今回の半導体材料の輸出規制強化に関する提訴は韓国側からだが、それ以外はすべて日本側からの提訴である。しかし、ここ数年の間にWTOへの提訴がこれほど頻発しているのはなぜか。国際政治学者の六辻彰二氏はこう解説する。
「背景に元徴用工訴訟があるのは間違いありません。今までは、日韓でくすぶる問題があっても、日米韓の同盟関係があるので穏便に処理しようとしてきましたが、元徴用工訴訟を契機に政府は方針を変えたということです。
たとえば、竹島問題については、日本は国際司法裁判所に提訴しようとしていますが、両国が合意しないと裁判にならないのに対し、WTOの場合は2国間での協議が決裂すれば、否が応でもWTOによる審理にかけられます。だから、使い勝手が良く、それでWTO提訴が続いているのです。日本側としては、韓国の不公正さを国際社会にアピールするのが狙いと考えられます」
日本産水産物の禁輸問題では、日本の水産物が放射能で汚染されているかのような誤ったイメージが広がってしまう懸念が指摘された。WTOの裁定は、貿易面に限らず国のイメージを左右する可能性がある。今後も論理的な主張を積み重ね、勝訴が続くことを期待したい。
●取材・文/清水典之(フリーライター)