりそうな時間の経過を経て、東京地裁が出した結論は、被告人3名、全員無罪、というものだった。

「福島第1原子力発電所事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力旧経営陣3人の判決が19日、東京地裁であった。永渕健一裁判長は勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)に対し無罪(求刑禁錮5年)を言い渡した。3人は公判で無罪を主張していた。」(日本経済新聞2019年9月19日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

現時点の報道ではあくまで「判決要旨」のレベルの中身しか出てきていないのだが、自分が見た限りではもっとも詳細かつ信頼性が高そうなNHKのニュースによると、おおむね以下のような内容のようである。

「判決で、東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、裁判の大きな争点となった原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて「津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘しました。」
「そのうえで、「原発事故の結果は重大で取り返しがつかないことは言うまでもなく、何よりも安全性を最優先し、事故発生の可能性がゼロか限りなくゼロに近くなるように必要な措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられないわけではない。しかし、当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としておらず、3人が東京電力の取締役という責任を伴う立場にあったからといって刑事責任を負うことにはならない」として無罪を言い渡しました。」
(NHK NEWS WEB 2019年9月19日 17時30分配信)*2

これまでにも強制起訴された業務上過失致死傷事件で、似たような構図で組織のトップクラスの幹部が訴追された事件はあったし、それらの事件でも結果回避義務とその前提となる予見可能性の有無が主要な争点になってはいたのだが、本件の特徴としては以下のような点が挙げられるだろう。

事故による被害がこれまでにないタイプのもので、その広がりも非常に大きいこと*3
・事故の原因となった大震災とそれによる津波の襲来が、客観的に見れば極端に発生確率が低い事象であること*4
・一方で、(信頼性には争いがあるものの)津波の襲来の可能性を指摘する政府委員会の評価結果があり東電側でもそれに基づく対応要否の検討を行っていたこと。

裁判所が指摘したとおり、結果は極めて重大、だが、事故の原因もまた極めて特異、という極端な事件であることから、「被告人らが『東電の幹部』という業務上の地位にあった」ということをもって生じた結果への責任を帰責できるか、という判断もまた難しいものとなった(それゆえに検察官も起訴を見送った)のは間違いないところである。

そして、その悩ましさを見事なまでに投影した(特に予見可能性の「程度」のくだり)上で導かれたのが、今回の無罪判決なのだと自分は理解している。

残念ながら、自分は、本件において予見可能性や、結果回避可能性の判断材料となった証拠そのものに接することはできないし、それらの証拠から結論を導いた判断過程すら完全な形では公表されていない今の段階で、「無罪」という結論の当否を論じることはできない。

ただ、これまで同様、今回も気になったのは、なぜこの3名を刑事被告人として法廷に立たせなければならなくなったのか、ということである。

本件に関しては、政府の事故調査委員会が既に報告書を出しているし、民事訴訟では、原賠法の無過失責任の原則の下、原子力事業者である東電に賠償を命じる判決も既に多く出されているところで、一定の事実関係の解明もなされているし、被害者の救済も一定の範囲で図られている、というのが自分の理解だった。

それでもなお、それに加えて、その時たまたま「その地位にいた」者に刑事責任を追及することが、果たしてどれだけの意味を持つだろうか?

自分は組織の中で長年生きてきた人間だから、大きな組織になればなるほど、「上にいる者は何でもできそうに見えて、実のところ何にもできない」ということを、身に染みて感じている。

権限はあっても必要な情報が入らない、情報が入っても自分の権限だけですべてを動かせるわけではない、権限をもって動かそうとしても伝言ゲームを繰り返しているうちに違う話になる、そして、事柄が大きければ大きいほど様々なしがらみの中で判断できる余地が制約されていく・・・。それは中間管理職でも役員でも一番上の方にいる人々でもそんなに変わらない*5

いくら社内の業務分掌上、広範かつ強大に見える権限が与えられているとしても、それはあくまでフィクション、絵に描いた餅。

コーポレートガバナンスの正道である取締役会、監査役、株主による経営監視から、表に出てこない霞が関、永田町、さらには歴代社長OBへの忖度度等々、明示された権限の行使を妨げる要素はいくらでもあるわけで・・・。

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