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日本の貧困層と生活保護制度の問題

かつて日本は、国民の八割が自分の生活は「中の上」だと認識しているという、いわゆる「一億総中流社会」を形成していた。戦後の高度成長期を背景として、誰もが自分の望む仕事に就けて、毎年給料が上がっていって、会社は手厚く社員の面倒を見てくれて、退職する時は子供のマイホーム購入に一役買ってやれるだけの退職金を用意してくれる― そんな夢みたいな時代が確かに存在した。


だけど近年では、たび重なる経済危機、グローバリゼーションによる競争の激化、東日本大震災などによって、日本の雇用情勢や家計所得は低迷を続けている。「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」のように格差社会の底辺に位置する低所得層も増加していて、セーフティネットの最後の砦である「生活保護制度」に助けを求める人々が急増している。


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(出所:厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査の概況」より筆者作成)


上の図は厚生労働省が推計・発表した日本の「相対的貧困率」を年代別に示したものである。このグラフによって、90年代後半から相対的貧困率が上昇傾向であることが読み取れる。「相対的貧困率」とは、全国民における低所得者の割合のことで、全国民の可処分所得の中央値(ちなみに07年は1人あたり年間228万円)の半分(07年で言えば114万円)に満たない人の割合を指している。国際比較で考えてみても、日本の「相対的貧困率」は高い水準となっていて、日本はOECD加盟30ヵ国中、4番目に悪い数字となっている。また、18歳未満の子どもが低所得家庭で育てられている割合を示す「子どもの相対的貧困率」も高い数字を示していて、09年には15.7%だった。


では、日本は諸外国と比較して貧困層が多く、さらに人数も増加していると言えるのだろうか。


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(出所:OECD資料より筆者作成)


これは04年におけるOECD主要国による「相対的貧困率」を示してる。資料によると、日本の相対的貧困率は14.9%であり、アメリカ(17.1%)に次ぐ高さである。


だけど、いくら「失われた20年」を経験し、さらにリーマンショックなどの金融危機による打撃を受けて、中国に抜かれたとはいえ、日本が世界3位の経済大国であることには変わらない。07年の1人あたりの国民所得が約404万円に達する日本国内に、これほど高い割合で貧困層が本当に存在しているのだろうか。


実は、日本の貧困層の割合が高いのは、貧困層を「相対的貧困率」によって捉えているためなのである。ある国における貧困層の割合を把握するには、その尺度として「相対的貧困率」を使用する場合と、「絶対的貧困率」を使用する場合があるのだ。


「相対的貧困率」は、特定の国の中で他人と比較して、相対的に貧しい人の割合を測る尺度であるから、貧困層といっても、その収入の水準は国よって大きく異なるのだ。一方、「絶対的貧困率」は、収入が極端に少なくて、明日の朝食を口にできるかどうか心配しなければならないほど困っている人たちの割合を指している。世界銀行の定義では、1人あたり年間所得が370ドル(約3万円)以下、または、1日の所得が1ドル以下に満たない国民の全国民に占める割合を指している。


この「絶対貧困率」の尺度で考えると、日本の貧困層はゼロに近い数字となってしまう。つまり、日本は絶対的な貧困に苦しむ人の数は、ほぼゼロだけれど、所得格差が拡大していて、同じ国で生活している他人と比較した場合に、相対的に低所得な人が増えているということである。



吉本芸人河本準一氏の母親による生活保護費不正受給疑惑が浮上し、片山さつき議員が自身のブログでこの問題を追求する旨を掲載したことも影響して、世間の注目を集めている。さらに次々と芸能人親族による生活保護費受給がメディアで取りあげられ、福祉事務所に問い合わせが殺到しているようだ。


もともと、90年代後半の「失われた20年」の間に、日本の生活保護受給者は、世帯数・人数ともに増加の一途をたどってきたけれど、リーマン・ショック以降、急激に増加している。鈴木亘著『社会保障の「不都合な真実」』によると、2010年2月において、生活保護受給世帯、受給人数は、それぞれ132.9万世帯、184.3万人に達していて、人口対比で1.44%と、およそ国民69人に1人の割合になっている。


だけど受給者が多すぎるかどうかというと、これがなかなか難しい。実際、厚生労働省が2010年4月に発表した「生活保護基準未満の低所得世帯数推計」によれば、生活保護の水準以下の低所得世帯のうち、生活保護を受けていない要保護世帯は、229万世帯に上り、生活保護受給世帯の倍近い規模になっている。「生活保護に該当する低所得者」に対する生活保護受給世帯の割合は32.1%である。


他の先進国との比較で考えた場合、日本の公的扶助支出額のGDPに占める比率は小さいけれど、総人口に占める公的扶助を受けている人の割合は、相対的に大きい。このことから、日本の公的扶助支出額は小さいけれど、公的扶助を受けている人、つまり1人当たりの支出額は、先進国の中では大きいのではないかと考えることができる。


実際、現在の生活保護費は見方によってはかなり余裕のある水準に設定されている。例えば、東京都区部などの場合、高齢者単身世帯の食事などの生活費にあたる生活保護費は月あたり8万820円と、国民年金の満額支給(6万6000円)を超えている(鈴木)。このほかにも、医療費や介護費の自己負担分や、家賃などを別途受給できることを考えると、わずかな年金で暮らす要保護高齢者から見れば、比較にならないほど好待遇を受けていると言える。


ぼくは河本の親族による生活保護費不正受給疑惑、それをマスコミを使って取りあげた片山議員、さらにこの問題が注目されたために、生活保護費を親族が不正受給していたとされる芸能人が芋づる式に実名を晒されている件については、まったく興味はないけれど、これによって生活保護費受給者が急増して、そのために財源が不足していくことを憂慮するばかりだ。誰が不正受給を行なっているかどうかつきとめるということも一定程度は必要なのだろうけれど、それよりも1人あたりの生活保護費を少なくして、必要な貧困世帯に確実に分配することが求められるだろう。

参考文献

社会保障の「不都合な真実」

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

世代間格差: 人口減少社会を問いなおす (ちくま新書)

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