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なぜ「ひろゆき」はネット民から見放されたのか

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匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者・西村博之(ひろゆき)氏は、ネットの表舞台から姿を消しつつある。社会学者の鈴木洋仁氏は「〈ひろゆき〉は、他人が考えたアイディアに乗るだけという『暇つぶし』の人。このため徐々に従来の支持者からすら見放されつつある」と指摘する——。

※本稿は、鈴木洋仁『「ことば」の平成論 天皇、広告、ITをめぐる私社会学』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

2011年、モヒカン刈りで出頭した堀江貴文受刑者の隣に立つ西村博之氏 - 写真=アフロ

50件以上訴えられても賠償金は未払いのまま

「2ちゃんねる」(現在は5ちゃんねる)と「ニコニコ動画」、という「平成」日本を代表するネットコンテンツの生みの親・西村博之氏(以下、〈ひろゆき〉)は、これまで幾度となく「逮捕」や「摘発」が取り沙汰されてきました。

実際、平成24年(2012年)12月20日には、麻薬特例法違反(あおり、唆し)幇助の疑いで、警視庁から東京地方検察庁に書類送検されています(その後、不起訴処分)(*1)。また、翌平成25年(2013年)8月には、2ちゃんねるの広告収入約3.5億円を受け取り、うち約1億円について申告漏れを東京国税局から指摘されたと報道されています(*2)。

週刊誌の見出しで言えば、「警視庁がたくらむ『2ちゃんねる撲滅作戦』」(『週刊朝日』2011年12月16日号)のような煽(あお)り文句が躍ったことも1度や2度ではありません。

また、平成19年(2007年)3月の時点で、2ちゃんねるへの誹謗中傷の書き込みへの民事責任を問われた名誉毀損訴訟を全国で50件以上提起されています。そのほとんどに一度も出廷せず、ほぼ自動的に敗訴判決が確定しています。にもかかわらず、賠償金は未払いのままでした。それに対する制裁金が少なくとも合計5億円にのぼる、と報じられています(*3)。

刑事面では捜査当局からの追及を受け、民事の面では多くの損害賠償請求訴訟を起こされています。しかも、それぞれについて、法律による規制の「網を掻い潜る(かいくぐる)」知能犯と見られるような発言をしています。

*1)読売新聞2012年12月21日朝刊
*2)読売新聞2013年8月24日朝刊
*3)読売新聞2007年3月20日朝刊

「小者でニュースバリューがない」存在

現実の話として、僕はこれまで刑法に触れるようなことをしたことはないです。ライブドアの堀江(貴文)さんみたいに、敵を作ったこともない。だいたい僕は、東京地検とか警視庁の捜査対象の人としては、小者すぎます。ネットをやらない人は、僕のことを知らないんじゃないですか。(中略)マスメディアが取材するほどのことも別にやってないし、ニュースバリューがないっていうところに落ち着くと思うんですけどね(*4)。

当局を牽制する意味も込められているのでしょう。

けれども、こうした発言をしてしまえば、小馬鹿にされたと感じた捜査側の対抗心をあおる結果にもなりかねません。ただ、〈ひろゆき〉という存在を、あくまでもロジックに基づいてとらえれば、「小者」であり、「ニュースバリューがないっていうところに落ち着く」ほかありません。ここで触れた報道については、堀江貴文の逮捕時のような盛り上がりは皆無だったと言えます。

加えて、「『2ちゃんねるは、アメリカのサーバーでアメリカのサービスです』と言い張った途端、日本の法律が何も通用しないという現実がある」(*5)。である以上、〈ひろゆき〉や2ちゃんねるを「まだまだコントロールできる存在だから逮捕していないだけ(*6)」でしょう。

