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「多弁マーケ」の副作用

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 9月12日の朝、ヤフーがZOZOを買収するというニュースがあった。この買収については、ヤフーのEコマース事業の強化という発表があったものの、憶測記事も含めてほとんどノーマークだったので驚きを持って迎えられた。前澤友作氏は社長を辞任することになった。現在(午後6時過ぎ)、会見が開かれている。Tシャツ姿で吹っ切れた表情が印象的だ。AbemaTVの生中継を観ているが、前澤氏からは沢田宏太朗新社長の紹介に終始し、当然ながら今後の経営に影響を与える重要な発言はなかった。二部で個人的な話をするとのことだが、ここでは前澤氏の個人的な事柄は直接関係しないので、このエントリーを投稿することにする。

 同社のカリスマ経営者が経営から離れることがZOZOにとってどう影響するのかは今後を見守るしかないが、ZOZOの広告・マーケティングを注意深く追ってきた者として、ここまでの流れは必然だったという思いがある。新刊『超広告批評 広告がこれからも生き延びるために』池本孝慈著(財界展望新社)に収録されているZOZOについての論考を一部引用してみたいと思う。

 この論考で〈前澤前社長には企業が持つべき倫理観と、広告戦略の再考が求められていることは間違いない〉と書いたが、ヤフーによるTOBでのZOZO買収と、前澤社長の辞任及び個人所有株式35%分の30%分(現在の時価換算で約2400億とのこと)を手放し、ほぼ完全に経営から離れることでそのことが果たされるとは思いもしなかった。

 個人的には、ベンチャー企業だったZOZOの成長に破天荒な前澤社長の経営手法が果たした役割は大きいと思うが、一部上場の代表的企業となり、巨大な組織になった今、その手法に限界が来たのではないかと思っている。そういう意味では、今回の決断はさらなる拡大と成長を目指すZOZOにとっても前澤氏個人の新たなチャレンジにとっても最適解なのではないかと考えている。なお、以下引用の文章の執筆は2019年3月であることを予めお断りしておく。

   *     *

 2018年10 月1日、日経新聞に〝妙〟な広告が掲載された。文化祭のような軽いノリのスナップ写真に映る若い社員たち。そのいくつかに笑顔で映る男性こそ、ZOZOの前澤友作社長である。

 広告のコピーは〈拝啓、前澤社長。〉ファッション系ECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイが現社名に変更する際に出稿したものだ。

 広告の長い文章を要約すると、〈社長が次々と巻き起こす話題や騒動〉に呆れ果てていたが、〈宇宙へ羽ばたこうと〉〈興奮しながら夢を語る〉前澤社長を見て、自分たち社員も頑張ろうと思った、という内容だ。前澤社長への崇拝が恥ずかしげもなく描かれた、徹底的なまでの内向き思考。当時は単に幼稚で気持ち悪い広告だという印象だったが、今となっては現在のZOZOが置かれた状況を予言しているように思える―。

 1月末、ZOZOは3月期経常利益を19 %減益に下方修正することを発表した。しかしそれよりも耳目をひいたのは、前澤社長が〈本業〉への集中を理由に、しばらくツイッター投稿の休止を宣言したことかも知れない。

 前澤社長と言えば、女優・剛力彩芽との交際を公言したり、ツイッターでプロ野球球団を経営したいと唐突に呟いたり、月旅行計画をぶち上げるなど〝やりたい放題〟の人物として、メディアで取り上げられるのが常だった。

 しかし広告視点で見れば、その奔放さは経営目的を達成するために綿密に設計された広告戦略、広く言えば、前澤社長によるコミュニケーション戦略に従って忠実に振る舞われてきたように見える。

 なぜか。ここ数年、ZOZOはファッション分野において一気に覇権を握る、その一点にあらゆる経営資源を注ぎ込み、拡大路線をひた走ってきた。その目的を達成するために設計された広告戦略、コミュニケーション戦略こそ、前澤自身の「メディア化」だった。

 当然ながら急速な拡大路線の前では、企業に求められる倫理や十全な準備は足枷となる。しかし、時代の挑戦者たる前澤社長ならば、多少の倫理的逸脱や不備があっても許され、応援されることになる。結果、企業が考慮すべき倫理や責任が特別に免罪されるという現象が起きる。それが、「前澤メディア化戦略」の果実である。

 象徴的なのが、17 年にテレビCM等で主に若者向けに大々的に広告を打った「ツケ払い」だ。商品購入の2カ月後に代金を支払えばいいというもので、つまりはローンサービスだが、当然、安易な利用が社会問題を引き起こし兼ねない性質のものだ。実際、多くのECサイトも同様のローンを採用、提供しているが、そんな懸念からか大々的な広告は行っていない。

 しかしZOZOは「ツケ払い」という品のない言葉で煽り、積極的な広告戦略に舵を切った。悪影響があろうが自分たちの知ったことではないということだろう。

 今年の正月、前澤社長は自身のツイッターで〈総額1億円のお年玉〉と題し、100名に100万円を現金でプレゼントするキャンペーンを行った。〈(ZOZOの)新春セールが史上最速で取引高100億円を先ほど突破〉したことの〈感謝を込めて〉としたが、あくまで前澤社長の個人資格という名目だった。

 しかし、これも「ツケ払い」を行った心理と構造は同じである。

 本来なら、企業がこうしたキャンペーンを行う場合、様々な広告規制を受けることになる。公正取引委員会の制約や株主や消費者の目もある。だから「個人で」なのだろうが、ツイッターで同様の例がないから止められる理由がなかっただけで、その行為は極めて〝グレー〟である。

 つまり〝脱法的〟なのだが、メディアでは称賛の声が目立った。つまり、脱法性への疑念を英断という評価に変えたのが、この場合のメディア化戦略だったのである。同キャンペーンはテレビで盛んに報道され、前澤社長はリツイート世界記録を樹立するに至った。

 これを企業のキャンペーン=広告と見た場合、その費用対効果は絶大である。現状、これほどコスパが高い広告は真っ当な手法では不可能だろう。こうしたコミュニケーション戦略は、急成長中のZOZOの最大の武器であった。社会的責任のために考慮すべき、あらゆることを免罪する禁断の〝打ち出の小槌〟だったと言える。

 しかし、そこには副作用がある。前澤社長が一度呟けば、社会に影響を与えられるが、当然、その即効性はマイナスの部分をも露呈させる。そして、その副作用の影響は社内においても現れる。社長と、それを崇拝する社員をベースとした甘い関係は熟慮の育成を阻み、前澤社長以外の外部社会への配慮を消し去ってしまうことだ。

 典型例が「ZOZOスーツ」の失敗と3月期経常利益の下方修正の主たる要因となった「ZOZO ARIGATO」と名付けられた有料会員制度だろう。

 ZOZOスーツは無料配布された白い水玉模様のついた全身タイツを着用し、スマホで撮影することで身体のサイズが読み取れ、各人にぴったり合う「オリジナルアイテム」が手に入るという触れ込みだったが、ビジネススーツの不具合とその修正に伴う出荷遅れが問題となり、前澤社長自身「将来的に廃止予定」とツイートするなど、散々な代物であった。失敗の理由は単純明快で、テクノロジーが未熟なため、まだ世に出せる代物ではなかったからだ。

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