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第427回(2019年9月18日)

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3.筋違い

徴用工問題を複雑化させた理由は日本側にもあります。それは、キャッチオール規制(補完的輸出規制<Catch All Controls>)の対応です。

同規制は外為法及び貿易法を根拠として2002年4月に導入。兵器開発に使われる可能性のある製品・技術の輸出・提供を行う際、国への届出及び許可を受けることを義務付けました。

同規制における優遇措置対象国を「ホワイト国」と呼称。2019年8月2日より「ホワイト国」は「グループA」、「非ホワイト国」は「グループB・C・D」に名称変更されました。

グループAは今夏までは27ヶ国。欧州21ヶ国、北南米3ヶ国、アジア・オセアニアは豪州、ニュージーランド、韓国の3ヶ国でした。

そうした中、所管の経産省が7月1日(4日)に韓国をホワイト国から除外する手続きを開始。8月2日に除外は閣議決定され、28日施行。文大統領が「盗人猛々しい」「重大な挑戦」等の激しい言葉で日本を非難しました。

当該措置は、韓国による慰安婦・徴用工問題蒸し返し、レーダー照射事件等で反韓・嫌韓感情が高まっていた日本の国内世論が総じて支持。政府高官も「徴用工問題等への対応」という趣旨の発言を行い、マスコミもそう報じました。

しかし、日本政府は「海外で日韓対立がどう報道されているか」という視点に欠けていました。欧米では「日韓対立の原因は歴史問題。日本が韓国を追い込んでいる」という報道が多いのが現実です。例えば、典型例は以下のとおりです。

「日韓対立は歴史認識について両国が長年一致しないことに起因する。日本は、輸出制限は安全保障政策上は正当と主張しているが、一般的には徴用工問題に関する韓国大法廷判決に対する報復と考えられている」(8月1日ワシントンポスト)。

国際的にみると「韓国大法廷が徴用工問題で変な判決を下した」ことを理由に「輸出管理を強化する」というのは筋違い。両者は関係ない問題という受け止め方が一般的でした。

日本政府の対外広報のあり方には工夫が必要です。調べた限りにおいては、1965年の日韓基本条約・請求権協定の締結、5億ドル供与等には言及していない海外報道がほとんどです。

アジアで唯一の西側先進国、欧米の窓口という20世紀後半の日本の固定観念から脱却し、世界に向けて日本の立場、歴史的事実を丁寧かつ粘り強く広報することが不可欠です。

ところがGSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定<General Security of Military Information Agreement>、略してジーソミア)で状況がさらに変化しました。

日韓両国は直接の同盟関係にないことから、GSOMIAは日米韓3ヶ国の軍事的連携及び米国極東戦略にとって非常に重要な協定です。経緯を整理します。

2009年1月に日韓首脳が合意した「日韓新時代共同研究プロジェクト」に基づいて、2010年12月、日韓外相会談で安全保障・防衛分野における協力推進を確認。

2011年1月、日韓防衛相会談において自衛隊と韓国軍が軍事物資・役務協力を定める物品役務相互提供協定(ACSA)、及びGSOMIAについて意見交換。防衛協力・交流を拡大・深化させていくことで合意。

2012年6月29日に締結される予定だったGSIMIAは韓国側の事情で締結予定時刻1時間前に延期。条約締結が韓国内で明らかになって反対運動が発生したためですが、韓国側は延期の理由を日本が米ニュージャージー州の慰安婦記念碑の撤去運動を行ったためと説明。

2016年、交渉再開。11月23日にソウルで署名式が非公開で行われ、即日発効。韓国側は2012年の展開を踏まえ、協議プロセス(仮署名、次官会議、閣議決定、大統領裁可等)及び協定文を公表しました。

2018年に発生した韓国海軍レーダー照射問題で日韓防衛当局が対立。協定延長の可否が焦点に浮上。その中で起きた徴用工問題とキャッチオール規制問題の展開を受け、2019年7月18日に青瓦台(韓国大統領府)が協定破棄の可能性に言及。

協定は1年毎の自動更新。終了させる場合は更新期限90日前(今年は8月24日)までに相手国に通告するルール。日本は両国関係が悪化しても朝鮮半島の安全保障上の観点から協定維持の意思を見せたものの、青瓦台は8月22日、国家安全保障会議(NSC)を開いて協定破棄を決定。11月23日午前0時に効力を失います。

韓国は破棄の理由について「日本が韓国をホワイト国から外したため。日本の不当措置が撤回されれば、韓国もGSOMIAを再検討する」と言及。

韓国も日本と同じミスを犯しました。キャッチオール規制とGSOMIAを差し違いにすることはお門違い。

韓国がGSOMIA延長問題に言及した7月18日、米国務省は「ボイス・オブ・アメリカ」を通じて「GSOMIA維持を全面的に支持」と発表。8月9日に訪韓したエスパー国防長官も国防部長官に対し「協定継続の必要性」を訴えました。

破棄を発表した8月22日は米国防総省とポンペオ国務長官、続く28日には国防総省シュライバー次官補が強い懸念と失望を表明し、再考を要求。次官補は「韓国が米国に破棄の事前通告を行い、了承を得ていた」との韓国の説明も事実無根と否定しました。

米国は同盟国である日韓の対立に中立の立場を貫いてきましたが、韓国は米国の要求を完全無視。トランプ大統領はフランスG7の席で「文大統領は信用できない。なぜあんな人が大統領になったのか」と発言し、各国首脳が驚いたと報道されています。

事実を確認すること、事実を国際的に周知すること、そのうえで冷静かつ合理的に対応すること。文政権のミスによって救われていますが、日本外交も立て直しが必要です。

(了)

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