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【JRAのブランド学①】中央競馬の価値を高めた"絶対的存在"武豊のすごさとは?

秋の深まりとともに、競馬シーズンが本格化する。年末まで、ほぼ毎週開催されるGⅠ競走には、時に10万人を超えるファンが集まり、好きな馬や騎手を応援し、馬券に一喜一憂する。7年連続で売り上げを伸ばしているJRA(日本中央競馬会)は、どのようにして競馬のブランド力を築いてきたのか。日刊スポーツの競馬担当・木村有三記者が、人気の秘密を探った。

エンターテインメントとして成立している日本の競馬

♪ラタタ、ラタタ……

阪急仁川駅から阪神競馬場へと歩いていると、軽快なリズムが耳に届く。流れているのは、木村カエラの「HOLIDAYS」。JRA(日本中央競馬会)のCMソングだ。アップテンポの曲は気分を高め、ワクワク感を増長させてくれる。そこには「大穴を当てて儲ける!」「大金を稼ぐ!」という欲望に満ちた情念など感じない。子供を連れた父親の顔には笑みが浮かび、華やかな服を着た女性も楽しげに歩みを進めている。まるでコンサートやスポーツ競技、テーマパークを訪れる人々のようだ。競馬が、ひとつのエンターテインメントとして定着したと思わせる瞬間だ。

9月も半ばを迎え、国内最大の人気スポーツであるプロ野球のペナントレースは佳境に入ってきた。そんな中、本格的なシーズンを迎えるのが中央競馬だ。スプリンターズS(芝1,200メートル、千葉・中山競馬場=9月29日)から始まる秋のGⅠ競走は、計13レース(障害も含む)。ほぼ毎週末、スポーツ紙の1面は競馬が飾ることになり、年末のグランプリ・有馬記念の週は毎日と言っていいほど紙面は「競馬一色」となる。各紙の担当記者数も、プロ野球の人気球団以上。取材合戦も熱を帯びてくる季節なのだ。

冒頭の競馬場のイメージアップ化など、さまざまな"企業努力"をしているJRAは、売り上げも年々伸ばしている。昨年2018年度の売得金は2兆7950億830万4000円で、前年比101.7%。7年連続の増加だった。人気があるから紙面の掲載量も多くなるのか? それとも、各紙が多くの情報を提供するから人気も出てくるのか? それを考え出すと「鶏が先か、卵が先か」という話になるが、ネット全盛の時代に、出走箱から得られる多くの情報を求めて新聞を購入するファンが多数いることは、我々スポーツ紙で働く者にとってはありがたく、大きなモチベーションになっているのは間違いない。

しかし、誰より「ファンのために……」という意識を持っている男が、当事者側にいる。第一人者の武豊騎手だ。

各地で行う開催PRイベントはもちろん、毎月発行されるJRAの機関誌「優駿」にも事あるごとに登場して"宣伝役"を買って出る。1年間を通じてオフがない中央競馬において、騎手の仕事は、土日のレース騎乗以外でも多々ある。平日(全休日の月曜を除く)は滋賀・栗東や茨城・美浦にあるトレーニングセンターへ出向いての調教、トレーニングと休まる暇はない。それでも、昨年9月に前人未到のJRA通算4,000勝を達成した武豊騎手は、疲れた表情など見せず、イベントではジョークも積極的に交えてファンを喜ばせている。

「何か力になれるならね。競馬が盛り上がることは、自分たちにとってもいいことだから。それは全然苦にならない」

[画像をブログで見る]

事あるごとに登場して〝宣伝役〟を買って出る武豊は取材対応も抜群。

振り返れば、現在の競馬人気の隆盛も、武豊抜きには語れない。「名人」と呼ばれた元騎手の父・武邦彦の背中を見て育ち、1987年に騎手デビュー。19歳だった'88年菊花賞でGⅠ初制覇すると、'90年有馬記念では怪物オグリキャップを奇跡の復活Vへと導き、人気は不動のものになった。2005年には日本競馬の至宝ディープインパクトとともに3冠制覇を達成。ダービーは史上最多の5勝を数え、50歳を迎えた今も競馬界の中心にいる。

毎週水曜朝の栗東トレーニングセンターでは、そんな"レジェンド"を各紙記者が取り囲むのが通常の景色。競馬場のウイナーズサークルでも、武豊が現れると人垣が何重にも増す。

プロ野球の長嶋、王、イチロー、サッカーの三浦知良のように、競馬界には武豊がいて、人気をけん引してきた。JRAの片貝裕紀メディアプロモーション課長は「武さんの影響は大きいですよ。競馬を知らない人でも、武さんのことは知っている人が多い。『競馬のために』という意識を常に持ってやってもらっている。競馬界にとって、大きなプラスになっています」と感謝の言葉を口にする。

"武豊"というブランドとの協業で、より価値が高まったJRAブランド。そのシンクロによって、結果としてギャンブルのエンターテインメント化に成功し、現在の中央競馬の発展にもつながっている。

②に続く

Text=木村有三 Photograph=Getty Images

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