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残業帰りはコンビニに近づくべきではないワケ

食事も取らずに遅くまで残業した帰り道、いつもなら“もったいないから”と買わないようなものまでコンビニで買い込んでしまった経験はないだろうか。東京大学経済学部の阿部誠教授は「残業後こそ衝動買いが起きやすいタイミングである」という——。

※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

意思決定プロセス「ヒューリスティック」の構造

人間の認知機能には限界があるため、効率よく情報を処理するための単純化された意思決定プロセス「ヒューリスティック」を用いることがあります。たとえば商品をよく吟味することなく、“CMをよく見るから”“一番売れているから”といった理由で購入を決めることです。消費者がヒューリスティックを用いるかどうかは、商品に対する関与(興味)と知識(能力)が大きな要因であることが分かっています。

それでは、商品とは関係のない源泉(たとえば私生活での経験、天気や店舗などの外的環境など)から生じた“気分”は、情報処理のプロセス、そして購買行動にどう影響するのでしょうか?

以下のような状況を考えてみてください。

3カ月間、ずっと取り組んできたプロジェクトも完了して、外は桜の開花も間近な頃。気分もすこぶるよく、あなたはアウトレットモールに出かけました。「自分へのご褒美」ということで、贅沢三昧(ぜいたくざんまい)をしますか?

逆に、職場での人事評価が悪かったため昇給が見送られ、鬱々としている中、外は寒々とした雨が降り、気分が落ち込んでいるときにモールに行った場合はどうでしょう。ヤケ買いをしますか?

ではネガティブなムードを誘発するとどうなるか

ここでは、“気分”のことを「商品とは無関係な要因から生じた感情」と定義して、商品に由来する感情(ブランドイメージ、好感度など)と区別して話を進めます。ちなみに、英語の「ムード(mood)」は「気分」のことを指し、日本語における「雰囲気」という意味合いは持ちません。

一般的に社会心理学では、ムードを、ポジティブとネガティブの2方向に大きく分けて、それらが、消費者の情報処理や商品の評価にどう影響するかを分析します。その際の実証実験では、被験者に対してポジティブ、あるいはネガティブなムードを誘発するために、映像や音楽の視聴、架空ストーリーを読んでもらう、過去の(よい/悪い)出来事を思い出してもらうことなどによって操作したあとで、商品への評価や判断を答えてもらうというのが、通常のアプローチです。

気分のよいときは商品をあまり熟慮しない

まずは情報処理に関して、ムードが与える影響を見てみましょう。ドイツのハイデルベルク大学の心理学者シュワルツらは、ネガティブなムードは、状況に問題があることを想起させて、努力を要する論理的かつ分析的な、熟慮型の意思決定プロセスを発動させる傾向が強いと主張しています。一方、ポジティブなムードでは、状況を楽観的に捉えて、努力を要さない連想的かつ経験的な、直観型の意思決定プロセスを用いる傾向が強いといっています。つまり、気分のよいときは、気分が悪いときに比べて、商品をあまり熟慮しないということです。

次に商品・サービスに対する評価に関して、ポジティブ、またはネガティブなムードが与える影響を見てみます。ある研究では、ポジティブなムードの状態にある被験者の方が、ネガティブなムードの状態にある被験者よりも、スニーカーの評価において、高い好感度を持つことが示されました。その理由として、誘発されたムードが商品とは無関係であったにもかかわらず、そのムードは商品から生じたものであると考えてしまう、「感情一致効果」と呼ばれるものであると説明されています。

かしこい消費者の考え方

ここでは、被験者たちがヒューリスティックによる直観的な判断を行っているため、外的に誘発された気分の原因が、誤って商品に帰属されたからです。事実、誘発されたムードが、商品と無関係であることを(ヒントを与えて)強制的に意識させたり、商品のことをよく考えるよう、熟慮型の意思決定プロセスの発動を促したりすることによって、評価に対するムードの影響が弱まることが確認されました。

かしこい消費者は、購買状況において、いまの気分が何に起因するのか、それが商品と関係しているのかをよく考えることが重要です。そして、特にポジティブなムードのときには、注意が必要です。ヒューリスティックを使うことにより、その場の気分に流され、商品を過大評価する傾向が強まって、不本意な買い物をしてしまうことがあるためです。

ムードがポジティブなときに注意!

最後に、ムードが購買行動に与える影響を、衝動買いの文脈で考えてみます。衝動買いは情動的、直観的な意思決定プロセスを用いるため、非合理的な判断や購買後の後悔につながる可能性が高くなります。したがって、人はどのようなときに直観的な意思決定プロセスを用いる傾向が強いかを理解すれば、衝動買いが起きやすい状況が分かります。

阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)

商品に関連する要因では、関与(興味)が低いか、知識(能力)が低い場合に、そして商品に関連しない要因では、ムードがポジティブなときに、それぞれ、直観的な意思決定プロセスが使われやすいことを説明しました。

直観的な意思決定プロセスの特徴として「努力を要さない」があるため、情報処理、自己制御などの認知資源が枯渇していると、それが発動されやすくなります。したがって、空腹や疲労のとき、あるいは頭の中でさまざまなことが並列処理されていてストレスがたまっている状況において、直観的な意思決定プロセスによる衝動買いが起きやすくなります。食事も取らずに遅くまで残業した帰り道、ついコンビニで無駄な買い物をしてしまう人がいるかもしれません。それはまさにこのようなメカニズムが働いているからなのです。

その他の商品に関連しない要因としては、男性より女性が、また驚きや新奇性といった快楽的欲求が強い人の方が、衝動買いをしやすいことが既存研究から分かっています。衝動買いは、あなたが驚きや新奇性を好み、気分がよいときや空腹・疲労・ストレスのとき、関心が低かったり、知識のない商品に対して起きやすい、ということを自覚していれば、少しは避けられるのではないでしょうか。

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阿部 誠(あべ・まこと)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得後、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。おもな著書に『(新版)マーケティング・サイエンス入門:市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)などがある。
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(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 阿部 誠)

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