- 2019年09月14日 06:00
スズキ・トヨタの資本提携にみる軽自動車の未来 - 永井隆 (ジャーナリスト)
2/2自動車変革時代に出せる軽での独自性
3度目の結婚となる、今回のトヨタとの資本提携はどうなっていくのか。
トヨタは大変革の時代を迎え、「仲間作り」を推進。完全子会社化したダイハツ、子会社の日野、資本提携しているスバル、マツダと”陣営”を形成。歴史的にも浅からぬ関係ですでに業務提携していたスズキが新たに入った形だ。
さて、自動運転やシェアリング、次世代の移動サービスMaaSなど、新しい波の“一丁目一番地”となるのは電気自動車(EV)である。しかし、陣営6社はまだEVを商品化もしてはいない。トヨタは来年、商品化するが、ルノー・日産・三菱自工やホンダ・GMなど他のグループと比べて先行している訳ではない。
世界最大の自動車市場である中国では今年から、NEV(新エネルギー車)規制が始まった。中国での生産台数の10%以上を電気自動車(EV)や50キロメートル以上EV走行できるプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の新エネ車にするよう義務づける環境規制である。20年には12%に引き上げられる。
トヨタは、これまでパナソニックおよびパナソニックとの合弁に集中していた車載用電池の調達先を、広げていく。世界最大の車載用電池メーカーCATLやBYDと、中国メーカーも含まれる。トヨタ陣営が中国の電池メーカーはもちろん、移動サービスの米ウーバーなどに対し、存在感を示していけるのかは、これからの課題である。
生産台数や取引条件だけではなく、陣営各社によって生まれる特色や方向性は、問われていくだろう。従来型の自動車メーカーから「モビリティーカンパニーへの変身」(豊田章男社長)を目指す盟主のトヨタだが、陣営に魅力がなければ、心臓部品である電池の調達さえ難しくなっていく。
もっとも、トヨタと”縁戚”になったスズキにとっての独自性を顕すのは、軽自動車ではないか。
我が国で、自動車税から分離独立して軽自動車税ができたのは1958年。鈴木修氏が、銀行を辞めてスズキに入社したのと同じ年だった(ちなみに、このときには結婚して鈴木家の婿養子になっていた)。以来、60年以上にわたり、軽自動車を育成してきたのは鈴木修氏である。
2018年の軽自動車の販売台数は約192万台(前年比4.4%増)。登録車を合わせた国内自動車販売全体の36.5%を占めた。15年4月に軽増税があり、16年は172万台まで落ち込んだものの、広い室内空間のモデルが主に子育て世代に受けて、その後は回復している。
EVに搭載しているリチウムイオン電池は、エネルギー効率は高い反面、燃焼させる液体燃料と比べればエネルギー密度ははるかに小さい。このため、航続距離を求めない、軽自動車をはじめとする小型車両に向く。トヨタも超小型EVの商品化を目指している。
注目される税制改正との闘い
トヨタ陣営には、ダイハツとスズキという軽の大手2社が入っている。
実は、90年代半ばから、トヨタでは奥田碩氏らプロパー社長が続き、軽自動車の税制をめぐりトヨタとスズキが対立した経緯があった。特に98年に軽が規格改定された後、軽の優遇的な税制に対して、奥田氏は撤廃論を展開する。奥田氏は自工会会長の後、新生・経団連の初代会長、小泉内閣の経済財政諮問会議のメンバーを務めるなど、”超”のつく大物財界人だった。
鈴木修氏の後ろ盾は、山中貞則・自民党税制調査会最高顧問だった。”税の神様”と謳われた山中氏は、鹿児島県議から衆院議員となり独学で複雑な税制を学ぶ。税制に関して党税調は絶対的な権力を持ち、小渕氏や小泉氏といった時の総理でも、山中氏を官邸に呼ぶことができずに、山中事務所に足を運ぶほどだった。消費税導入も、山中氏を中心とする党税調が実現させた。
”人たらし”の修氏は、89年頃から山中氏に食い込んでいた。しかし、03年衆院選で17回目の当選を果たして間もない04年2月、山中氏は急逝する。ワンマンだった山中氏を失った自民党税調はその後、力をなくしていった。一人に依存する組織の危うさを露呈する。その後、税制改正では官僚の力が増していく。
15年に軽自動車税は増税されるが、総務省から増税論が浮上した13年秋、鈴木修氏は「軽ユーザーは低所得の方が多く、弱い者いじめだ」と強く反発していた。なお、自動車税は都道府県税だが、軽自動車税は市町村税である。
「軽自動車は日本独自の規格でありガラパゴス。国際的な競争力にはならないので、もう必要ない」という意見はある。だが、低コストで量産する技術や、車両の軽量化技術など、軽で培った技術が応用されるケースは多い。エンジン排気量やボディーサイズが規定されているなかで開発して量産するため、「創意工夫したモノづくりは軽に求められる」(軽自動車の元開発責任者)。創意工夫こそが、日本型モノづくりの真骨頂でもある。
国税のビールでも、「発泡酒や第3のビールはグローバルスタンダードではない」と、税制改正が決まる前に意見はあった。この結果、来年、23年、26年の3段階で税率は統一され、第3のビールという区分はなくなる。しかし、酒類は趣向品だが、軽自動車は地方に住む人にとって必需品だ。
我が国は人類史上前例のない超高齢化社会へと、突き進んでいる。ガソリンスタンドのない過疎地域も、いまや珍しくはなくなっている。
小さい車両のEV開発はもちろん、何より税制を含めた軽自動車そのものの維持に取り組むことが、スズキがスズキであるための価値なのではないか。軽メーカーとしての誇りを捨ててはいけない。“寄らば大樹”、”いいとこ取り”を目論むだけなら、トヨタ陣営入りしたスズキには独立性など必要ない。
修会長の長男である鈴木俊宏氏が、社長に就任したのは2015年6月。「チームスズキ」を標榜する俊宏氏への事業承継は、実質的にはこれから本格化していく。それだけに、スズキが独立性を求めるなら、現社長の経営手腕はいよいよ試される。
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