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内部通報制度と文書提出命令(シャルレMBO株主代表訴訟)

6月1日の朝日「法と経済のジャーナル」にて報じられているとおり、先月8日、シャルレのMBO株主代表訴訟に関連して、原告であるシャルレの株主の方々の(会社を相手方とする)文書提出命令の申立てが神戸地裁で認められた、とのことであります。つまり、裁判所が会社側に対して、役員の善管注意義務違反を立証しようとしている原告株主が「閲覧したい」と申し出ている文書を開示しなさいと命じた、というものです。ちなみに上記「法と経済のジャーナル」では、この決定文の全文もアップされております。

株主代表訴訟なので、基本的には被告はシャルレの役員なのですが、文書の所持者は法人であるシャルレです。そのため、株主代表訴訟とは別に、原告株主の方々は、法人であるシャルレを相手にシャルレが所持する文書を開示せよ、と求めることになります。どんな文書かといいますと、被告であるシャルレの役員の方々にミスがあった(善管注意義務違反)ことを立証するための文書を指します。たとえばMBOの際には、シャルレの側において、買付希望者側のTOB価格が適正かどうかを判断するわけですが、そのときはシャルレの取締役は、既存株主にとって不利にならないように最大限の注意を払って交渉しなければなりません。しかし一方でMBOの場合には、買付対象者側の取締役が買付希望者側にも関与するケースが多いために(できるだけ安く買いたいと考えるわけですから)、利益相反状況にあります。したがって本当にシャルレの株主にとって最大限の利益をもたらすような手続きをもって買付希望者のTOB価格に賛同したのかどうか(出来レースではないのか?)取締役の行動をチェックするために、シャルレの内部資料を開示せよ、というものです。

MBOの際、買付希望者側が、TOB価格を決定するために参考にされた株価算定書は、開示ルールによって開示が義務付けられているはずです。しかし賛同する側、つまりTOBの対象となる会社側の賛同意見形成のために参考とされる株価算定書については開示が義務付けられていません。したがって、構造的な利益相反状況にあるにもかかわらず、TOBをかけられた会社の取締役の善管注意義務違反が問題となるケースにおいて、会社側の資料が株主側には把握できず、裁判でも大きなハンデとなっておりました。

しかし神戸地裁の本決定は、株価算定書類だけでなく、株価算定の基礎資料とされる経営者作成の経営計画書等も文書提出命令の対象になるとしており、極めて画期的な決定ではないかと思われます。ただ、文書提出命令がどのような条件の下で認められるのか、この決定の射程距離がどのあたりまでになるのか、その線引きについては決定文を十分検討する必要があると思われますので、今後の民訴法学者や商法学者、企業実務家の方々の解説を期待するところです。また上記「法と経済のジャーナル」の記事によると、シャルレ側も「この命令は納得できない」として、抗告しておられるようですので、まだ確定したわけではないことを申し上げておきます。

さて、本件は取締役の善管注意義務(経営判断原則関連)に関わる重要な地裁決定であることは間違いないと思いますが、私個人がもっとも上記決定で興味を抱いたのは内部通報関連文書の取扱いであります。ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、シャルレのMBOの問題点が浮上してきたのは、当時の社内関係者から寄せられた数通の内部通報が発端です。原告株主の方々は、この内部通報を受理したときの受理記録についても文書提出命令の対象としておられます。しかし、上記地裁決定では、この内部通報関係書類だけは提出命令申立を認めませんでした。

その理由は決定文の13頁以下に詳細に記述されておりますが、要は内部通報関連文書が開示されてしまうと、通報者が不利益を受ける可能性があり、また文書提出命令の可能性があることで、通報がためらわれ、企業の内部通報制度の運用に支障が出てしまう、ということであります。したがって内部通報関連文書については、文書提出を拒むことができる文書(職業上の秘密文書 民訴法220条4号ハ、同197条1項3号)に該当する、とのこと。

内部通報の外部窓口業務に従事している弁護士は、匿名であれ顕名であれ、正確に通報受理記録を作成しますし、通報メールなども厳重に保管をしております。また会社の担当者とのやり取りなども記録として残しております。オリンパス損害賠償事件でも問題となりましたが、通報者が匿名を希望するかどうか、といった同意関係書類も保管しています。こういった一連の書類が文書提出命令の対象となりますと、おそらく窓口業務の際にも神経質にならざるをえないと思います。したがいまして、内部通報関連の書類については、これを除外する判断については内部通報実務からみて少々ホッとしている次第です。

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