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「西川社長辞任」で日産のガバナンスは根本的に改善するのか

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取締役会議長に事実に反する発言をさせた日産執行部

取締役会議長らの会見の冒頭発言のうち、(1)~(6)は、当初から日産の執行部側が用意していた発表内容で、それをそのまま読み上げたものだった。それは、会社執行部側が予め用意していたものだったと思われるが、その中には、重大な誤りがあった。

上記(1)についての、木村氏の「(ゴーン氏・ケリー氏の)これらの不正によって会社が被った被害総額は、およそ350億円規模に上ると推定されます」「本社内調査結果を踏まえ元会長らの責任を明確にすべく、外部の専門家である法律事務所と連携して損害賠償請求のための提訴を含めた必要な法的手続きを速やかに進めてまいります」という発言だ。

日産のホームページでの公表内容は

有価証券報告書における開示を回避しつつゴーンが受領しようとしていた報酬は推定で総額 200 億円以上に上り、しかもその一部はゴーンに支払い済みである。また、役員報酬の名目以外にゴーンが日産に現に不正に支出させ、あるいは支出させようとしていた金額は少なくとも合計 150 億円に上る。

以上のとおり、ゴーンらの一連の不正の規模は全体で約 350 億円以上という極めて巨額のものとなる。そこで、当社は、ゴーン、ケリーに対し、これらの不正行為に関し、損害賠償請求をはじめとする毅然とした法的措置をとる考えである。

HPの内容からも、350億円のうち、200億円は、「開示を回避しつつ受領しようとしていた金額」で、(今後、有価証券報告書虚偽記載の事件について刑事裁判の結果判断が確定するものであるが)、仮に不正であるとしても、「未受領の報酬」であること、150億円も、多くが「支出させようとしていた金額」であり、まだ支出されていない。つまり、350億円の大部分について、「被害」は現実に発生していない。HPの「ニュースリリース」によれば、「ゴーン氏の不正」というのは、検察が有価証券報告書虚偽記載で起訴した「退任後の報酬」の問題や特別背任で起訴されたCEOリザーブの問題など、既に刑事事件で起訴されたり、報道されたりしているものばかりであり、その大部分は、日産が「不正」としているだけで、「被害」が生じていないことは明らかだ。

ところが、取締役会議長の木村氏は、350億円が「被害総額」であり、350憶円についての「損害賠償請求のための提訴」であるかのように述べたのである。

木村氏が読み上げていた発表文は、日産執行部が用意していたものだとすれば、日産執行部は、社外取締役で取締役会議長の木村氏に、虚偽の内容の発表文を作って読ませたということになるのである。

執行部側の対応如何では、「社外取締役中心の日産のガバナンス」も有名無実のものになりかねないことを示している。

SAR報酬不正受領が「違法ではないこと」の理由

会見の冒頭と、木村氏の(1)~(6)の発表内容と、その後の西川氏の説明は、西川社長の早期辞任は、SAR報酬の不正受領による「引責辞任」ではなく、一つの節目を迎えたことから次の世代への「バトンタッチ」のために辞任するものであることを強調するものだった。

そのような説明を行うためには、SAR報酬の不正受領について、「西川氏には違法性はない」、「制度に問題があった」との説明を貫くことが大前提だった。

この点については、取締役会側の会見での質疑応答の中でも、調査結果について多くの質問が出たが、監査担当の永井素夫取締役が、西川氏のSAR報酬の「不正受領」に違法性がないことについて、

西川氏が、ボーナスの金額の決定権を持っているゴーン氏に増額を求め、ケリー氏にも「手当をしてほしい」と増額を求めたところ、ケリー氏がSARの行使日を不正にずらして報酬額を増額した。西川氏は、そのことを、2か月後くらいに知ったが、行使日をずらしたことは知らなかった。

という説明を繰り返した。

しかし、この説明には重大な疑問がある。

西川氏のSAR報酬が、行使日をずらし増額されていたことは客観的事実だ。「行使日をずらした事実」を認識してれば、西川氏の行為が違法であることは否定できない。そこで、西川氏は、「行使日をずらした事実は知らなかった」と「言い訳」をした。

しかし、そのような「弁解」は、一方の当事者のケリー氏の話を聞けば、たちどころに崩れる。ケリー氏が、行使日をずらして他人のSAR報酬の金額を増額するという不正を、西川氏に知らせないで行うことはあり得ない。

記者からも、「なぜ、一方の西川氏の話だけを聞いて、ケリー氏の話を聞かないのか」という当然の質問が出たのに対して、永井氏は、「ケリー氏は逮捕されているので、我々としてはヒアリングできなかった」などと答えた。しかし、ケリー氏は、ゴーン氏の「退任後の報酬」の問題に関する金商法違反で逮捕された後、昨年12月には保釈されているのである。今回のSAR報酬の問題は、逮捕・勾留事実、起訴事実とは全く無関係であり、日産が社内調査で保釈中のケリー氏にヒアリングすることには何の問題もないだろう。少なくとも、代理人弁護士に対して、ケリー氏ヒアリングの要請をしたり、質問を送って回答を得ることは全く問題ないはずだ。ケリー氏はヒアリングの要請があれば、応じるはずだ。「逮捕されている」はヒアリングができない理由には全くならない。ケリー氏のヒアリングをすることを意図的に避けたとしか考えられないのである。

そもそも、西川氏は、ゴーン氏やケリー氏に、「ボーナスの増額をしてほしい」と頼んでいたのである。その西川氏の側で、受領した報酬について、金額やその根拠を確認しないことはあり得ない。

