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異常水準に膨らんだ積水ハウスの「在庫」の正体

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■勘定項目別に分解すると見えてくる

そこで今度は、積水ハウスの資産をヨコに切ってみよう。つまり、勘定科目別に資産を分解するのだ。すると、資産全体の大部分は棚卸資産と有形固定資産で占められていることが判明する(図表4参照)。

積水ハウスの資産の勘定科目別内訳

つまり、都市再開発事業と国際事業に属する資産のほとんどが、棚卸資産と有形固定資産だと分かる。

有形固定資産については、有価証券報告書の「設備の状況」を見れば、会社が保有する主要な有形固定資産が各セグメントとひも付けられて載っている。そのため、セグメント別の有形固定資産の金額を差し引くことで、セグメント別の棚卸資産のおおよその金額が割り出せる。

「設備の状況」によれば、有形固定資産のうち少なくとも3711億円は都市再開発事業に属する。それ以外の有形固定資産は、本社ビルや工場などが主で、国際事業に属する有形固定資産は、中国子会社で持っている150億円ぐらいしかない(図表5参照)。

] セグメント資産から按形固定資産を差し引くことで、おおよそのセグメント別の棚卸資産の金額が分かる

要は、積水ハウスの棚卸資産1兆1000億円のほとんどが、国際事業で抱えている在庫だと考えられる。

言い換えると、積水ハウスの棚卸資産回転期間を長期化させている要因は、国際事業にあるといって間違いないだろう(図表5参照)。

では、巨額に積み上がった国際事業の棚卸資産は、いつ頃から増えていったのだろうか。セグメント資産の推移を見てみよう(図表6)。

国際事業の資産が急速に膨らんでいる

国際事業のセグメント資産(≒棚卸資産)が急速に膨らんでいるのが見て取れる。2011年1月期はわずか857億円しかなかったが、その後は徐々に資産が膨れ上がり、2019年1月期には9436億円と、かつての10倍以上に増加しているのである。

■大和ハウスのマネをしない積水ハウスの独自戦略

ではなぜ、積水ハウスは国際事業の在庫を増やしているのか。

それは、積水ハウスを取り巻く経営環境を考えれば、ある意味必然なのかもしれない。

国内の住宅市場の将来を考えれば、人口減少や少子高齢化によって、徐々に需要が衰退することが目に見えている。国内の個人向け住宅という、しぼんでゆくマーケットの中でシェア争いするのは、あまり得策ではない。

その点、業界1位の大和ハウス工業は、早くから「事業施設事業」や「商業施設事業」といった法人向けの事業を手掛け、事業を多角化している。だから住宅市場の冷え込みによるダメージはそれほど大きくない。

とくに「事業施設事業」は、物流施設等の受注増により、この10年で5倍以上に売上高を伸ばしている。EC市場の爆発的な拡大を見越し、物流施設建築の需要を取り込めたのは、大和ハウス工業の「先見の明」といえよう。

これに対して積水ハウスはどうだろう。医療施設や商業ビルなども手掛けているが、やはり中心は個人向けのため、住宅市場の影響をまともに受けてしまう。とくに、戸建住宅事業については、市場の縮小とともに、売り上げが急速に低下している。だからといって、今さら大和ハウス工業のマネをしても太刀打ちできないだろう。

■国際事業の棚卸資産は売上増加の起爆剤

積水ハウスはもともと品質や技術力に定評がある会社だ。阪神淡路大震災の時に積水ハウスの住宅は全半壊ゼロだったというのは有名な話である。

そこで、個人向けというターゲットは変えず、国内で磨いてきたハウスメーカーとしての技術を、海外に向けて展開する戦略に打って出たのだろう。

積水ハウスは、2009年のオーストラリアへの事業進出を皮切りに、米国、中国、シンガポールの4カ国に国際展開している。初めのうちは低空飛行の状態だったが、徐々に実績が表れ、ここ数年は戸建住宅事業の落ち込みを補って余りあるぐらいに売り上げを伸ばしている(図表7参照)。

戸建住宅事業の売り上げは縮小、その代わり国際事業が急伸している

2017年に米国のハウスメーカー、ウッドサイド・ホームズ社を買収したのに加え、2020年1月期を最終年度とする経営計画では、3年間で1兆円強を国際事業に投じる戦略も打ち立てた。

気候、商慣習や生活スタイルなど(もちろん地震の有無も)、何もかも異なる海外の不動産市場において、日本のハウスメーカーが付け入る隙はないと思うかもしれない。

しかし、この10年にわたる国際事業の実績で、積水ハウスはある程度の見通しと確信が生まれたのだろう。それが、国際事業の棚卸資産の増加に反映されているといえる。国際事業の棚卸資産を発射台とし、売上増加の起爆剤とする意図が読み取れる。

■積水ハウスの海外戦略は暴走なのか


川口 宏之『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)

大きく膨らんだ棚卸資産を理由に、積水ハウスが無茶な暴走をしていると見る節もあるが、そんなことはないだろう。

前述のアーバンコーポレイションの場合は、自己資本比率が20%台に低下して、営業キャッシュフローもマイナスで推移していた。

これに対して積水ハウスは、50%前後と高い自己資本比率を維持しており、営業キャッシュフローも継続してプラスで推移している。それに、キャッシュ残高も順調に積み上がっている。財務的な安全性については、何ら懸念はないだろう。自己資本利益率(ROE)も10%を上回る高水準だ。

かつて、積水ハウスは大和ハウス工業とほぼ同水準の売上高だったが、この10年で大和ハウス工業に大きく水をあけられてしまっている(図表8参照)。

大和ハウス工業と積水ハウスの売上高の推移

巻き返しを図るため、大胆な海外展開に打って出た積水ハウス。この戦略が吉と出るか、凶と出るか。ここが勝負どころだろう。

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川口 宏之(かわぐち・ひろゆき)
公認会計士
監査法人での会計監査、ベンチャー企業での取締役兼CFOなどを歴任。現在、上場企業の社員研修や各種団体主催の公開セミナーなどで、「会計」をわかりやすく伝える人気講師として活躍中。著書に『決算書を読む技術』『決算書を使う技術』(共にかんき出版)、『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)がある。公式サイト
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(公認会計士 川口 宏之)

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