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防衛ラグビーW杯開幕、仏軍を迎え撃つ自衛隊 - 大元よしき (ライター)



ラグビーW杯の開幕より一足早く、開催国日本で各国軍隊によるもうひとつのラグビーW杯が始まった。週末には自衛隊の日本代表ディフェンスブロッサムズが前回大会3位の強豪フランス軍と戦った。

「いい試合じゃダメなんですよ。勝たなければなりません」

取材中複数の関係者から同じ言葉を聞いた。開催の目的は各国の防衛交流であり友好を深めることだ。しかし、開催国であり自衛隊の威信を懸けた戦いだけにその重圧から出る言葉なのだろう。

本年5月25日のコラム「もうひとつのラグビーW杯、楕円球が繋ぐ戦士の絆」でご紹介した『国際防衛ラグビー競技会2019』が開幕し、9月15日、自衛隊の日本代表ディフェンスブロッサムズが前回大会3位のフランス軍と対戦した。

国歌斉唱

試合会場となった習志野演習場グラウンドには1300人もの観客が集まり、一発のタックル、一本のスクラムに歓声を上げ国際大会としての雰囲気を盛り上げた。

風上に立った前半はスクラムやラインアウトのセットプレーの安定に加え、キックとラン攻撃により敵陣での展開を優位に進めた。

先制したのはディフェンスブロッサムズだ。フランスの反則からペナルティゴール(3点)を決め良い流れを掴んだかに見えた。

しかし、その後、何度かフランス陣ゴール前に攻め込み、フォワードがラック(密集戦)を連取するも、あと一歩及ばずハンドリングエラーやペナルティでフランスボールへ……。 そのチャンスにトライを取れていればさらなる流れを掴んでいたはずだ。ペナルティからゴールを狙って3点を加点するという選択肢もあったが、ターンオーバーからトライを奪われ前半を3-5で折り返す。

後半、風上に立ったフランス軍は終始日本陣内に攻め込みゲームの主導権を握った。ボールを外のスペースに動かし何度かトライチャンスを作ったもののディフェンスブロッサムズの低く厳しいタックルがそれを阻んだ。その都度、観客席から歓声が沸き起こった。

試合が動いたのは30分過ぎあたりだ。ターンオーバーからフランス軍がトライを奪い、試合終了間際にもトライを重ねて最終スコアは「3-19」でノーサイドを迎えた。

安定感のあった自衛隊のラインアウト

試合後、松尾勝博監督のコメントとして、「前半風上に立った理由をもう少し理解していれば2本のペナルティを決められていた。そうすればフランスの5点もなかっただろう。これはベンチワークとしての反省点です。強いフランス軍に対してフィジカルの差は感じなかった。自衛隊の強みの規律も守れていた。勝たなければいけないという国際大会を経験しているかどうかの違いが出ました」と振り返った。

フランス軍は毎年イギリス軍と試合を行っている。松尾監督の言う経験が今回の試合結果に表れたのかもしれない。

そのフランス軍のキャプテンは印象に残ったシーンを「スクラムが強かった」と即答した。それだけ強烈だったということだ。

東考三コーチは2週間前の丸和運輸との練習試合後に「相手がどれだけ大きいかわからないが、このチームの強みはスクラムにある。そこを全面に出して戦っていきたい」と語っていた。 そのこだわりはしっかりとフランス軍を脅かしていたのだ。

また松尾監督は、練習試合後のコメントで「規律が甘い」と選手に指摘。初戦までに私生活から厳しく己を律するよう指示を出していた。

このフランス戦では規律が乱れるようなシーンはなく、逆に相手を慌てさせてペナルティを誘った。強豪相手に自衛隊の強みを最後まで徹底して戦った。

試合後、観戦に訪れたファンからは惜しみない拍手が両チームに贈られた。

冒頭、「いい試合じゃダメなんですよ。勝たなければなりません」と言った関係者の方々には申し訳ないが、いい試合はいい試合なのだ。それはそれで価値のあるものなのだ。

あえて言うなら結果は大事だが、スポーツである以上勝利することが絶対の価値ではない。情熱や興奮や喜びを共有し、その豊さを感じることではないか。そして互いの存在を尊ぶことではないか。

