- 2019年09月09日 16:09
メディア経営のもう1つの選択肢、会員制で編集部はここまで意識を変えている
2/2インド:会員になってもらうために、何を読者に提供するか

リタ・カプール(インドのクインティリオン・メディアCEO):「クイント」というニュースサイト(無料閲読)と同時に、米ブルームバーグと協力して、メーター制の「ブルームバーグ・クイント」というサイトを経営している(4月5日のセッション「ニュースビジネスの次は何か?」)。後者は毎月7本までは無料。2年間、1年間の有料購読、あるいは記事1本ごとのマイクロペイメント体制を取っている。この2年間で5000人の利用者を獲得した。
先のクイントのウェブサイトの方は一般ニュースを扱っている。今後、会員制を新たな収入源にしようと思っている。
会員制開始にあたり、3つの特徴を考えた。
1つは市民記者としての参加だ。インドの山間地帯には、こちらのリポーターが入っていけない・入りにくい場所も多々ある。そういった地域で何が起きているかを知らせてくれる役目を果たす。読者はニュース作りに参加でき、こちらも重宝する。
2つ目はファクトチェックへの参加である。読者に協力を呼び掛けている。インドではフェイクニュースが多いが、これは、通信が暗号化されるワッツアップで広がる。外からは何が起きているかは分からない。そこで、読者にどんなうわさが出ているかを聞くことで、フェイクニュースが出回っていないかどうかを探る。
3つ目はオリジナルの特集記事で、この3つの点を持って、会員化を呼びかけた。4月から始めたばかりだが、大きく増えることを期待している。
スペイン:スクープで会員を増やす

以下の2つの例は、4月5日のセッション「会員制モデルの人気」から。
マリア・ラミレズ(スペイン「eldiario.es」のストラテジー・ディレクター):2012年、政治やルポ、調査報道を柱とする左派系メディアとして誕生した。
当時、経済危機がようやく終わりそうな頃で、既存メディアに対する大きな失望感が人々の間にあった。危機につながる事態を十分に報道できていないのではないか、政治経済のエリート層にメディアは近すぎたのではないかという疑念が人々の間にあった。それで、私たちのメディアが人気になった部分があるのではないかと思う。
急激に会員(現在は3万5000人)を増やせたのは、1年前のスクープ記事がきっかけだった。マドリード州首相クリスティーナ・シフエンテスの学歴詐欺を暴露した。彼女は最終的に辞任した。
今後、会員数を拡大するにはスクープを出し続ける必要があるのが悩みだ。現在は購読料を含む読者からの収入が40%で、広告収入は60%。将来的にはこの比率を逆にしたい。
ウェブサイトは無料で閲読できる。会員になればニュース記事が先に送られるようにしているが、プラスアルファを考える必要がある。イベントを開催すると、若い女性が多い。これを活用できないかと考えているところだ。
デンマーク:イベントで誘う

リー・コースガード(デンマーク「ゼットランド」の共同創業者・編集長):ゼットランドは、ハイクオリティーの会員制電子ペーパー。コペンハーゲンに本拠を置く。
会員が中核にあり、「会員の時間を無駄に使わせない」を読者への約束としている。広告は入っていない。毎月の購読料は17ユーロ。学生は半額だ。オランダのコレスポンデントの例を倣い、会員は記事をシェアできるようにしてあり、これで知名度を拡大させるようにしている。
毎日、情報があふれるように出ているので、ゼットランドはそうせず、デイリーのポッドキャストとニュースレターをのぞくと、1日に2本ほどを掲載する。「読み終えた」という感覚を持てるようにする。
最近の記事の1例として、厳しいしつけ・教育についての連載があった。連載終了後、書籍化した。執筆を担当したジャーナリストは国内各地で講演し、これがゼットランドへの勧誘にも貢献した。
原稿作成過程では、読者から質問を募った。例えば「妊娠中に、1日3回コーヒーを飲んでもいいのかどうか」という質問が来る。記者は探偵のようにしてこれを調べ、記事にする。会員の興味・関心が核になって、作業が進んでいく。
ポッドキャストを始めたのは、2年前に読者にどんなサービスを望むかと聞いたところ、「オーディオ」と言われたからだ。記事を読みあげてほしいという。これがすごく人気が出たので、専用アプリを作った。今、サイト利用の65%がオーディオである。読者との対話は非常に大事だ。
時々、「ライブ・ジャーナリズム」という名前で、大きなイベント(有料)を行う。会員ではない人も含め、1500人ぐらいが集まる。そこで、10本のストーリーをジャーナリストが語る。その後、ビールやコーヒーを片手に話をする。「今は情報がたくさん出ているが、人が一堂に集まって、同じ話を一緒に聞くのは非常に珍しい体験ではないかと思う」。
英フィナンシャル・タイムズ紙のライブ・ジャーナリズムのイベント

ジャーナリズム祭の別のセッションで、パネリスト(フローレンス・マーティン=ケスラー)が「ライブ・ジャーナリズム」を実践する会社「ライブ・マガジン」(フランス)を運営しているという。2014年創業。
ジャーナリスト、作家、アーチストなどを劇場の壇上に呼び、そこで「ストーリーを語る」ことをライブ・ジャーナリズムと呼んでいる。欧州各国でこれまでにいくつものイベントを行っている。(2017年の関連記事)
今年4月9日、英国での最初の試みとして、ライブ・マガジンの協力によって、英フィナンシャル・タイムズ紙がイベントを行ったので、出かけてみた。
場内の撮影・録音は許されず、「その場限り」のイベントである。場所は、ロンドン・バービカンセンター近くにある大学の講堂だ。
著名コラムニストやジャーナリストたちが、舞台の右端に並べられた椅子に座っている。左端にはピアノが1台。
一人ひとりが舞台の中央にやってきて、それぞれのストーリーを語る。例えば、昨年殺害された、サウジアラビアのジャーナリストについての思い出を語ったジャーナリスト、メイ首相(当時)への期待感がいかに失われていったかを「メイ政権は大きな冷蔵庫だ」というタイトルで面白おかしく話したコラムニスト、政治漫画家の話などに加え、株価の動きをオペラ歌手が「歌声でつづる」(株価が上がれば、声も上がるという演出)というアトラクションもあった。
笑いあり、涙ありのストーリーイベントだったが、少々お堅い感じがあった。感動まではいかなかったように思う。特定のテーマがあれば、また来ようと思ったかもしれないが。
チケットは35ポンド(約4500円)。ガーディアンの同様のイベントでは17-20ポンド(2000-2500円)ぐらいで、それに比べるとやや高い。観客は20代から60代。若者たちのグループが目立った。もしかしたら、安く入手していた可能性もある。
FT、ガーディアン、ほかの英国の新聞もイベント自体はよく開いている。また、ジャーナリストや編集者が議論をする、講演をする場合も珍しくない。
しかし、ジャーナリストたちが次々とストーリーを語る「ライブ・ジャーナリズム」的イベントは、どこかに「頂点」がないと、最後の感動にまではなかなかいかないように思う。「また来たい」という気持ちにさせてくれない。
先のゼットランドのイベントは、パフォーマンスにかなり工夫をしていると聞いている(ジャーナリストが着ぐるみに入って登場。舞台劇を思わせる)。また、イベント後の「飲み物を片手のおしゃべり」が大好評であるという。英国メディアが学ぶ部分はいろいろありそうだ。
(次回は、地方ジャーナリズムを救う試みを紹介します。)



