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あおり運転の被害者・加害者にならないため「怒りの感情と上手に付き合う方法」とは 日本アンガーマネジメント協会・安藤俊介代表理事に聞く - 渋井 哲也

 常磐自動車道で煽り運転とそれにともなう殴打事件が発生し、運転していた男が逮捕された。ドライブレコーダーがあったことで事件が映像で記録されたことの影響が大きい。東名高速道路でも、あおり運転をした上に、エアガンのようなものを発射したことで男が逮捕された。

 こうしたあおり運転が社会問題化する中で、厳罰化という話も出てきた。ドライブレコーダーも売れているという。しかし、運転手の「感情をコントロールする」側面からの取り組みもある。日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事に話を聞いた。

安藤俊介代表理事(アンガーマネジメント協会提供)

「怒らない」のではなく「上手に怒る」

――アンガーマネジメントとはなんでしょうか?

安藤 怒りの感情と上手に付き合うための、心理トレーニングです。1970年代にアメリカで生まれたとされています。「怒らない」のではなくて、「上手に怒る」「必要のないことは怒らなくて済むようになる」という線引きを目指しています。

 当初、犯罪者の矯正プログラムの側面が強かったんですが、時代の変遷とともに一般化しました。企業研修、教育、人間関係のカウンセリング、アスリートのメンタルトレーニングなど、幅広い分野に転用されています。最近では、「道徳」の教科書で「生命尊重」や「いじめ防止」との関連で取り上げられました。企業向けの講座ではハラスメント防止として需要が高いのです。

 アメリカでは、軽犯罪を犯した場合、矯正教育をしなさいという裁判所の命令が出ることがあります。その中で、DVなど犯罪の状況や内容によっては、アンガーマネジメント命令が出る場合もあります。

――自動車の運転との関連では、どう言えるのでしょうか?

安藤 アメリカでは、ロードレイジ(Road rage)と言っていますが、自動車の運転にともなう暴力行為、粗暴行為をいいます。日本の、危険運転やあおり運転よりも概念は広く、舌打ちをしたりとか、特定のジェスチャーをしたりすることも含んでいます。そのため、誰でも、加害者にも被害者にもなりえると言われています。

 怒りの感情と自動車の運転は、密接に関連しているとアメリカでは考えられています。車社会という要素は大きく、怒りの感情を発露する場面が多いのです。

厳罰化だけではなくならない「あおり運転」

――日本ではどのように考えられていますか?

安藤 あおり運転や危険運転は日本でも昔からあったわけですが、社会的に「犯罪になりえるもの」という認知がありませんでした。しかし、2017年に起きた東名高速道路での夫婦死亡事件、それから、2019年8月の常磐自動車道の殴打事件を受けて、社会的に考えないといけないという機運がやっと出てきたと思います。

 アメリカですと、極端に言えば、スピード違反をしても、アンガーマネジメント命令が裁判所から出る場合もあります。しかし、日本では矯正プログラムの仕組みがありませんので、罰金でおしまいですよね。

 あおり運転に関して、山本順三国家公安委員長(当時)が、厳罰化を含めた道交法改正を目指すことを発表しました。日本では、「矯正よりも厳罰化」という流れになってしまいます。「厳罰化すれば、犯罪がなくなるのか?」という議論と同じですが、それだけではあおり運転はなくならないと思います。

――運転中に、イラついてしまうことは仕方がないと思いますが、それだけの人と、危険運転やあおり運転をする人との差はありますか?

安藤 急いでイラつくことがありますよね。普段の生活のなかで、街の中でも突っかかる人、ネット炎上に加担する人を考えると、少数派だとは思うんですけど、一定のタガが外れたときに、そうした行為をしてしまうということでしょうね。

被害にあわないために一番大事なことは

 どんな性格の人でもなりえますが、あえて言えば、急いでいる人。怒りを溜め込んでいる人です。だから、穏やかな人でも急いでいる人のほうがイライラします。誰もが加害者になりえます。だからこそ、時間に余裕を持って動きなさい、ということなんです。

――常磐道の殴打事件で学ぶことはありますか?