グラウンドでは階級や役職など意味を成さない。ジャージを身にまとい知と心技体を出し尽くした先に生まれるリスペクトが信頼関係を醸成する。激しい競技だからこそ、一瞬一瞬がピュアだからこそ絆が生まれるのだ。

フランス戦にちなんでラグビーのオールドファンにはなじみ深い名言をひとつ記しておきたい。

「ラグビーは少年をいち早く大人にし、大人にいつまでも少年の心を抱かせる」(元ラグビーフランス代表のキャプテン、ジャン・ピエール・リーブ)

国際軍人ラグビーの歴史は第一次世界大戦後の1919年にイングランドで開催された「キング・ジョージ5世杯」に始まる。その後、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、フランスなどに広がり、第二次世界大戦以降、イギリスの陸・空軍はフランス軍と定期戦を行い、他の国々にも軍人ラグビーが広まっていった。

それから100年を経て、2019年に「国際防衛ラグビー競技会」として日本で開催されている。

その「国際防衛ラグビー競技会」は世界に軍人ラグビーが広まる中、オーストラリアとニュージーランドが、2011年のラグビーワールドカップニュージーランド大会に合わせ、世界12の軍人ラグビーチームの大会を提案し、新たに開催されたものだ。

開会式

スポーツを通じた防衛交流

2011年の第1回の優勝国はイギリス。2015年の第2回はフィジー共和国が優勝を果たした。そして国際軍人ラグビー100年の節目となる今大会は、オーストラリア、フィジー、フランス、ジョージア、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、トンガ、英国の各国軍隊と日本(陸・海・空の自衛隊による代表選手)が参加している。

フランス戦に先立つこと9月9日(月)市ヶ谷の防衛省内において開会式が行われた。岩屋毅元防衛相のあいさつのなかに「スポーツを通じた防衛交流を図ることが各国軍の連携につながっていくことを望む」とあった。

日韓関係が政治、外交、経済の各分野で史上最悪とも言われる冷え込みを見せるなか、韓国からは韓国軍体育部隊が参加している。政治とスポーツは本来切り離さねばならないことだが、こと軍に関係する大会だけに不参加もあるのではないかと不安に思って複数の関係者に話を聞いたところ、「多国間交流の一環ですし、我々は国と国というよりラグビーのチーム同士と捉えていますので何も問題はありません」や「私たちは韓国だけを特別に考えてはいませんし、韓国側も日本を分け隔てなく見ているからこそ参加するのだと思います」という回答である。

国際防衛ラグビー競技会準備室の若松忠司氏は「本大会は防衛交流を主として行っていますので、この大会をきっかけに参加するすべての国々と良い関係に繋がっていければいいと考えております。

ご招待したところ韓国も快くそれに応えてくれました。我々はどこのチームにも満足していていただいて交流を深めていきたいと思っています」 最後に「ノーサイドの精神ですよ」と笑顔を見せた。

本稿執筆時に勝ち上がっている国は、英国、フランス、ニュージーランド、フィジーの4カ国で9月19日(木)に準決勝が行われ、9月23日(祝・月)に決勝戦が千葉県の柏の葉競技場で開催される予定だ。

防衛省 大臣官房広報課の熊谷幸親氏は、「本大会はラグビーワールドカップを盛り上げようと防衛省が取り組んでいる競技会ですので大会成功に向けて貢献したいと臨んでいます。ラグビーのノーサイドの精神は試合中に激しく戦っていた者同士が、試合後に互いの健闘を称え合って握手をし、その後、なんのわだかまりを残さないところがいいですね。ラグビーワールドカップや国際防衛ラグビー競技会を通して、こうしたラグビーの良いところを伝えていければと思っています」と大会前に語っていた。

ラグビーのワールドカップが大々的に喧伝されるなか、粛々と始まった「もうひとつのワールドカップ」の意義は大きい。スポーツは平和の架け橋である。ワールドカップ本戦とは異なるレガシーが残ることを期待したい。

<国際防衛ラグビー協議会2019HP>https://www.mod.go.jp/j/publication/olympic/idrc/special/index.html

ノーサイド

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