それを、西川氏は、「秘書任せにしていて、金額の明細を確認しなかった」と、不合理な説明をしている。日産は、そのような西川氏の供述を丸呑みしたのである。そして、その「秘書任せ」が、西川氏の唯一の「社内規定違反」だというのであるから、全くの茶番である。

「子供じみた言い訳」を可能にする「検察との関係」という“絶対的な切り札”

西川氏が言っているのは、「ゴーン氏に、ボーナスを上げてもらうよう『おねだり』したら、側近のケリー氏が、その方法を西川氏に具体的に話すことなく、SARの行使日をずらすという『不正』までして、気前よく報酬を増額してくれた」という、子供じみた「言い訳」である。その「言い訳」をそのまま受け入れたのが、西川氏のSAR報酬不正受領についての調査結果だった。そのような社内調査結果で終わらせることは、真っ当な神経をしている法務・コンプライアンス担当者であれば耐えられないはずだ。日産のコンプライアンス担当で、社内調査を担当したムレイ理事が今月10日に退社するというのも、このような西川氏のSAR報酬の社内調査をめぐる問題と無関係ではないであろう。

日産の社内調査で、「言い逃れ」を崩すことは容易なのに、なぜ、それをしない、できないのか。なぜ、そのような不十分な調査結果が、監査委員会にも取締役会にも受け入れられてしまうのか。そこには、ゴーン氏の刑事事件に関して、これまでずっと指摘し続けてきたガバナンスの根本的な問題がある(【「日産・ゴーン氏事件」に表れた“平成日本の病理”(その1)~企業ガバナンスと透明性】)。

現在の日産のガバナンスは、西川氏が中心となって起こした「ゴーン氏追放クーデター」を原点とするものである。西川氏の「違法」「不正」を認めることは、その原点を否定し、検察と日産が「二人三脚」の関係で行おうとしているゴーン氏の刑事事件の有罪立証を根底から崩壊させてしまいかねない。

西川氏のSAR報酬の不正受領の問題は、検察の捜査で、ケリー氏等の関係者から聴取し、資料を確認すれば、西川氏の意図的な不正であることは簡単に解明できることだ。しかし、検察はそれをしない。検察と西川氏との間に、ゴーン氏の刑事責任追及のために日産が全面協力し、その代わり西川氏の刑事責任は問わないという「ヤミ司法取引」があることは明白だ。

そのことは、私が、ゴーン氏逮捕直後から指摘してきたし(【日産幹部と検察との司法取引に“重大な疑念” ~有報関与の取締役はゴーン氏解任決議に加われるか】)、特に、西川氏がCEOに就任した以降の有価証券報告書虚偽記載について、ゴーン氏・ケリー氏が起訴されたのに、報告書を提出した西川氏が不起訴処分とされたことが刑事処分としてあり得ないことを指摘してきた(【朝日が報じた「西川社長、刑事責任問わず」の“珍妙な理屈”】)。この問題については、西川氏の不起訴処分の不当性について、検察審査会の審査が行われている。

検察捜査に全面的に協力してきた日産の中心人物である西川氏を刑事立件・起訴したら、今後のゴーン氏・ケリー氏の事件での検察立証は崩壊する。西川氏が態度を翻して、検察との協力を拒絶した場合も、検察立証はたちどころに行き詰る。検察にとって、西川氏の「違法」「不正」に触れることは絶対にできない。そういう意味で、西川氏は、検察は絶対に自分の不正を認定しないという「絶対的な切り札」を持っている。だからこそ、不合理極まりない言い訳を押し通す西川氏に対して、社内調査も、監査委員会も、取締役会も、それを崩そうとすることすらできなかったのだろう。

それは、日産という企業の現在のガバナンスの根本的な問題なのである。

日産のガバナンスに関する「根本的な問題」は未解決

今回、日産の取締役会が早期辞任を求め、西川氏が辞任に追い込まれたのは、「最低限のガバナンス」が働いたことを示していると言えよう。しかし、日産という企業のガバナンスの問題は、それだけで終わる問題では全くない。

根本的な問題は、社長の西川氏が中心となって、ゴーン氏を代表取締役会長の座から引きずり下ろした方法自体のコーポレートガバナンス上の問題だ。

西川氏は、社内調査結果を、取締役会での議決を経ることなく検察に持ち込み、検察に代表取締役2人を逮捕させ、2人を取締役会から強制的に排除した上で、代表取締役の座から引きずり下ろした。まさに、会社法の規律とガバナンスを根本から否定するやり方だ。

今後、ゴーン氏・ケリー氏・日産の公判が始まり、検察の突然のゴーン氏逮捕の逮捕容疑となった有価証券報告書虚偽記載に関して、西川氏自身の関与など様々な問題が明らかになってくる可能性が高い。日産の取締役会は、「ゴーン追放クーデター」が果たして正当だったのか、西川社長体制下と同様の対応を続けていって良いのかという、ガバナンス上重要な問題に直面することとなる。その点について、十分な議論ができる状況になるのかが、最大の問題である。

西川氏の「実質支配」が続けば、日産はガバナンス不全で崩壊か

問題は、代表取締役CEOを辞任した西川氏と日産との関係は、今後どうなるのかである。会見で、「社長辞任後は、日産と全く無関係になるのか」という記者の質問に答えて、「CEOを退くということ以外は、これからご相談して決めていく」と答えた。その後の報道では、西川氏は、CEOを辞任しても取締役の地位にはとどまり続けるということのようだ。検察との関係で「絶対的な切り札」を持つのが西川氏である。社長を退いた後も影響力を残し、「実質支配」のような関係が続くことも十分に考えられる、

そうなると、日産のガバナンスは、根本的には何も変わらないことになる。それによって、日本を代表する自動車メーカーは、深いガバナンスの病巣を抱え続けることになる。

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