安藤 僕らからすれば、特に変わったことはありません。たまたま、今回はドライブレコーダーが設置されていて、SNSで拡散しただけです。目に見えないところではあれくらいのことがあると思っています。

 ユーチューブで「Road rage」と英語で検索してみてください。殴り合いの映像はたくさん出てきます。身近に感じつつも、あまり見たことはないので衝撃的だったのでしょう。

 被害にあわないために一番大事なことは関わらないことです。事件の被害者は、窓を開けてしまっています。アンガーマネジメントを知っていれば、何を言われても窓やドアを開けてはいけない。すぐ警察に電話しましょう。「ひどいのに絡まれたが、まさか警察に電話する案件ではない」と思ってはいけません。

――あおり運転をしないための取り組みには、どんなものがありますか?

安藤 私たちも、東名での事件をきっかけに、「やらなければならない」と取り組みを始めました。アメリカは1970年代からですので、日本では、40年遅れています。

気持ちを落ち着かせ、衝動をコントロール

 まず、あおり運転は「犯罪になりえる」「人の命にかかわることになる」ことを知ってほしい。そのために、チラシを作ったり、ブックレットを作成するなど、情報提供に努めています。

 絡まれたと思ったら、(加害者の車を)先に行かせましょう。鉄則は「相手の視界から消える」なんですよ。相手から見えているということは、怒りの対象が見え、攻撃し続けます。とにかく「消える」ことです。

 逆にご自身が加害者になってしまいそうな時も、相手の見えないところへ行くことです。進路を変えるのもありだと思います。姿が見えなくなれば、怒りは消えます。

 東名や常磐の事件が起きましたが、何度も事件化することで、社会全体の対策の必要性に関する認識が上がっていくと思います。ただ、一回の事件だけではなかなか変わりませんよね。そのため、しつこく、私たちは取り組んでいこうと思っています。誰かがやらないといけません。

――チラシの中にいくつかの「気持ちを落ち着かせるための、テクニック」が書かれていますね。

安藤 例えば「6秒ルール(どんなにイラっとしても6秒待ちましょう)」があります。怒りの感情が生まれてから、理性が介入するのに数秒かかると言われています。アメリカでは「6秒」とは言っていないのですが、我々の調査では6秒となりました。反射せずに待ちましょう。そして、衝動のコントロールをしましょうということなんです。

「深呼吸をする」や「気持ちが落ち着く言葉を自分に言い聞かせる」のは、そのための手段です。ホスト界の帝王と言われているローランドさんが、「ちょっとくらい割り込まれてもさ、なんか『大好きな車に乗る時間がちょっと増えたな』と思ってさ、『どうぞどうぞ』って思うし、余裕が出てくるじゃん。余裕って大事だよね」と言っていたことが話題になりましたね。

「家族の写真など大切なものを見えるところに置く」は、タガを作ることです。かつて「2ちゃんねる」を作ったひろゆきさんが、ブログで「無敵の人」と言いました。社会的縁のない人は「無敵」になります。無縁社会は暴力が突発的に起きます。

秋の交通安全運動週間にチラシやステッカーを配布

――この取り組みについて、周囲の反応はいかがでしょうか。

安藤 「NEXCO西日本四国支社」が協力してくれています。春と秋の交通安全運動週間に、四国地方の高速道路でチラシやステッカーを配布していただきます。

 協会独自の取り組みとして、東名高速の足柄SAで配布しました。すると、商業車の方々が先に取って行きました。「なるほど」と思いました。

 実は商業車が被害者になっている現状があります。商業車は匿名ではありませんので、攻撃されやすいのです。そして、反撃もしにくい。かつては大型トラックが小さい車をあおるイメージですが、今は逆にあおられるんです。

 首都圏でも、秋の交通安全運動週間を中心に、10月15日までチラシやステッカーを配布する予定になっています。事件のあった常磐道での配布も検討しています。

 そのほか、ホームページからも無料でダウンロードできます。

(渋井 哲也)

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