〈ひろゆき〉という日本人が運営しており、捜査協力も行っているからこそ、息の根を止められません。この認識は、少なくとも現在までのところロジックが通っています。

他人のアイデアに乗る「暇つぶし」に生きてきた

また、民事訴訟についても、「処理できない量の訴訟を起こしてしまえば、自動的に賠償金が認められてしまう」。この点についても、「賠償金に関しては支払わなくても刑事罰が発生することはない」という点も、ともに「変なルールだと思う」としながらも、次のように開き直っています。

ルールとしては問題があると思うのですが、悪法も法という言葉があるように、とりあえずは決められたルールの中で、対処するしかないのです。(*7

こうして〈ひろゆき〉の発言を並べてみると、確かに、法律や倫理をあざわらうようにも読めます。しかしながら、〈ひろゆき〉の個性は、「ロジカルに生きる」スタイルへのこだわりにあります。

それは、昭和51年(1976年)に生まれ、数々のIT起業家が生まれた「ナナロク世代」のエンジニアだからのみならず、何かをゼロから作るのではない、他人が考えたアイディアに乗るだけという「暇つぶし」のロジックです。

*4)ひろゆき「世界の仕組みを解き明かしたい」『本人』vol.09、太田出版、2009年、17p
*5)ひろゆき『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? 巨大掲示板管理人のインターネット裏入門』扶桑社新書、2007年、11p
*6)ひろゆき、同上、13p
*7)ひろゆき、同上、133p

自らの逮捕や摘発という「ニュースバリュー」や、民事訴訟における「変なルール」といった、他人が考えたアイディアがあります。これに対して、それぞれ、「小者」や「とりあえずは決められたルールの中で、対処するしかない」と述べています。その理由は、ロジカルに考えた結果にすぎません。

「ロジックって考えるための材料があるんで、勝ち負けじゃなく、誰しもが同じレベルに立てる理論。なのに、世の中ロジックを使わない人が多いんですよ」(*8)と、〈ひろゆき〉は訝(いぶか)しんでいます。

ロジックが通じる“活字”の世界へ

つけ加えると、単なる愉快犯でもありません。2ちゃんねるやニコニコ動画を、「もう少し社会的に価値のある情報を主体に、いろいろな情報が流通している場所をつくりたかった」(*9)と位置づけています。社会的な出来事への関心は、常に高いものがあります。

ですから、たとえば、ネットの流行や、事件、事故、とりわけ、発言等に批判が殺到する「炎上」については、『日刊SPA!』誌上での連載「ネット炎上観察記」を平成20年(2008年)から令和元年=2019年まで11年間にわたって続けました。現在(8月22日時点)では、「僕が親ならこうするね」と題した教育論に変えたものの、連載自体は続けています。

そして、ウェブサービスの考案者であるにもかかわらず、まとまった発言を、ネット上ではなく、活字で展開しています。メインステージは活字です。それはこれまでの引用からも明らかです。実際、現在も「僕が親ならこうするね」と、堀江貴文との対談連載(「帰ってきた! なんかヘンだよね…」『週刊プレイボーイ』)の2本の週刊誌連載を抱えています。

しかも、近年では、『無敵の思考 誰でもトクする人になれるコスパ最強のルール21』(大和書房、2017年)をはじめ、矢継ぎ早に本を出版しています。そして、そのメッセージは、あくまでも活字読者に向けられています。ネット上での自らの発言を、「暇つぶしのネタ」として、「何かちょっとでも自分が絡める話題があれば一言言いたい」人たちの燃料として提供するのではありません。

活字を追いかけてくれているロジックの通じる相手を見ています。「ある程度年齢がいっていないと、文字を読んで面白いと感じない」(*10)からです。

*8)ひろゆき『僕が2ちゃんねるを捨てた理由 ネットビジネス現実論』扶桑社新書、2009年、223p
*9)西村博之×前田邦宏「オンラインコミュニティの現在 もうひとつのコミュニケーションチャンネルを探る」『Human Studies』29 電通総研、2002年、9~10p
*10)ひろゆき『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? 巨大掲示板管理人のインターネット裏入門』扶桑社新書、2007年、160p

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