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自慢のフェラーリが快走、重圧跳ねのけW杯白星発進 - 大元よしき (ライター)

3本のトライを決めた松島幸太朗(写真・松本かおり)

ラグビーワールドカップ(W杯)が9月20日東京スタジアムで開幕した。開会式は、日本らしい繊細さと荘厳さを織り交ぜた演出でスタジアムを異世界へと誘った。人種や国籍を超えた興奮の44日間の旅の始まりだ。

開幕戦の相手のロシアは世界ランク20位で、2011年以来2度目のW杯出場である。ヨーロッパ予選では3位となって本来出場権はなかった国である。しかし、上位のルーマニアとスペインが代表選手の資格違反によってロシアが繰り上げ出場となった。だからといって侮れない。世界ランクでは上位(10位)に位置する日本は、昨年11月に対戦し、ロシアの強いフィジカルに苦しみ「32-27」という厳しいなかでの勝利を経験している。ホームアドバンテージを持つ日本だが、開幕戦という重圧にいかに戦うか、目の前のロシアも強敵だが自身の内なるものとの戦いでもある。

【開会式】富士山スクリーンに映し出された前回大会の名シーン(写真・筆者)

大声援を受けてロシアボールのキックオフで始まった。しかし、そのボールの落下点を見誤りキャッチミス。そこから一気に自陣ゴール前に攻め込まれ、完全に機先を制された形で試合に入った。日本は傍目にもぎくしゃくしており、再びキック処理をミスし落球すると、開始4分でロシアに先制トライを奪われた。ラグビーでは「試合の入り」という言葉がよく使われる。概ね前半の10分までの時間帯を指すが、ここで主導権を取られると焦りから、前半を通して苦しめられる展開になることが多い。

嫌な雰囲気を断ち切るように日本は前半11分に敵陣ゴール前でタテと展開を使った攻撃から右ウイング松島幸太朗がトライを返したものの、その後もロシアのキック攻撃を受け、流れがつかめないまま時間が過ぎる。前半34分には再び松島がインゴールへダイブしてトライするが、TMO(ビデオ判定)の結果、トライが認められずスタジアムから大きなため息が漏れた。前半終了間際、そのうっぷんを晴らすかのような松島の2本目のトライが生まれ、ゴールも決まって前半40分のすべてを使って流れを手繰り寄せたかたちでロッカールームに引き上げた。

そして後半。日本は3分に相手の反則で得たペナルティゴールを決め、続く6分には7番ピーター・ラブスカフニが1対1のディフェンスからボールをもぎ取り、そのまま敵陣へ走り込んで独走トライ。「20-7」とリードを広げて後半の「入り」を掴んだ。その後、ロシアと日本が互にペナルティゴールを1本ずつ決め試合は佳境を迎えた。後半28分、開幕戦に華を飾ったのは、この日、3本目のトライを決めた松島だ。マンオブザマッチも勝ち取った。芝の上を疾駆する松島の姿は全世界に印象付けたことだろう。最終スコアは「30-10」で日本の勝利。

「終われ良ければ全て良し」、ではない。ワールドカップは始まったばかりなのだ。9月6日行われた「日本vs南アフリカ」戦では、キック攻撃を受けたときの処理が課題として浮き彫りになったが、開幕戦でもまさにそのキックに苦しめられた。試合後の会見でリーチ・マイケルキャプテンは、「相手のキック攻撃に対して、アタックできるところはアタックしよう。できなければ相手の奥に蹴っていこうとプランを立てた」と語った。けれど、歯切れの悪いコメントでその言葉通りに運ばなかったことが伺えた。

一方、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、「4年間この日のために準備してきた。この試合に勝てたことは素直に嬉しい」と語り、決定力のあるウイング陣の松島幸太朗、福岡堅樹、レメキ ロマノ ラヴァを「フェラーリが突進するようなもの」と形容し、笑顔を見せた。ほっとした表情が印象的な会見だった。次戦の相手は世界ランク1位の強敵アイルランドだ。課題を修正し、思い切りぶつかってもらいたい。

盛り上がるのはスタジアムだけじゃない

東京スタジアムに向かう前に調布駅前のファンゾーンに立ち寄った。笑顔のボランティアさんたちに温かく迎えられた。平日の昼過ぎ。開会式までかなりの時間があるというのに熱心なファンが集まっていた。ビールを片手に和気あいあい。外国からのお客様たちともすでに交流が始まっていた。調布のファンゾーンは、屋内会場とステージ上の大型ビジョン、さらに日没後は大迫力の壁面スクリーンによるパブリックビューイングが行われる。

ある男性ボランティアは「定年後に何をしようかと目標を失っていたところ、このボランティアのことを知った。昨今の日韓関係のこともあって、海外から来る人たちに本当の日本を知ってほしいという思いがあって応募した」と語り、「やりがいを感じるね」と嬉しそうな表情を浮かべていた。また、別の男性に声を掛けると「ボランティアは英語の得意な人が多いんだけど、おれは京都弁と博多弁が話せるんだ」とか、「こんにちは!って言うだけでお互いに気持ちがよくなる。みんないい思い出を作って帰ってほしいね」と話してくれた。

【ファンゾーン】ラグビー体験もできるファンゾーン、ボール回し(写真・筆者)

ステージではお笑い芸人が会場を盛り上げ、ラグビーアクティビティエリアではスクラムの押す力を測定できるマシーンやラインアウトのリフトアップを体験することができる。それをサポートしていたのは千葉県の高校のラグビー部員たちだった。また、パス回しのエリアにはトップリーグの選手たちの姿もあった。その他、地域の名産品などのテントが多数出店して賑わっていた。

【ファンゾーン】タックルマシーン(写真・筆者)

後ろ髪を引かれるようにファンゾーンを後にして東京スタジアムに向かうと、ボランティアがそこかしこに真摯な対応と笑顔を向けて動いている。今回の取材は試合のみならず、周辺でも気持ちのいい雰囲気を味わうことができた。

筆者は約20年間のサラリーマン生活を経て一念発起。なんのバックボーンも持たないままライターになろうと志した。長い間、ラグビーワールドカップの取材は夢だった。憧れだった。一度はあの興奮を体感したいと思いつつ、この歳まで来てしまった。しかし、今回その夢が叶った。ゆえに「4年に一度じゃない。一生に一度だ」のキャッコピーに胸が震えたのだ。その思い、私も同じだから。

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