記事

パブリックコメントとは何か、黒岩知事の不快感とは?

 神奈川県では、医学部の新設を計画しているようですが、その是非についてのパブリックコメントの結果が、
 意見446件のうち、反対は424件、賛成は15件、その他7件
となっています。
 これについて、読売新聞が、次のように報じています。

知事、医師会に「大変な違和感」…医学部新設で」(読売新聞2012年5月30日配信)
知事は29日の定例記者会見で「反対意見のうち、同じ様式のものが3パターン、計196件あった。幅広く県民の意見を聞く中で、非常な違和感を覚える」と批判。「医師会」との名指しは避けたが、「何かあったんじゃないかなと思わざるを得ない」と述べた。」


 圧倒的多数が反対という意見の背景事情としては県内の医師会が組織的に反対意見を出したようです。
 このような組織的動員に黒岩祐治知事が不快感を示したというものです。
 しかし、このような医師会の行動は問題なのでしょうか。
 私は、そうは思いません。もともと、パブリックコメントを求めることで、広く県民の声を聞いたとすることの方が無理があるのです。
 今回の場合、反対意見以外では、賛成15件、その他7件で計22件に過ぎません
 神奈川県の人口は900万人ですから、仮に反対意見を入れたとしても、とても「幅広く県民の意見を聞く」ということとはほど遠いということです。
 黒岩知事が、医師会に対して、どうこう言う資格はなく、むしろ県民の圧倒的多数が関心がなかったということを憂うべきであったのです。それからしても今回の提案は、白紙撤回すべきことでしょう。
 もともと、このパブリックコメントは、一般的にインターネットによることが多く、しかも事前の告知もなければ、締め切りが非常に短いのが特徴です。
 通常であれば、県民ないしは国民がほとんど知りようもない中で実施されることから、特に関心が強い業界団体が意見を事実上、「独占」してしまうことにつながりやすいものです。
 国や自治体がこのようなパブリックコメントを実施する目的は、1つには国民や県民の声を聞いたという単なるアリバイ作りです。
 従って、そのような場合には、当初、予定していた結論を変えることはありません。国民などの意見を聞いたということを前提に突っ走ります。
 もう1つには、今回の黒岩知事のようにあたかも自分が民主主義者だと言いたいときに実施する場合です。黒岩知事は、自分が想定していた結論と異なる結論が出たためにいら立っているのです。
 違った側面としては、政策を決定する上で、種々の意見を聞くという目的です。
 賛成にせよ、反対にせよ、なるほどと思える意見があるかどうか、そのような意見について誠意を示すことができるのであれば、実施することに価値はありますし、実施しようとする施策への疑問や反対意見に対し、回答(公表)を前提とするのであれば意味があります。
 もちろん、木で鼻をくくったような回答では意味がありませんが、その回答によって、さらなるその政策への是非を判断しうるという点では、やらないよりはやった方がよいというものにはなります。
 もともと、パブリックコメントは、世論調査としての意味合いは少ないのですから、それを前提に考えるべきものなのです。
 従って、医師会が組織的に動いたとしても、その意見の内容で判断すべきものであり、その数自体で正否が決まる性質のものではないのですから、黒岩知事が不快感を示すのは筋違いです。
 なお、私自身は、神奈川県が医学部を新設すべきとは思えず、黒岩知事は白紙撤回すべきと思います。

 他方で、今回の医師会によるパブリックコメント問題に似て非なるものに、原発のシンポで、動員ややらせが問題があります。
 この問題は、今回の医師会の問題とは、はっきり区別しなければなりません。
 電力会社や自治体が主催し、広く住民の意見を聞きたいというときに、当事者が住民になりすまして、「賛成」を述べるのは明らかな欺瞞行為です。
 政府や権力者が自分がやりたい政策を正当化するために、あたかも「住民」を装って「賛成」を述べるのですから、自作自演の茶番そのものということになります。だから、大きな批判を浴びたのです。
 裁判員制度に関するタウンミーティングもやらせが問題とされたのも同じです。

 これに対して、政府や権力者の政策に反対するために、組織をあげて反対するのは、むしろ当然のことです。政府、電力会社主催の原発シンポに原発反対派が動員を掛けるのはむしろ当然の意思表明のあり方です。
(もちろん、官製シンポに関わるべきでなく、一切、ボイコットするという選択肢もありえますが、それはあくまでどちらを選択するのかという戦術の問題です。)
 あるいは、労基法を「改悪」するということになれば、労働組合が組合員を動員して反対行動を取るのは当然のことです。それがパブリックコメントであろうと違いがあろうはずがありません。意思表明の場が集会とかデモだけでなく、パブリックコメントという場ができた以上、それを通じて意思表明をするということですから、当然の行動です。
 今回の医師会の行動はそれにあたります。

 これと「国民の声を聞く!」という趣旨で開催する公聴会やタウンミーティングで政府や電力会社が一般国民を装って動員して行われる自作自演とは、明確に異なるということです。
 原発などの公聴会で動員が問題にされたのは、あくまで一般市民を装っていたからです。
 反対派だって動員しているではないかという言いがかりをつける人たちがいましたが、反対派は反対派として動員しているのであって、全く意味が異なるのですから、このような言いがかりに振り回されないようにしましょう。

あわせて読みたい

「メディア」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    菅首相に見る本読まない人の特徴

    山内康一

  2. 2

    パワハラ原因?オスカー崩壊危機

    渡邉裕二

  3. 3

    公選法に抵触 毎日新聞の終わり

    青山まさゆき

  4. 4

    都構想反対派が自壊 主張に疑問

    青山まさゆき

  5. 5

    TBS番組が伊藤健太郎逮捕で誤報

    女性自身

  6. 6

    進次郎氏の発言に専門家「軽率」

    女性自身

  7. 7

    橋下氏 毎日新聞のご飯論法指摘

    橋下徹

  8. 8

    相次ぐ「GoTo外し」観光庁に疑問

    木曽崇

  9. 9

    任命拒否 提訴できず手詰まりか

    文春オンライン

  10. 10

    菅首相を揶揄 無料のパンケーキ

    田中龍作

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。