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北東アジアの平和のため、日韓の信頼関係修復の努力を始めることが両国の国益につながる ―安全保障専門家3氏が一致



2019年9月11日(水)
出演者:
香田洋二(元自衛艦隊司令官、元海将)
小野田治(元航空自衛隊教育集団司令官、元空将)
増田雅之(防衛研究所 地域研究部中国研究室、主任研究官)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 韓国による日韓のGSOMIA(包括的軍事情報保護協定)の破棄を受け、言論NPOは9月11日(水)、「日米韓3ヵ国による安全保障システムを今後も維持することは可能なのか」をテーマに座談会を開催しました。この中で、元自衛艦隊司令官で元海将の香田洋二氏ら3氏の安全保障専門家は、北朝鮮に融和的な韓国世論が強まる中で、日韓の防衛当局間が戦後積み重ねてきた信頼関係の修復は極めて困難な作業だとしながらも、日本と韓国が協力して米国の同盟関係を支えることが北東アジアの安定、日韓両国の国益に不可欠であり、そのための関係改善の努力を始めることが重要だ、という認識で一致しました。

 議論には香田氏のほか、元航空自衛隊教育集団司令官で元空将の小野田治氏、防衛研究所の地域研究部中国研究室で主任研究官を務める増田雅之氏という、言論NPOが進める北東アジアの平和メカニズム構築の議論に携わる3氏が参加しました。


文政権はまだ、米韓同盟自体を壊す意図は持っていない

 まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、GSOMIAの破棄を受けて最も懸念していることは何なのか、と尋ねました。



 香田氏は、日米、米韓という別々の同盟を米国がつないでいる構造を説明し、「GSOMIAによって、二国間の同盟が存在しない日韓の協力関係を制度化し、中国、ロシア、北朝鮮に対して『日米韓がしっかり協調できる』というシグナルを送ることができていた。しかし、韓国がそれを切ったことで、安定した三角形がフラフラした二つの同盟に戻った、という印象を、北京やモスクワに与えることになる」と、GSOMIAの意義と、その破棄が与える影響の大きさを強調しました。

 増田氏も、中国専門家の観点から、「中国はこの地域で米国の同盟関係にくさびを打ち込みたいと考えており、その中で韓国は最も脆弱なところだと考えている。中国の戦略は黄海や台湾まで面となって広がっており、日米韓の弱体化を突かれると、他の地域の安全保障戦略にも影響が出る」と語りました。

 工藤はさらに、「単に二国間関係の中で日本を懲らしめようということなのか、それとも日米韓の安全保障システムから離脱しようとしているのか」と、文在寅政権の意図はどこにあるのかを問いました。

 香田氏は、GSOMIA破棄には韓国の外務省、国防省の事務レベルでは反対だったが、文大統領周辺の非合理的な判断で覆された、と解説。破棄の直前に訪韓した米国のエスパー国防長官がGSOMIAの維持を要求していたにもかかわらず、「GSOMIAは戦争同盟だ、破棄せよ」という北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の主張に沿う決定をしたことは、「米韓同盟に取り消すことのできない傷を残した」と指摘しました。

 一方、小野田氏は、GSOMIAの破棄を日韓の二国間関係の枠組みでとらえていたところに韓国政府の読み違えがあった、とし、「実は米韓関係を壊したということに、韓国自身が驚いている」と発言。日米韓の協力関係の枠組み自体を壊そうという意図は韓国側にもなかったのではないか、という解釈を示しました。

韓国世論の南北統一志向の高まりは、長期的に韓国軍のマインドにも影響する

 これに対し工藤は、文大統領が8月15日の演説で「2045年に朝鮮半島を統一する」という目標を語ったことなどを挙げ、「こうした動きとGSOMIA破棄が関連しているのであれば、文政権が本当に日米韓連携からの離脱を考えているのではないか、という懸念が出てくる」と、疑問を投げかけました。

 香田氏は、2045年の統一目標自体は「文大統領の信念だと思う」とし、「ただ、そのときに米韓同盟をどうするかは言っていない」と述べました。そして、最近の韓国世論の状況について、「2015年くらいまでは、ソウルに行けば誰もが『統一は50年先』と言っていたが、今は『2045年』の話が出ても誰も文句を言わない。韓国世論が分極化する中で、統一志向、反米的な志向を持つ人たちの主張が強まっているのを文大統領が利用しているのではないか」と指摘。こうした変化の中、日韓の防衛当局間が戦後積み上げてきた信頼関係を修復するには気の遠くなる努力が必要だ、という見通しを示しました。

 小野田氏は、日韓の信頼関係について、両国の事故防止協定に基づくホットライン(直通電話)により、防衛当局が対馬海峡付近を飛ぶ航空機の情報をやり取りしていることを説明。「7月、中国とロシアの爆撃機が初めて共同で日本の防空識別圏に入ってくるという出来事があったが、その情報もGSOMIAや事故防止協定の範囲外であるにもかかわらず、両国の信頼関係に基づきホットラインで共有されている。しかし、世論の雰囲気やそれを受けた政治家の言動が韓国軍のマインドに大きく影響する可能性がある。韓国で今のような政権が10年続けば非常に危うい状況になる」と懸念しました。

日韓が協力して米国を支えなければ、日本や韓国自身の利益にもならない

 こうした意見を受け、工藤は「北朝鮮の核開発やトランプ米政権の存在など様々な要素がある中で、関係修復はかなり大変なのではないか」と3氏に尋ねました。

 香田氏はそれでも「関係改善の努力を始めるべき」と主張。トランプ政権もアジアの安定自体には関与しようとしている、とした上で、「インド太平洋地域で不測の事態が起きたとき、米国を支えられる軍事力を持つ同盟国は日韓豪くらいしかない。日韓が協力して米国を支えなければ、日本や韓国自身の国益にもならない」と、その理由を語りました。

 増田氏も「日韓は関係を切ることができない国だ」とし、関係改善に向けた政治の役割について、「文大統領の性格や、日韓二国間の関係という閉じた議論ではなく、なぜ日韓の防衛協力が大事なのかを日本から主張し続けないといけない」と、香田氏と同様、地域や世界という大きな視点からの議論が重要だという認識を示しました。

 小野田氏は「同じくらいの国力を持つ国同士が、相互の主張をどうしても理解できないなら、離婚しかない。もう一つの選択肢はコラボレーションであり、その根っこにあるのは対話だ」と発言。今の緊張状態の要因を「韓国だけでなく、日本側の強硬な対応にも間違っているところはある」と指摘し、「政府間で対話が難しければ、民間対話を積み重ねるしかない」と語りました。

 これに関連し、香田氏は世論の重要性を強調。「文政権は世論を煽って日本に揺さぶりをかけている。日米韓体制の維持を望む韓国軍は歯がゆいだろうが、何とか我慢している状況だ」とし、「シビリアン・コントロール(文民統制)は万能の解決策ではない。世論が本当に間違うと誰にも立て直せない」と述べました。

 最後に工藤は「今日は、この地域における日米韓協調の枠組みをどう維持するか、という点に絞って議論した」と、座談会の目的を説明。世論がナショナリズムに走るのを食い止めつつ、北東アジア地域の平和の仕組みづくりを政府や世論に働きかける言論NPOの民間対話をより大きな動きにしていくことに意欲を見せ、議論を締めくくりました。

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