- 2019年09月20日 10:32
【読書感想】12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編]
2/2第一章の「赤道編」の冒頭は、こうなふうに始まります。
旅先でこれほど悩んだことはなかった。
これまでも、旅先で立ち止まることは多かった。飛行機が急に欠航になることはときどきある。乗った長距離バスが故障することは珍しくない。そのたびに対応を迫られる。ほかの交通手段はないかと考えてみる。旅というものは、そんな日々の積み重ねでもある。
しかし今回は違った。これから乗ろうとする長距離バスよりも安い運賃で飛行機が運航していた。そしてその航空券を簡単に予約することができた。飛行機のほうが圧倒的に速いわけだから、つらい長旅から解放される。一般的な旅なら、なんの悩みもなく、飛行機に走るだろう。
しかし今回はそこで立ち止まってしまった。(中略)
当時、インドネシアのスマトラ島の赤道付近まで行こうとすると、タイのバンコク、マレーシアのクアラルンプール、インドネシアのジャカルタといった都市に向かう格安航空券を探すしかなかった。そのなかでは、バンコクに向かう航空券がいちばん安かった。パキスタン航空が6万9000円だった。格安航空券だから往復の運賃である。バンコクからは、バスや乗り合いタクシーなどを利用することになった。長いバスの旅が待っていたのだ。
しかしいまはLCC(ローコストキャリア(Low Cost Carrier)の略称。低価格で運航サービスを提供する航空会社)がある。スマトラ島の赤道にいちばん近い空港は、パダンのミナンカバウ国際空港だった。そこから赤道までは車で3時間ほどの距離だった。インターネットの航空券検索サイトで調べると、往復で6万9628円という運賃が出てきた。エアプサン、ティーウェイ航空、エアアジア、タイガーエア台湾といったLCCを乗り継いでいく方法だった。30年前、バンコクを往復した運賃とほぼ同額で、赤道近くの空港まで行くことができてしまうのだ。
LCCの普及は、旅のコストを大きく変えたのです。
宿泊費や食費は30年前よりも上昇傾向でも、航空運賃がLCCで劇的に下がったために、場所によっては、30年前よりも安い旅費で行けるようになったのです(日本とアメリカの間のような、大手航空会社にとっての長距離ドル箱路線では、LCCが運航しておらず、運賃が高くなるようですが)。
そこで、下川さんは「LCCを使って安く旅をする」かどうか悩むのですが、そこはやはり、読者の期待も踏まえて、「30年前と同じような、過酷な長距離バスでの旅」を選択しています。
ところが、以前乗っていたような、極めて乗り心地の悪いバスはほとんど無くなっており、快適なバスになっていたり、路線そのものが廃止されたりしています。
この本を読んでいると、「世界の極度の貧困や格差というのは、この30年間でかなり改善されている」ということを痛感するのです。
貧乏旅行(を読むことの)ファンとしては、ちょっと寂しい気もしますけど。
目の前に先に進むバスがいたら、とにかく乗る。それが『12万円で世界を歩く』の流儀だった。この旅は超がつくようなビンボー旅行である。読者は、10円でも安い宿を探し、地元の人と一緒に長距離バスや列車に乗り続けることが、ビンボー旅行を実現させる秘訣だと理解しているかもしれない。しかしその裏に隠れてしまっている、旅費を安くあげるコツがあった。それはスピードだった。とにかく先へ、先へと急ぐことだった。夜行のバスが発車するといわれれば飛び乗り、早朝の列車に乗るため、駅へ急ぐ。早い旅は日程を短くしてくれる。するとその分の宿代と食費が浮いていく。こうして、『12万円で世界を歩く』は実現していった。
以来、僕はこの旅のスタイルが身にしみついてきてしまっている。そのスピード感が、ときに同行者の顰蹙(ひんしゅく)を買う。
タイのカンチャナブリからミャンマーのダウェイに向かい、そこからヤンゴンをめざしたことがあった。カメラマンのほかに知人が同行した。タイを出発し、国境を越えてダウェイに着いたのは夜の8時頃だった。駅で調べると、翌朝の6時にヤンゴン行きの列車があった。一日一本だけだという。僕はなんの迷いもせず、翌朝の列車の切符を買った。
ダウェイの中心街にあった屋台で、遅い夕食をとった。
「下川さんの旅って、いつもこうなんですか」
知人が口を開いた。
「そうですね。だいたいこんな感じ」
同行するカメラマンが答えた。
「これじゃダウェイの街をなにも見ていないじゃないですか。暗くなって着いて、まだ暗いうちに離れてしまう」
『12万円で世界を歩く』の旅で身についてしまった悪い癖だと思った。つい、つい先を急いでしまう。泊まった街をゆっくり眺める時間もない。僕は旅行作家と呼ばれている。乗り物も題材になるが、街をのんびり歩いてみつかるものもある。毎回、切り詰めた旅をしているわけではない。もっと時間に余裕をもたせれば、街の暮らしが旅行記に潤いを与えてくれるかもしれない。
ある程度はわかっているのだが、目の前にバスが停まっていると、つい乗ってしまう。
「旅行記」というよりは、「修行」とか「競技」みたいな感じもする内容なので、ガイドブックにはなりませんが、つい、続きが気になって読んでしまう面白さがあるんですよね。
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