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秋吉 健のArcaic Singularity:SIMロックは本当に“悪者”なのか。総務省によるSIMロック解除義務化への見直し報道から、その歴史的経緯と是非について考える【コラム】

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SIMロックの是非について考えてみた!

日々激動する通信業界の中でも、先週や先々週ほど難しい問題が飛び交った週は珍しいかもしれません。10月の改正電気通信事業法施行を前に、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)の各社は次々と新たな料金プランや通信サービスを発表しましたが、そこに総務省がさらなる「待った」をかけました。

待ったをかけられたのはSIMロックに関する仕様です。SIMロックは通信事業者が自社で販売する端末を他社で利用できないように制限するためのものですが、総務省はこの制限を良しとせず、12日にはスマートフォン(スマホ)の割賦販売時であってもSIMロックの即時解除を義務付ける方針を固めたと新聞各紙などで報じられ、17日にも高市早苗総務大臣が「速やかにルールの見直しを進めていきたい」との見解を示しました。

一般にはあまり理解されていないSIMロックとは、一体何なのでしょうか。またSIMロックは必要なものなのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はSIMロックが行われた背景やその是非について考察します。

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楽天モバイルは今後発売する端末についてすべてSIMロックフリー(SIMフリー)とすることを発表している

■SIMロックはガラケー時代の残渣だった

そもそも、端末を他の通信キャリアで使えなくするというSIMロックの仕組みは何故始まったのでしょうか。そこには日本における30年以上の携帯電話の歴史が深く関係しています。

かつて携帯電話はレンタルやリースが中心で、通信キャリアが販売もしくは貸し出していました。その後法改正により、個人での買い切り販売が一般化し携帯電話ブームが訪れましたが、端末はMNO各社の回線契約と共に販売され、その契約した通信回線でしか使えない仕様となっていました。

そういった歴史から、「携帯電話は購入した通信会社の回線で使うもの」という常識が生まれました。携帯電話には通信会社を変更する仕組みというものが基本的に組み込まれておらず、買った携帯電話を他社で使おうなどという発想すら生まれなかった時代です(一部自動車電話などでICカードによる機器認証が行われていたが、それによって機器を自由に交換して利用するといったような趣旨のものではなかった)。

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N501iやN502iが大ブームとなった時代、そのケータイを他社に持ち込んで契約できたらいいのに、などと考える人はいなかっただろう

しかし時代は変化し、携帯電話をめぐる情勢も大きく変化しました。携帯電話でSIMが一般化したのは3G時代です。

回線契約の「本体」をSIMとすることで、端末である携帯電話自体は自由に交換可能にしようというのがその発想の根拠ですが、日本のMNO各社は前例にならい、自社網による端末販売と囲い込み策を継続するため、SIMを他社の端末で使えないようにするSIMロックを行ったのです。

一見すると傲慢にも見える施策ですが、ここには明確な論拠があります。当時、携帯電話は通信料金を原資とした大幅な端末代金および通信料金の月額割引プランが主流化しており、また端末販売自体も同じように通信料金を原資とした実質0円販売や1円販売といった無理のある販売施策を取っていたため、そのような施策の上で販売した端末を契約満期以前に他社で利用されたり、転売されるわけにはいかなかったのです。

業界の外側から見ると「いやいや、それは販売方式や施策が間違っているのでは?」と考えてしまいがちですが、SIMというシステムが導入されるまでの約20年間、通信端末を「自社インフラの終端端末」として販売してきた業界にとって、端末販売の仕組みそのものを大転換するメリットがほとんどありませんでした。

消費者側としても手厚い端末サポートを受けにくくなる点や、何よりも端末を安く購入できなくなるというクリティカルなデメリットが存在したため、受け入れられないだろうという思惑がMNO各社に存在したことは否定できないでしょう。

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通信キャリアは様々な割引施策によってユーザーへ端末を安価に販売してきた

■薄れていくSIMロックの論拠

そのように歴史的な大義名分と販売システムによって守られてきたSIMロックですが、いよいよその論拠も失いつつあるのが現在の通信業界です。

冒頭でお伝えしたように、10月から電気通信事業法が施行され、通信料金と端末代金の完全分離販売が義務化されます。またこの法改正以前からも、自由にSIMを入れ替えて利用できるSIMフリースマホはどこの家電量販店でも取り扱っています。

素直に考えるならば、MNO各社も家電量販店のように全スマホをSIMフリーとして販売するようになるのだと思うところですが、実際はそのようには動きませんでした。たしかに一括払いなどで購入すればどこのMNOの直営店であってもSIMロックの即時解除が可能ですが、そもそも最初にSIMロックがかけられている点は変えていません。

また、割賦販売(分割払い)で購入した場合には100日間のSIMロックが課せられますが、総務省はこれを問題としたのです。MNO側はその論拠として「割賦の踏み倒しを防止するため」と説明していますが、さらにその論拠もまた総務省が策定した「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」であり、MNOにしてみれば「総務省が決めたガイドラインに従ったまで」と、言わば免罪符を受けた形となってしまったのです。

総務省が強い難色を示し「制度の穴を突かれた」と異例の早さで方針見直しの通達を行ったのは、こういった理由からだったのです。

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総務省「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」より抜粋(全文はこちら。PDFにつき閲覧注意

例えば、SIMロックが割賦販売の転売防止や債務回収不能リスクを回避するための施策だったとするならば、家電量販店で売られているSIMフリー端末もまた割賦販売時は販売から100日間のSIMロックをしなければ公平ではありません。

これがMNO専売モデルであったり、SIMフリーでも売られている端末がMNO用にカスタマイズされているのであれば理解もできますが、iPhoneのように仕様が全く同じであるにも拘らず、一方ではSIMロックがかけられ、一方ではSIMフリーで売られるという不思議な市場状況を生んでしまっていることの説明がつきません。

結局通信キャリアは、自社販売の端末やその使い方のアフターサポートしなければいけないという問題や、自社のポイント還元などによって端末の実質値引きを行っているため、完全な分離販売を行えない状況なのです。

またスマホを完全にSIMフリーで販売するということは、消費者の立場にしてみればアフターサポートの多くを販売店に頼れなくなったり(頼れる範囲が非常に狭くなる)、端末代金がそれなりに上昇するということでもあります。

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通信キャリアとしては、自社販売の端末だからこそサポートが可能になる。持ち込みの機種まではサポートできない

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